異世界ファンタジーまとめ2【短編集】

テタの工房

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王太子と、婚約破棄の相談

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マリウス王太子は、王宮の庭園を散歩していた。春の陽射しが暖かく、色とりどりの花々が咲き乱れる美しい景色が広がっていた。気分も良く、つい足を止めてバラの香りを深呼吸したその時だった。

「王太子殿下、よろしいでしょうか?」

背後から、上品だがどこか緊張感のある声が聞こえた。振り返ると、見慣れない女性が立っていた。彼女は落ち着いた色のワンピースを着ており、顔は上品で、どこか物憂げな表情をしていた。

マリウスは警戒した。王族である自分が、知らない女性に声をかけられることなど、まずない。しかも、その女性は、どこか鋭い眼光で彼を見据えている。

「一体、誰だ?用件を簡潔に述べよ」

マリウスは、いつも側近のエリオットを伴っていたが、今日は一人で散歩に出ていた。そのため、身辺警護は薄く、少し不安を感じていた。

女性は、少しだけ戸惑った様子を見せたが、すぐに落ち着いた表情に戻った。

「殿下、少しお話をさせて頂きたいのですが… もしよろしければ、周りの方を離れて…」

「何を言っているんだ? 周りの者を離れる? 私は王族だぞ。知らない者にそんなことを言われて、側近を離れるなどありえない!」

マリウスは、声を荒らげそうになった。しかし、女性の目には、何とも言えない切実さが宿っていた。彼女の言葉には、どこか威圧感がない。むしろ、懇願しているようにも聞こえた。

「…すみません。でも、本当に、二人きりでお話したいんです。重要なことで…」

女性は、小さく頭を下げた。その姿に、マリウスは今まで感じたことのない不思議な感情を抱いた。警戒心は残っていたが、同時に、彼女の言葉に耳を傾けたいという気持ちも芽生えていた。

少し考え、マリウスはため息をついた。

「…わかった。だが、何か企んでいるのなら、後悔するぞ」

マリウスは、周囲を見渡した。幸い、人通りは少なかった。彼は女性に促されるまま、庭園の奥にある、人通りの少ない噴水台へと向かった。

噴水の音だけが響く静寂の中で、女性は話し始めた。

「殿下、私はホリー王女殿下の…婚約破棄の相談に来ました」

マリウスは、言葉を失った。ホリー王女は、彼の婚約者だ。そして、この女性は、初対面の人間である。

「…婚約破棄?どういうことだ?」

マリウスは、混乱していた。ホリーとは、順調に婚約を進めていたはずだ。少なくとも、彼にはそう思わせていた。

女性は、ゆっくりと、そして丁寧に、ホリー王女が抱える苦悩を語り始めた。王家のしきたり、国民の期待、そして、ホリー自身の心の葛藤。彼女は、ホリー王女の親友であり、彼女が抱える苦しみを誰にも相談できないでいることを知っていた。だから、マリウス王太子に相談することにしたのだという。

女性の言葉は、マリウスの心を揺さぶった。彼は、ホリーと会う度に、彼女の笑顔の裏に隠された影を感じていた。しかし、彼は、その影を無視していた。王太子としての義務、そして、ホリーの華やかな外見に惑わされていたのだ。

女性の話が終わる頃には、夕日が西の空を染めていた。マリウスは、今まで知らなかったホリーの苦悩を知り、自分の無知を恥じた。

「…ありがとう。君の話を聞いてよかった」

マリウスは、女性に感謝の言葉を述べた。彼女は、ただ静かに微笑んだ。

「殿下、どうか、ホリー王女殿下を…幸せにしてあげてください」

女性は、そう言って、静かに去っていった。マリウスは、彼女の後ろ姿を見送りながら、自分のこれからについて、そしてホリーとの未来について、深く考え込んでいた。

翌日、マリウスはホリーに会いに行った。そして、彼女に、婚約を続けるかどうかの選択を委ねた。王族としての義務ではなく、一人の男性として、ホリーの気持ちを尊重すると決めたのだ。

ホリーは、マリウスの言葉に驚き、そして、涙を流した。彼女は、マリウスの優しさに触れ、初めて自分の心を素直に表現することができた。

二人は、長い時間をかけて話し合った。そして、最終的に、二人は婚約を解消することを決めた。それは、決して悲しい別れではなく、互いの幸せを願う、温かい別れだった。


それから数年後、マリウスは、別の女性と結婚した。彼は、ホリーとの経験を通して、真の愛情とは何かを学び、幸せな家庭を築いた。そして、あの庭園で出会った女性のことを、時折思い出していた。彼女は、マリウスの人生を大きく変えた、忘れられない存在だった。
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