悪役令嬢、悠々自適。

テタの工房

文字の大きさ
1 / 1

第1話

しおりを挟む
アレクシアは、庭の噴水の音を聞きながら、優雅に紅茶を啜った。真紅の薔薇が咲き乱れる庭園は、彼女の所有物だ。小説『黒薔薇の悪女』の悪役令嬢、アレクシア・ド・ヴァロアとして、彼女は今この世界に生きている。

転生した当初は、多少の驚きと戸惑いはあった。しかし、小説の内容を思い出した時の怒りは、想像をはるかに超えるものだった。物語における彼女は、嫉妬に狂い、主人公であるイザベラを陥れ、悲惨な最期を迎える存在。その運命を、彼女は断固として拒絶した。

「ふふっ、面白いわね。」

彼女は、小説の結末を知っている。だからこそ、その流れを変えることができる。イザベラという名の少女、そして、彼女を取り巻く聖人君子のような登場人物たち。彼らの偽善と、打算に満ちた行動を、アレクシアは嫌悪していた。

そもそも、この物語は、イザベラの視点から書かれたものだ。アレクシアの行動は、常に悪意に満ちたものとして描写されていた。しかし、アレクシア自身は、そうは思わなかった。彼女は、ただ、自分の幸福を追求しただけだ。

彼女の母親は、貴族の妾という立場だった。父である公爵は、彼女を愛していなかった。その事実を、アレクシアは幼い頃から知っていた。そして、イザベラとその母である公爵夫人に対する、冷淡な態度も、単なる防衛本能に過ぎなかった。

「あの女たちには、何も与えないわ。」

アレクシアは、小説通りの行動はしない。主人公イザベラに媚びへつらうことも、彼女を陥れることもない。彼女は、自分の領地を経営し、経済力を蓄え、独立した生活を送ることを決めた。

彼女は、優秀な執事、そして忠実な侍女たちを従え、領地経営に励んだ。荒廃していた領地は、アレクシアの手腕によって徐々に活性化していった。新しい農法を導入し、交易ルートを開拓し、領民たちの生活水準を向上させた。

当然、公爵家からは圧力がかかった。金銭的な援助を打ち切られたり、領地の権利を奪われそうになったりもした。しかし、アレクシアは動じなかった。彼女は、公爵家からの援助に頼らず、自力で領地を繁栄させていたからだ。

一方、イザベラは、小説通りに、聖女のような振る舞いをしていた。しかし、その裏には、計算された行動が隠されていた。アレクシアは、それを知っていた。イザベラは、周囲の協力を得て、着実に自分の地位を築き上げていた。

アレクシアは、イザベラを敵視はしなかった。単に、彼女を無視しただけだ。彼女は、自分の幸福を追求するのに忙しい。イザベラとの争いに時間を割く必要など、全く感じなかった。

数年後、アレクシアは、莫大な富を築き、広大な領地を支配する、強大な力を持つ女性となっていた。彼女は、華やかな社交界に出入りすることもなく、静かに、そして優雅に暮らしていた。

小説の結末では、彼女は悲惨な最期を迎えるはずだった。しかし、彼女は、その運命を覆した。彼女は、悪役令嬢ではなく、自らの手で人生を切り開いた、成功した女性だったのだ。

ある日、彼女は、かつての敵である公爵夫人から、手紙を受け取った。それは、謝罪の手紙だった。公爵夫人は、アレクシアの成功を認め、過去の行いを悔いていた。

アレクシアは、手紙を静かに読んだ後、優雅に微笑んだ。

「もう、どうでもいいわ。」

彼女は、紅茶を一口飲み干した。彼女の心には、もはや、過去の恨みなど残っていなかった。彼女は、自分の力で幸せを掴んだのだ。そして、これからも、自分らしく生きていく。それが、アレクシアの決意だった。

彼女の庭園では、真紅の薔薇が、夕日に照らされて美しく輝いていた。それは、彼女の生き様を象徴しているようだった。悪役令嬢としての人生は、既に過去のものだ。彼女は、新たな人生を、自由に、そして悠々と生きていく。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

処理中です...