短くて怖い話4【短編集】

テタの工房

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消えぬ鉛筆、消えるシャーペン

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古びた木造校舎の三階、誰も使わない美術室。窓ガラスは埃で曇り、日差しは薄暗く部屋に差し込んでいた。その部屋には、奇妙な噂があった。シャーペンが消えるのだ。

美術部の顧問、五十嵐先生は、それを「気のせい」だと言っていた。しかし、美術部員たちは、そうは思っていなかった。特に、部長の桜井美咲は。美咲は、いつも新しいシャーペンを何本も持っていた。しかし、朝置いておいたシャーペンが、夕方には消えているのだ。

「また、消えた…」

美咲は、机の上に置いたばかりのシャーペンを確認した。先ほどまでそこにあったはずのシャーペンは、跡形もなく消えていた。机の上には、かすかな鉛筆の跡だけが残されていた。

「これ、おかしいよ…」

美咲は、震える手で、その鉛筆の跡をなぞった。それは、まるで、誰かがシャーペンを握っていたかのような、しっかりとした跡だった。

「もしかして…幽霊?」

美咲は、背筋が凍る思いだった。美術室には、古い絵画や彫刻が所狭しと置かれており、薄暗い部屋の雰囲気は、確かに不気味だった。

その日以来、美咲はシャーペンの代わりに鉛筆を使うようになった。しかし、不思議なことに、鉛筆は消えない。いくら使っても、芯は減るが、鉛筆自体は、いつもそこにあった。

「鉛筆…大丈夫なんだ…」

美咲は、鉛筆を握りしめ、安心した。しかし、その安心も束の間だった。次の日、美術室には、新しいシャーペンが置いてあった。美咲が持っていたものとは違う、全く新しいシャーペンが。

「誰かが置いたのかな…」

美咲は、そのシャーペンを手に取った。新品のシャーペンは、滑らかに芯が出てくる。美咲は、試しに紙に文字を書いてみた。

「…あれ?」

文字を書いた後、美咲は、シャーペンを机の上に置いた。そして、目を離したほんの数秒後、シャーペンは消えていた。代わりに、机の上には、鉛筆で書かれた「ありがとう」という言葉が残されていた。

美咲は、恐怖と同時に、奇妙な感動を感じた。消えるシャーペン、消えない鉛筆。その謎は解けないままだった。しかし、美咲は、美術室に一人きりになった時、鉛筆を握りしめ、静かに絵を描いていた。

それから数日後、美咲は、美術室で古い日記帳を見つけた。それは、かつてこの美術室で絵を描いていた、ある少女の日記だった。少女は、絵を描くことが大好きだったが、才能がなく、いつも悔しくて泣いていた。

日記には、こんな言葉が書かれていた。「いつか、上手な絵が描けたら…誰かに、私の絵を見てほしい…」

少女の絵は、どれも下手だったが、その絵には、少女の強い思いが込められていた。美咲は、少女の日記を読み終えると、涙が止まらなかった。

美咲は、少女の遺志を継ぎ、精一杯絵を描き続けた。そして、ある日、美咲の絵が、賞を受賞した。美咲は、その賞を、少女の霊に捧げた。

それから、美術室でシャーペンが消えることはなくなった。代わりに、美咲の描いた絵が、美術室の壁を飾るようになった。消えぬ鉛筆、消えるシャーペン。その謎は、永遠に解けないかもしれない。しかし、美咲にとって、それは、大切な思い出となった。

美咲は、今でも、美術室で鉛筆を使って絵を描いている。そして、時々、机の上に新しいシャーペンが置かれていることに気づく。それは、誰かが置いていったものなのかもしれない。あるいは、少女の霊が、美咲に贈ってくれたものなのかもしれない。

美咲は、そのシャーペンを、大切に保管している。それは、消えるシャーペンではない。美咲の、絵を描く喜びと、少女との繋がりを象徴する、大切な宝物なのだ。

そして、美術室には、今も、少女の優しい霊が、美咲を見守っている。消えるシャーペンと、消えぬ鉛筆の物語は、こうして静かに幕を閉じた。しかし、その物語は、美咲の心の中に、永遠に生き続けるだろう。
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