短くて怖い話4【短編集】

歪んだ鏡面

真夜中。僕は変な夢を見ていた。

薄暗い部屋。埃っぽい空気と、カビ臭い匂いが鼻をつく。天井には、ぼろぼろになった電球が一つだけぶら下がっていて、不気味な光を放っていた。部屋の真ん中には、古い木製の椅子が置かれ、その椅子に、おじいさんが首を吊っていた。

おじいさんは、僕の祖父に似ていた。いや、正確には、祖父が年を取って、もっとやつれた姿だった。顔は青ざめ、目は開きっぱなしで、まるで何かを訴えているようだった。首には、太い縄が食い込んで、深い溝が刻まれていた。

その時、部屋の隅から、一人の女性が現れた。彼女は、赤いドレスを着ていて、長い黒髪が肩まで垂れていた。顔は綺麗だったけれど、どこか冷たい、いや、むしろ、恐ろしい表情をしていた。

女性は、おじいさんの遺体の方へゆっくりと近づいていった。そして、驚くべき行動に出た。彼女は、縄を解き、おじいさんの体を椅子から下ろしたのだ。

「ふふっ…上手くいったわ」

女性は、まるで何事もなかったかのように、低い声で呟いた。その声は、まるで蛇が鎌首をもたげているような、冷酷で不気味なものだった。

彼女は、おじいさんの遺体を、まるで人形を扱うかのように、扱っていた。女性の仕草は、まるで、これは殺人ではなく、何かの儀式のような、そんな雰囲気を漂わせていた。

彼女は、おじいさんのポケットから、小さな鍵を取り出した。そして、それを、部屋の奥にある古い木製の箱に差し込んだ。箱を開けると、中には、大量の現金と、何枚かの写真が入っていた。

写真には、様々な人が写っていた。政治家らしき男、裕福そうな老婦人、そして、僕にも見覚えのある顔。僕の学校の先生だった。

女性は、写真を見ながら、何かを呟いていた。その言葉は、聞き取れなかったが、明らかに、不穏な内容だったのは間違いない。

そして、彼女は、僕の方へ目を向けた。

僕の心臓が、激しく鼓動し始めた。彼女の冷たい視線が、僕の体に突き刺さるような気がした。

女性は、ゆっくりと、僕のほうへ近づいてきた。彼女の赤いドレスは、まるで血のように、僕の目に映った。

彼女は、僕の目の前に立ち止まり、不気味な笑みを浮かべた。

「あなたも…知っているわね？」

彼女の言葉は、まるで、僕の心の奥底を見透かしているようだった。

僕は、恐怖で言葉を失った。何が起きているのか、さっぱり分からなかった。

女性は、僕の肩に触れてきた。その感触は、冷たく、まるで氷のようだった。

「あなたは…この秘密を、誰にも話さないわよね？」

彼女の目は、鋭く光っていた。それは、脅迫とも、誘惑とも取れる、不思議な光だった。

「…ええ…」

僕は、震える声で答えた。

女性は、満足げに笑った。そして、彼女は、ゆっくりと、部屋の奥へと消えていった。

その瞬間、僕は目を覚ました。

汗でびしょびしょになっていた。心臓は、まだ激しく動いていた。

夢だった。そう自分に言い聞かせた。

でも、女性の冷たい視線、彼女の不気味な笑み、そして、彼女の言葉は、鮮明に僕の記憶に残っていた。

それからというもの、僕は、いつも、あの夢のことを考えていた。

あの女性は一体誰だったのか？

おじいさんは、一体誰だったのか？

そして、あの箱の中に入っていた、写真の人々は、一体誰だったのか？

あの夢は、単なる夢ではなかった気がした。何か、もっと深い意味が隠されているような気がした。

社会の闇、歪んだ正義、そして、隠された真実。

あの夢は、それら全てを象徴しているような、そんな気がした。

そして、僕は、あの夢の謎を解き明かすために、必死になって、何かを探し始めようとしていた。

まるで、あの女性に、呪われたかのように。