短くて怖い話4【短編集】

ウルフマンの呪縛

深夜の撮影スタジオ。空気は冷え切り、スポットライトだけが不自然に熱を帯びていた。人気ゲーム「ダークネス・フォール」のCM撮影は、クライマックスシーンの撮影を残すのみだった。主人公、ウルフマンを演じる俳優、レオは、特殊メイクで変貌した姿で、巨大なセットの中心に立っていた。毛むくじゃらの顔、鋭い牙、不気味に光る目。まさにゲームから飛び出してきたかのような、恐ろしい姿だった。

監督の指示で、レオはゆっくりと動き出した。相手役の女優、ミリアムは、恐怖に震えながら、それでもプロ意識で演技を続けた。しかし、突然、ミリアムの顔が歪んだ。彼女は苦しそうに息を吸い込み、そのまま倒れ込んだ。

「ミリアム！」

現場は騒然となった。スタッフが駆け寄り、ミリアムの脈を確かめたが、すでに息は絶えていた。

警察が呼ばれ、現場は騒がしくなった。死因は不明。心臓麻痺の可能性も示唆されたが、レオの怪しい姿と、ミリアムの突然の死は、多くの疑問を残した。

警察の捜査は始まった。レオは取り調べを受けた。彼はミリアムに危害を加えるつもりはなかったと主張した。しかし、ウルフマンのメイクを施した彼の姿は、それだけで不気味で、疑念の目を向けられるには十分だった。

事件から数日後、新たな事件が発生した。ゲーム「ダークネス・フォール」の熱狂的なファンで知られる男性が、自宅で死亡しているのが発見された。死因は、窒息死。現場には、奇妙なメッセージが残されていた。「ウルフマンの呪い」。

さらに、その翌日には、ゲーム会社社長の娘が誘拐された。犯人は身代金要求のメッセージとともに、ゲームのウルフマンのイラストを送ってきた。警察は、これらの事件に共通点を見出した。「ウルフマン」と、ゲーム「ダークネス・フォール」。そして、レオ。

捜査の過程で、警察は奇妙な人物に辿り着いた。マスター・パピーと名乗る催眠術師だった。彼は、卓越した催眠術の腕前で知られていたが、裏社会では、暗殺にも関与しているという噂があった。

マスター・パピーは、ゲーム「ダークネス・フォール」の開発に携わっていたことが判明した。彼は、ゲームのストーリーに、自分の催眠術の技術を盛り込んでいたらしい。そして、レオが演じるウルフマンは、彼の催眠術実験の被験者でもあった。

警察は、マスター・パピーが、レオを操り、ミリアムを殺害した可能性を追求した。レオは、マスター・パピーの催眠術にかかっていたのかもしれない。しかし、レオは、記憶喪失を訴え、何も覚えていないと主張した。

一方、誘拐されたゲーム会社社長の娘は、地下室のような場所に監禁されていた。そこには、マスター・パピーがいた。彼は、娘に催眠術をかけ、ゲーム「ダークネス・フォール」の世界を現実のものとして体験させていた。

娘は、ウルフマン（レオ）に襲われそうになるが、その時、警察が突入してきた。激しい銃撃戦の後、マスター・パピーは逮捕された。しかし、レオは、再び記憶を失っていた。

事件後、レオは精神病院に入院した。彼は、時々、ウルフマンの姿に戻り、ミリアムや他の犠牲者たちの幻覚を見るようになった。

ゲーム「ダークネス・フォール」は、販売中止となった。しかし、マスター・パピーの催眠術による殺人事件は、人々の心に深い恐怖を残した。そして、レオは、永遠にウルフマンの呪縛に囚われたまま、闇の中で彷徨い続けることになった。

ある日、精神病院の窓から、満月が輝いていた。レオは、窓に映る自分の顔を見つめ、かすかに笑みを浮かべた。彼の瞳には、ウルフマンの獰猛な光が宿っていた。それは、マスター・パピーの呪縛が解けたのではなく、新たな呪縛の始まりを告げるものだったのかもしれない。