短くて怖い話4【短編集】

幸福の晩餐

夕焼けが、廃墟と化した遊園地の錆びついた観覧車に染み込んでいた。その下、地面に掘られた浅い穴の中で、少年、カイは震えていた。

彼の傍らには、血の海と化したビニールシートと、無残に切り刻まれた女性の遺体が横たわっていた。鋭利な刃物で切り裂かれた肉片は、まるで精肉店のショーケースに並べられた肉のように、不自然に整然と並べられていた。

カイは、その光景にもう麻痺していた。数日前から、彼はこの男、リュウジに囚われていた。リュウジは、SNSで知り合った男だった。一見普通の大学生風で、カイは彼の優しさに惹かれ、すぐに親しくなった。しかし、それは表向きの顔だった。

リュウジは、人間の肉を食べるのが好きだった。それも、ただ食べるだけでなく、殺すことから、解体、調理、そして食べるまで、全てを完璧にこなす、ある種の芸術家のような男だった。

「おい、カイ。手伝ってくれよ。今日の晩餐の準備がまだ終わってないんだ」

リュウジの声が、闇の中から聞こえてきた。カイは、恐怖で体が硬直した。リュウジは、いつも穏やかな声で、まるで友達に頼むように、残酷な命令を下すのだ。

カイは、リュウジの指示通り、遺体の肉を丁寧に切り分け、リュウジが用意した鍋に放り込んだ。リュウジは、まるで料理番組の司会者のように、楽しそうに調理していた。

「今日は、ちょっと変わった料理にしてみようかな。スパイスをたっぷり使って、スパイシーなカニバリズム・シチューにしよう！」

リュウジは、楽しそうに笑いながら、奇怪なスパイスを鍋に加えた。そのスパイスは、カイには見慣れないものだった。独特の、吐き気を催すような香りが、廃墟の空間に広がっていった。

カイは、自分の手にも、女性の血がべったりと付着していることに気づいた。その血は、まだ温かかった。

「ほら、カイ。手伝ってくれるかい？この肉を、もっと細かく刻んでくれ」

リュウジは、カイに、女性の心臓を差し出した。まだ鼓動しているように見えた。カイは、拒絶反応を起こしそうになったが、リュウジの冷酷な視線に、何も言えずに、ナイフを握った。

数時間後、奇妙なシチューが完成した。それは、一見すると、普通のシチューのように見えた。しかし、その中には、女性の肉片が、無数に混ざっていた。

リュウジは、カイと二人で、そのシチューを食べた。カイは、一口も食べたくないと思っていたが、リュウジの冷酷な視線に、無理やり口にした。

肉の味は、意外にも、美味しかった。スパイスの味が、肉の生臭さをうまく消していた。しかし、その美味しさの裏に、女性の悲鳴と、自分の恐怖が、いつまでも残っていた。

食事の後、リュウジは、カイにスマホを見せた。そこには、カイのSNSのアカウントが表示されていた。

「見てごらん、カイ。君のフォロワー、すごく増えたんだ。みんな、君の投稿を楽しみに待ってるよ」

リュウジは、にやりと笑った。カイのSNSには、リュウジが撮影した、カニバリズムの様子が、数枚の写真として投稿されていた。

「いいね」の数が、次々と増えていくのが見えた。そして、コメント欄には、「美味しそう！」「次はどんな料理？」といった、不気味なコメントが、大量に書き込まれていた。

カイは、絶望に打ちひしがれた。彼は、この地獄から、もう逃れられないのだと悟った。リュウジの支配は、現実の世界だけでなく、SNSの世界にも広がっていた。

次のターゲットは、誰なのか。そして、カイ自身は、いつ、リュウジの料理の材料になるのか。

夕焼けは、ゆっくりと、闇に沈んでいった。廃墟の遊園地には、静寂が戻った。しかし、その静寂の中に、カイの恐怖と、リュウジの狂気が、潜んでいるのだった。

カイは、リュウジが用意した新しいナイフを握りしめ、次の犠牲者を待つ準備を始めた。彼自身の心は、すでに、深く、深く、闇に染まっていた。  彼の目は、リュウジと同じような、冷酷な光を放ち始めていた。