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夏の静電気とラジオの夜
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夕焼けが、工場の鉄骨を赤く染めていた。空気は、じっとりと暑く、セミの声がやかましかった。私は、吉岡早苗。高校一年生。父が社長を務める「吉岡鉄工所」の、どこにでもいる普通の女の子だ。
工場の隅っこ、埃まみれの棚の奥で、古ぼけた紙切れを見つけたのは、その日の夕方だった。薄汚れた紙には、驚くほど丁寧に、ラジオの組み立て方が図解されていた。文字は、まるで誰かの優しい手が、丁寧に書き込んだようだった。
「こんなもん、誰が置いてったんだろ?」
父に聞いてみても、「さあな、昔のお宝か何かじゃねえか?」と、あっさり流された。でも、この紙に妙な魅力を感じていた私は、その日からラジオ作りに没頭した。
工場には、部品が山のようにあった。父にこっそりネジやダイオード、真空管を拝借し、紙の指示に従って、小さなラジオを組み立てていった。ハンダ付けは難しかったけど、YouTubeの動画を見ながらなんとかクリアした。
出来上がったラジオは、予想以上に可愛かった。木製のケースに、真鍮のつまみ。まるで、アンティークの宝石箱みたいだった。夜になり、ラジオを点けてみた。
最初は、ザーというノイズだけだった。静電気だろうか、指で触れると、ピリッと小さな衝撃が走った。夏の夜の静電気は、いつも以上に強く感じられた。
しばらくすると、ノイズの中から、かすかな音楽が聞こえてきた。懐かしいメロディーだった。私が子供の頃、よく祖母が口ずさんでいた歌だった。
「あれ?…この歌…」
静かに、そして、はっきりと歌声が聞こえてくる。ラジオからは、祖母の声が聞こえてくるような気がした。
しかし、その歌声は、徐々に歪み始め、不協和音に変わっていく。メロディーは、恐怖を煽るような不気味なものに変化していった。ラジオから聞こえる声は、祖母の声とは明らかに違う、何か別の存在の声だった。
「…早苗…早苗…」
低い、かすれた声が、私の名前を呼んだ。心臓が、激しく鼓動し始めた。汗が、冷たく背筋を伝った。
私は、ラジオの電源を切ろうとした。しかし、指が動かない。まるで、何かが私の体を拘束しているかのようだった。
ラジオからは、さらに不気味なノイズと、断片的な言葉が聞こえてきた。「工場…地下…隠された…」
恐怖で、全身が震えた。私は、工場の地下室のことを思い出した。父は、絶対に地下室には入るなと、厳しく言っていた。子供の頃、一度だけ、地下室の入り口を見たことがある。暗くて、湿った、不気味な場所だった。
ラジオからの声は、ますます大きくなっていった。「…助け…出して…」
ついに、私は、ラジオを叩き落とした。壊れたラジオからは、静寂だけが戻ってきた。しかし、私の心は、まだ恐怖に支配されていた。
その夜、私は眠ることができなかった。ラジオから聞こえてきた声、そして、地下室の謎。私の頭の中は、混乱と恐怖でいっぱいだった。
翌朝、私は父に、昨夜の出来事を話した。父は、驚いた顔で、しばらく黙っていた。そして、重い口を開いた。
「…実はな、その地下室には、昔、事故があったんだ…」
父は、昔、工場で起きた悲惨な事故と、その事故で亡くなった作業員の話を始めた。その作業員は、ラジオを愛する人だったらしい。そして、その作業員が、最後の瞬間まで聞いていたラジオが、あの古ぼけた紙に書かれていたラジオと同じものだったというのだ。
「…もしかしたら、あのラジオは、彼の魂が呼びかけたのかも知れない…」
父の言葉に、私は恐怖と同時に、深い悲しみを感じた。あのラジオから聞こえてきた声は、助けを求めていた亡霊の声だったのだ。
夏の静電気と、壊れたラジオ。そして、工場の地下に隠された、悲しい真実。その夜、私は、二度と工場の地下室には近づかないと心に誓った。そして、あのラジオの残骸は、今でも、私の心に、夏の夜の恐怖の記憶として残っている。
工場の隅っこ、埃まみれの棚の奥で、古ぼけた紙切れを見つけたのは、その日の夕方だった。薄汚れた紙には、驚くほど丁寧に、ラジオの組み立て方が図解されていた。文字は、まるで誰かの優しい手が、丁寧に書き込んだようだった。
「こんなもん、誰が置いてったんだろ?」
父に聞いてみても、「さあな、昔のお宝か何かじゃねえか?」と、あっさり流された。でも、この紙に妙な魅力を感じていた私は、その日からラジオ作りに没頭した。
工場には、部品が山のようにあった。父にこっそりネジやダイオード、真空管を拝借し、紙の指示に従って、小さなラジオを組み立てていった。ハンダ付けは難しかったけど、YouTubeの動画を見ながらなんとかクリアした。
出来上がったラジオは、予想以上に可愛かった。木製のケースに、真鍮のつまみ。まるで、アンティークの宝石箱みたいだった。夜になり、ラジオを点けてみた。
最初は、ザーというノイズだけだった。静電気だろうか、指で触れると、ピリッと小さな衝撃が走った。夏の夜の静電気は、いつも以上に強く感じられた。
しばらくすると、ノイズの中から、かすかな音楽が聞こえてきた。懐かしいメロディーだった。私が子供の頃、よく祖母が口ずさんでいた歌だった。
「あれ?…この歌…」
静かに、そして、はっきりと歌声が聞こえてくる。ラジオからは、祖母の声が聞こえてくるような気がした。
しかし、その歌声は、徐々に歪み始め、不協和音に変わっていく。メロディーは、恐怖を煽るような不気味なものに変化していった。ラジオから聞こえる声は、祖母の声とは明らかに違う、何か別の存在の声だった。
「…早苗…早苗…」
低い、かすれた声が、私の名前を呼んだ。心臓が、激しく鼓動し始めた。汗が、冷たく背筋を伝った。
私は、ラジオの電源を切ろうとした。しかし、指が動かない。まるで、何かが私の体を拘束しているかのようだった。
ラジオからは、さらに不気味なノイズと、断片的な言葉が聞こえてきた。「工場…地下…隠された…」
恐怖で、全身が震えた。私は、工場の地下室のことを思い出した。父は、絶対に地下室には入るなと、厳しく言っていた。子供の頃、一度だけ、地下室の入り口を見たことがある。暗くて、湿った、不気味な場所だった。
ラジオからの声は、ますます大きくなっていった。「…助け…出して…」
ついに、私は、ラジオを叩き落とした。壊れたラジオからは、静寂だけが戻ってきた。しかし、私の心は、まだ恐怖に支配されていた。
その夜、私は眠ることができなかった。ラジオから聞こえてきた声、そして、地下室の謎。私の頭の中は、混乱と恐怖でいっぱいだった。
翌朝、私は父に、昨夜の出来事を話した。父は、驚いた顔で、しばらく黙っていた。そして、重い口を開いた。
「…実はな、その地下室には、昔、事故があったんだ…」
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「…もしかしたら、あのラジオは、彼の魂が呼びかけたのかも知れない…」
父の言葉に、私は恐怖と同時に、深い悲しみを感じた。あのラジオから聞こえてきた声は、助けを求めていた亡霊の声だったのだ。
夏の静電気と、壊れたラジオ。そして、工場の地下に隠された、悲しい真実。その夜、私は、二度と工場の地下室には近づかないと心に誓った。そして、あのラジオの残骸は、今でも、私の心に、夏の夜の恐怖の記憶として残っている。
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