短くて怖い話2【短編集】

不動沼の悪夢

真夏の太陽が照りつける中、俺は同僚の田島、鈴木、そしていつもクールな雰囲気の山田と、不動沼へ向かう車に揺られていた。「心霊スポットだって？冗談でしょ？」と半信半疑だったけど、田島の熱意に押されて、つい参加してしまったのだ。

不動沼は、想像以上に不気味だった。鬱蒼と茂る木々、淀んだ水面、そして空気に漂う、何か言いようのない重苦しさ。田島は嬉しそうに、ネットで調べたという怪談話を語り始めた。俺は正直、鳥肌が立った。

沼のほとりで、少しの時間写真を撮り、早々に退散しようと提案した。他の三人も、内心ホッとした様子だった。しかし、帰り道、立ち寄ったコンビニで、事件は起こった。

田島が突然、棚から商品を掴み取り、大声で叫び始めた。「こいつら、俺を殺そうとしてる！」と。まるで、目の前に敵がいるかのように、必死でレジカウンターに隠れた。鈴木と山田は、最初は冗談だと思っていたようだが、田島の異常な行動に、次第に恐怖を感じ始めた。

店員の通報で駆けつけた警察は、田島を精神病院に搬送した。俺も事情聴取を受けたが、正直、何が起きたのか理解できなかった。ただ、不動沼で感じたあの不気味な空気、田島の狂気じみた叫び声…、全てが鮮明に脳裏に焼き付いていた。

数日後、不可思議な事件を専門とする刑事、八ッ坂標（やつざかひょう）が俺の会社を訪ねてきた。八ッ坂は、見た目こそ普通の刑事だったが、その鋭い眼光と、どこか神妙な雰囲気は、尋常ではないオーラを放っていた。

「不動沼…、聞いたことがありますね。あの場所には、古くから伝わる祟りがあるそうですよ」と、八ッ坂は静かに言った。

彼は、不動沼の周辺で、かつて起きた数々の不可解な事件を説明してくれた。行方不明者、突然の精神異常、そして、奇妙な死…、全てが不動沼と何らかの関係があるらしい。

八ッ坂は、田島が沼の近くで拾ってきたという小石を調べた。その石には、奇妙な模様が刻まれていた。八ッ坂によると、それは、古の呪術に使われた呪符の一部だという。

「田島さんは、沼で呪いをかけられたのでしょう。あの小石が、呪いの媒介物だったと推測できます」

八ッ坂の言葉に、俺はゾッとした。呪い…。まさか、そんな事が現実にあるなんて。

その後、八ッ坂は、鈴木と山田にも話を聞いた。すると、二人も、沼から帰ってきてから、奇妙な夢を見ていたという。鈴木は、沼の中に引きずり込まれる夢を、山田は、黒い影に追いかけられる夢を見ていたらしい。

八ッ坂は、不動沼の呪いを解くために、特別な儀式を行うことにした。場所は、不動沼の近くにある古びた神社。夜になり、八ッ坂は、神社の境内で、様々な儀式道具を準備し始めた。

儀式は、深夜に行われた。満月の光が、神社を照らしていた。八ッ坂は、呪文を唱え、小石を浄化し、そして、田島にかけられた呪いを解こうとした。

儀式は、想像以上に凄まじかった。空には、雷鳴が轟き、風が吹き荒れた。神社の周りには、奇妙な影が蠢いていた。まるで、何かが、八ッ坂の儀式を邪魔しようとしているかのようだった。

そして、儀式が終わった時、田島の様子が変わった。目を覚ました田島は、すっかり平常心をとり戻していた。

しかし、事件はこれで終わらなかった。儀式の後、八ッ坂は、ある事実を告げた。「不動沼の呪いは、完全に解けたわけではありません。呪いは、次の犠牲者を探しているのです」

八ッ坂は、俺達に警告した。不動沼に近づくな、そして、もし、奇妙な夢を見たり、異常な行動をとるようになったら、すぐに彼に連絡しろと。

俺は、その夜、眠ることができなかった。不動沼の悪夢は、まだ終わっていなかったのだ。俺の胸には、不気味な予感が、深く根付いていた。夏の終わり、俺の日常は、再び恐怖に彩られることになった。そして、あの呪いは、今も、どこかで、静かに息づいている。