短くて怖い話2【短編集】

テタの工房

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水鏡の悪夢

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真夏の夜。蝉の声がやかましいほどに響き渡る中、涼介は一人、古い実家の納屋にいた。目的は、亡くなった祖父の遺品整理。埃まみれの古びた家具や、意味不明な機械部品が散乱する中、彼は奇妙なビデオテープを見つけた。ラベルには何も書かれていない。

好奇心から、古いビデオデッキを探し出し、テープを再生してみた。画面には、一見普通の川が映っていた。しかし、よく見ると、水面が不自然に波打っている。まるで、何かが水面下で蠢いているかのようだ。

そして、恐ろしい光景が目撃された。水面が盛り上がり、まるで生物のような動きを見せる。水そのものが、うねり、伸び、形を変えながら、川底の石を巻き上げ、岸辺の草をなぎ倒していく。それは、まるで巨大なアメーバが動き回るような、不気味で、そして圧倒的な力を感じさせる映像だった。

涼介は、恐怖に慄いた。これは、一体何だ?  彼は震える手でビデオを止め、何度も巻き戻して確認した。映像は、間違いなく本物だった。この世のものとは思えない光景に、涼介は言葉を失った。

翌日、涼介は、そのビデオを編集し、ネット上にアップロードした。最初は、誰も信じなかった。荒唐無稽な作り話だと一笑に付された。しかし、数日後、驚くべきことが起こった。

彼の動画に、同じような映像を目撃したというコメントが殺到し始めたのだ。場所は様々、川、湖、海…  内容はどれも似たり寄ったり。水塊が生物のように動き、周囲を破壊していく様子が、複数のユーザーから報告された。

「俺も見た…あの、水みたいな…生き物…」

「子供の頃、川で遊んでる時、水の中に何かいるのを感じたんだ。その時、足が引っ張られたような…」

「怖すぎる…二度と水辺には行けない…」

コメント欄は恐怖に染まり、閲覧数は急増していった。涼介は、自分がとんでもないものを公開してしまったことを悟った。これは、単なるホラー映像ではない。何か、恐ろしい現象の始まりだったのだ。

ある日、涼介の元に、匿名のメールが届いた。「あの映像…もっと詳しい情報が欲しい。特に、あの水塊が、何を食べて成長するのかを知りたい」と、不気味な文面が綴られていた。

涼介は、この現象を調査しようと決意した。彼は、コメント欄に書き込んだユーザー達に連絡を取り、情報を集め始めた。すると、共通点が見えてきた。彼らは、皆、水辺で奇妙な体験をしていた。そして、その体験をした後、彼らは奇妙な夢を見るようになったというのだ。

その夢の内容は、どれも同じだった。漆黒の水面が、彼らを飲み込み、無数の眼が光る闇に閉じ込められるというもの。そして、水塊に飲み込まれた人々は、二度と目覚めることはなかったという。

涼介は、あるユーザーから送られてきた写真に注目した。それは、川辺に咲く、奇妙な花の写真だった。その花は、まるで人間の指のように細長く、不自然なほどに鮮やかな赤色をしていた。

涼介は、その花が、水塊の餌ではないかと推測した。彼は、その花を調べてみた。すると、それは、今まで知られていない未知の植物であることが判明した。そして、その植物は、人間の血液を吸収して成長するという恐ろしい性質を持っていた。

涼介は、恐怖と興奮が入り混じった感情を抱いた。彼は、この水塊と、その餌となる植物を、何とかしなければいけないと感じた。しかし、相手は、想像をはるかに超える存在だった。

ある夜、涼介は、再びその川を訪れた。すると、水面が激しく揺れ動き、巨大な水塊が姿を現した。それは、まるで巨大な生き物のように、ゆっくりと彼に近づいてくる。

涼介は、覚悟を決めた。彼は、持っていたライターで、その奇妙な赤い花に火をつけた。花は、燃え上がる炎の中で、黒焦げになり、消滅していった。

すると、不思議なことに、水塊の動きが鈍くなった。そして、徐々に、その姿は小さくなっていき、最後は、静かに消えていった。

しかし、涼介の悪夢はまだ終わっていなかった。彼は、その日から、毎晩、同じ夢を見るようになった。漆黒の水面と、無数の眼が光る闇。そして、水塊に飲み込まれる恐怖。

涼介は、この悪夢から逃れることができるのだろうか?  それとも、彼は、永遠に水鏡の悪夢に囚われてしまうのだろうか?  彼の戦いは、まだ終わっていなかった。
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