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消えた麦わら帽子の夏
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真夏の太陽が、照りつける。海はエメラルドグリーンに輝き、波は穏やかに砂浜に寄せては返す。二十歳になったばかりの袖掛町子は、友達の美咲と二人で、海水浴に来ていた。
町子は、古ぼけた使い捨てカメラを手に、嬉しそうに笑っていた。アナログな写真が好きで、このカメラで夏の思い出を撮ろうと、わざわざ買って来たのだ。ビキニ姿の美咲を数枚撮影した後、町子は自分の写真を撮る番になった。
白い砂浜に腰掛け、買ったばかりの麦わら帽子をかぶり、カメラに笑顔を向けた。その時だった。突風が吹き荒れ、町子の頭から麦わら帽子が吹き飛ばされた。
「あっ!」
町子は叫んだが、時既に遅し。帽子は風に舞われ、あっという間に沖へと流れていった。白い帽子の小さな点が、だんだん小さくなり、やがて波間に消えてしまった。
「最悪…」
町子は、がっくりと肩を落とした。せっかく気に入って買った帽子なのに。しかも、今日の記念写真に被る予定だったのに。
「大丈夫だよ、町子。また買えばいいじゃん」
美咲は、町子を慰めようとしたが、町子のショックは大きかった。この帽子は、特別な思い入れがあったのだ。
その日は、帽子を失くしたショックと、少し日焼けした肌の痛みで、気分が沈んだまま終わった。
翌朝、町子は、前日の写真現像を頼んだ店に、取りに行った。ドキドキしながら現像された写真を受け取ると、早速、一枚ずつ見ていった。美咲の笑顔の写真、波打ち際で遊ぶ子供たち、そして…自分の写真。
自分の写真…いや、待てよ。
一枚の写真に、町子の姿が写っている。ビキニ姿で、笑顔でカメラを見ている。…しかし、彼女の頭には、麦わら帽子がない。代わりに、何かが写り込んでいる。
薄暗く、ぼやけた影のようなもの。まるで、人の顔のように見える。しかし、はっきりとはしない。
町子は、目を凝らして写真を見つめた。すると、その影が、わずかに動いているように見えた。まるで、何かが、町子に近づこうとしているかのようだ。
「うっ…」
町子は、背筋に冷たいものが走った。これは…心霊写真なのか?
その日から、町子は、奇妙な現象に見舞われるようになった。夜中に、誰かが部屋に忍び込んできたような気配がしたり、風の音や、波の音のようなものが聞こえたりする。
そして、町子の夢には、いつも、あの写真に写っていた影が、現れるようになった。影は、無表情で、町子を見つめている。
町子は、不安と恐怖に押しつぶされそうになった。友達にも相談したが、誰も信じてくれない。
ある日、町子は、あの麦わら帽子を流した海岸へ、一人で行ってみることにした。夕暮れ時、波の音だけが響く静かな浜辺で、町子は、あの写真を見ながら、帽子を探した。
すると、砂浜に、何かが埋まっているのが見えた。砂を掘ってみると、それは、町子の麦わら帽子だった。
しかし、帽子は、奇妙なほどに、濡れていなかった。まるで、海に流されたとは思えないほど、綺麗だった。
そして、帽子の内側に、小さな、黒い髪の毛が、一本だけ、挟まっていた。
町子は、その髪の毛を拾い上げ、写真と見比べてみた。写真の影と、この髪の毛の色は、同じだった。
その瞬間、町子は、全てを理解した。
あの影は、帽子を拾ってくれた誰かの、姿だったのだ。海に流れた帽子を拾い上げてくれた、親切な人。その人は、町子に何かを伝えようとしていたのかもしれない。
しかし、その人は、すでに、この世にはいないのかもしれない。
町子は、静かに、麦わら帽子を海に返した。そして、心の中で、感謝の言葉をささやいた。
あの夏の出来事は、町子の心に、忘れられない思い出として、深く刻まれた。それは、青春の、少し怖い、そして、少しだけ、美しい、物語だった。
町子は、古ぼけた使い捨てカメラを手に、嬉しそうに笑っていた。アナログな写真が好きで、このカメラで夏の思い出を撮ろうと、わざわざ買って来たのだ。ビキニ姿の美咲を数枚撮影した後、町子は自分の写真を撮る番になった。
白い砂浜に腰掛け、買ったばかりの麦わら帽子をかぶり、カメラに笑顔を向けた。その時だった。突風が吹き荒れ、町子の頭から麦わら帽子が吹き飛ばされた。
「あっ!」
町子は叫んだが、時既に遅し。帽子は風に舞われ、あっという間に沖へと流れていった。白い帽子の小さな点が、だんだん小さくなり、やがて波間に消えてしまった。
「最悪…」
町子は、がっくりと肩を落とした。せっかく気に入って買った帽子なのに。しかも、今日の記念写真に被る予定だったのに。
「大丈夫だよ、町子。また買えばいいじゃん」
美咲は、町子を慰めようとしたが、町子のショックは大きかった。この帽子は、特別な思い入れがあったのだ。
その日は、帽子を失くしたショックと、少し日焼けした肌の痛みで、気分が沈んだまま終わった。
翌朝、町子は、前日の写真現像を頼んだ店に、取りに行った。ドキドキしながら現像された写真を受け取ると、早速、一枚ずつ見ていった。美咲の笑顔の写真、波打ち際で遊ぶ子供たち、そして…自分の写真。
自分の写真…いや、待てよ。
一枚の写真に、町子の姿が写っている。ビキニ姿で、笑顔でカメラを見ている。…しかし、彼女の頭には、麦わら帽子がない。代わりに、何かが写り込んでいる。
薄暗く、ぼやけた影のようなもの。まるで、人の顔のように見える。しかし、はっきりとはしない。
町子は、目を凝らして写真を見つめた。すると、その影が、わずかに動いているように見えた。まるで、何かが、町子に近づこうとしているかのようだ。
「うっ…」
町子は、背筋に冷たいものが走った。これは…心霊写真なのか?
その日から、町子は、奇妙な現象に見舞われるようになった。夜中に、誰かが部屋に忍び込んできたような気配がしたり、風の音や、波の音のようなものが聞こえたりする。
そして、町子の夢には、いつも、あの写真に写っていた影が、現れるようになった。影は、無表情で、町子を見つめている。
町子は、不安と恐怖に押しつぶされそうになった。友達にも相談したが、誰も信じてくれない。
ある日、町子は、あの麦わら帽子を流した海岸へ、一人で行ってみることにした。夕暮れ時、波の音だけが響く静かな浜辺で、町子は、あの写真を見ながら、帽子を探した。
すると、砂浜に、何かが埋まっているのが見えた。砂を掘ってみると、それは、町子の麦わら帽子だった。
しかし、帽子は、奇妙なほどに、濡れていなかった。まるで、海に流されたとは思えないほど、綺麗だった。
そして、帽子の内側に、小さな、黒い髪の毛が、一本だけ、挟まっていた。
町子は、その髪の毛を拾い上げ、写真と見比べてみた。写真の影と、この髪の毛の色は、同じだった。
その瞬間、町子は、全てを理解した。
あの影は、帽子を拾ってくれた誰かの、姿だったのだ。海に流れた帽子を拾い上げてくれた、親切な人。その人は、町子に何かを伝えようとしていたのかもしれない。
しかし、その人は、すでに、この世にはいないのかもしれない。
町子は、静かに、麦わら帽子を海に返した。そして、心の中で、感謝の言葉をささやいた。
あの夏の出来事は、町子の心に、忘れられない思い出として、深く刻まれた。それは、青春の、少し怖い、そして、少しだけ、美しい、物語だった。
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