短くて怖い話1【短編集】

テタの工房

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見える、ということ。

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夕暮れ時、蝉の声がやけにうるさかった。アスファルトの照り返しが、僕の目をチカチカさせた。

「ねえ、D、あのさ…」

僕は、汗ばんだ手でペットボトルのキャップを回しながら、隣を歩くDに話しかけた。Dは、いわゆる「霊が見える」やつだ。正確には、霊視能力がある、と本人は言っている。

「なんだよ?」

Dは、いつもの無表情で答えた。彼は、いつも無表情で、何を考えているのかさっぱりわからない。それがまた、彼のミステリアスさを増している。

「あのさ、本当に霊が見えるの? 冗談じゃなくてさ」

正直、半信半疑だった。Dは、よく「怖い話」を語る。ネットで話題になった「本当にあった怖い話」とか、「夏のホラー2018」とか、「ネトコン13」の感想を交えながら、さも自分が体験したかのように話すのだ。最初は面白半分で聞いていたけど、彼の語る話は、妙にリアルで、ゾッとする部分もあった。

「見えるよ」

Dは、あっさり言った。そして、視線を遠くの雑木林に向けた。

「あそこに、いるよ」

僕は、Dの視線の先を見た。何もない。ただ、緑濃い雑木林が広がっているだけだ。

「……誰がいるの?」

「おばあさん。ずっとそこに立ってる。悲しい顔してる」

「おばあさん…?」

僕は、背筋が凍るような寒気を感じた。風が吹いたわけでもないのに、急に肌寒くなった。

「何でここにいるの?」

Dは、雑木林の方をじっと見つめながら、呟いた。

「…わからない。でも、ずっとここにいるみたい。誰かに話しかけたいみたいだけど、誰にも聞こえないみたい」

Dの話は、まるで映画のワンシーンみたいだった。実際、彼は霊能者とかそういうわけじゃない。普通の高校生だ。でも、彼の語る話、そして、彼の視線は、信じられないほどリアルだった。

その晩、僕はDから聞いた「おばあさんの話」をネットで調べた。しかし、その雑木林に関する情報は何も出てこなかった。「夏のホラー2018」で似たような話が話題になっていたことはあったが、具体的な場所については不明だった。

数日後、再びDと一緒に出かけた。今度は、Dが「見える」という場所、彼の家の近くの古い神社だった。

神社の境内は、静かで神聖な雰囲気に包まれていた。しかし、Dは、明らかに落ち着かない様子だった。

「…いる。たくさんいる」

Dは、震える声で言った。彼の顔色は、青ざめていた。

「誰がいるの?」

僕は、恐る恐る尋ねた。

「…子供たち。遊んでる…けど…」

Dは、言葉を詰まらせた。

「…けど、何?」

「…けど、みんな…死んでる…」

Dの言葉に、僕は恐怖を感じた。境内には、確かに、子供たちの声が聞こえた気がした。かくれんぼをしているような、楽しげな笑い声。しかし、その笑い声の裏に、何とも言えない悲しみを感じた。

「…見える、ということ…どういうことなんだろ…」

Dは、呟いた。彼の目は、空っぽだった。まるで、彼の内側には、想像を絶する恐怖が渦巻いているかのようだった。

「…もしかして、Dも、その子供たちと…?」

恐怖に慄きながら、僕はDに尋ねた。

Dは、何も答えなかった。ただ、静かに、境内を見つめていた。その視線の先には、僕には見えない何かが、確かに存在しているように感じた。

その日以来、Dは「見える」ことをそれほど気にしなくなった。まるで、何かを受け入れたかのように。彼は、相変わらず「本当にあった怖い話」や「夏のホラー2018」の話をするけど、以前のような怖さを感じなくなった。

もしかしたら、Dは、あの神社で何かを理解したのかもしれない。

「見える」ということの重さと、その責任を。そして、「見える」ものだけが、全てではないということを。

夏の終わり、蝉の声は静かになり、秋の虫の声が聞こえ始めた。僕は、Dと一緒に夕暮れの雑木林を歩いた。おばあさんは、もうそこにいなかった。

Dは、何も言わなかった。ただ、静かに、僕の隣を歩いていた。そして、僕は、Dの言葉の奥に隠された、真の恐怖を、少しだけ理解した気がした。
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