短くて怖い話1【短編集】

テタの工房

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蝕まれる月影

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葉月は、ボロボロのリュックを背負って、山道を登っていた。家の事情で、都会から遠く離れたこの村の親戚に預けられて、もう半年。都会の喧騒とは無縁の静けさは、最初は心地よかったけれど、今はただ、孤独を際立たせるだけのものだった。

友達はいない。村の子供たちは、都会育ちの葉月を警戒しているようだった。言葉遣いも、服装も、全てが違っていた。葉月は、誰もいない荒れ果てた神社で、一人、時間を潰すのが日課になっていた。朽ちかけた鳥居の隙間から、薄暗い境内を覗き込むと、いつもと同じように、蜘蛛の巣が張り巡らされていた。

「……誰かいる?」

かすかな物音に、葉月は振り返った。そこにいたのは、年頃の少年だった。少し痩せこけていて、目は大人びて、どこか寂しげな表情をしていた。

「誰?」葉月が警戒気味に尋ねると、少年はゆっくりと近づいてきた。

「ヨタロって言うんだ。お前は?」

「葉月……葉月だよ」

ヨタロは、葉月と同じように、家庭に居場所がないらしい。両親はいつも喧嘩ばかりで、家には帰りたくないと言う。葉月は、初めて、自分の気持ちに共感してくれる人に会えた気がした。

二人は、それから毎日、神社で会うようになった。ヨタロは、不思議な知識を持っていて、葉月に色んな話を聞かせてくれた。山に棲む妖怪の話や、村の言い伝え、そして、葉月自身の身に降りかかっている、恐ろしい呪いの話も。

葉月の母親は、以前から奇妙な宗教にのめり込んでいた。そして、その宗教のせいで、家庭は崩壊した。その原因が、葉月に憑依しているという呪いだったのだ。その呪いのせいで、葉月は何度も引っ越しを繰り返さなければならなかった。

ある日、霊能力者という男が、葉月の親戚の家を訪ねてきた。葉月の父親から依頼されたという。男は、葉月に憑依している呪いを解くことができる、と豪語した。

「この呪いは、お前を蝕んでいる。このままでは、お前は……想像もできないことになる」

男は、不気味な笑みを浮かべながら、葉月に「お祓い」を提案した。高額な費用を要求されたが、葉月は半信半疑ながらも、藁にもすがる思いだった。

ヨタロは、葉月の様子を見ていた。彼は、葉月の呪いについて、何かを知っているようだった。

「お祓い……するべきだと思うよ、葉月」

ヨタロの言葉は、葉月の心を揺さぶった。ヨタロは、葉月が生き延びられるのならば、どんな手段でも良いと、思っていた。

お祓いは、深夜の神社で行われた。男は、奇怪な儀式を始め、葉月は恐怖と不安で震えていた。男は、葉月の体から、何かを引き剥がそうとしているようだった。

そして、儀式が終わった後、葉月は、今まで感じたことのないほどの解放感を感じた。しかし、その安堵感は、長くは続かなかった。

数日後、葉月は、自分が変わってしまったことに気づいた。肌は青白く、目は虚ろで、まるで生きている死体のようだった。そして、彼女の体から、何かが抜け出ていくのを感じた。

ヨタロは、その変化に気づいていた。彼は、葉月のそばにいて、変わり果てた彼女を優しく抱きしめた。

「葉月……お前は、人間じゃなくなったんだ」

ヨタロは、葉月が、呪いを解く代わりに、別の何かになってしまったことを知っていた。彼は、葉月を愛していた。しかし、その愛は、もはや人間同士の愛ではなかった。

葉月は、ヨタロと、森の奥深くへと消えていった。二人の姿は、月の光に照らされ、妖しく輝いていた。月の影は、二人の新しい生活を、静かに見守っていた。そして、その影は、ゆっくりと、二人を蝕んでいくのだった。

時が経ち、その神社には、二人の痕跡は何も残らなかった。ただ、朽ちかけた鳥居と、張り巡らされた蜘蛛の巣だけが、かつてそこにいた二人の存在を、静かに物語っていた。  月の光は、今もなお、その地を照らし続けている。しかし、それは、もはや、優しい光ではなく、冷酷で、残酷な光だった。
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