異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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後妻業と王子様

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ヨハンナは、庭に咲くバラを眺めていた。真紅のバラは、夕日に照らされて燃えるように美しく、まるで彼女の今の人生を映し出しているようだった。半年前なら、アードルフの求婚に舞い上がっていただろう。金髪碧眼の王子様のような彼は、幼馴染みで、将来一緒に幸せになるんだろうと、漠然と思っていた相手だった。

しかし、今は違う。

「ヨハンナ! 仕方がないから結婚してやる!」

アードルフの言葉は、彼女の耳に届いても、もはや胸をときめかせるものではなかった。なぜなら、彼女は既に結婚していたからだ。

正確には、結婚させられていた、というのが正しいだろう。

前世の記憶。それは、彼女が目を覚ました時、突然蘇ってきた。貴族の令嬢として生まれ、父に年老いた後妻候補として売り渡されそうになった、苦い記憶。その記憶がよみがえった時、ヨハンナは絶望した。逃げる方法を探したけれど、既に手遅れだった。

そして、彼女は逃げ出した。

前世の記憶を頼りに、彼女は小さな村に隠れ住んだ。そこで出会ったのが、優しい木こりの青年、ルークだった。ルークは、彼女の過去を何も知らず、ただ優しく彼女を受け入れてくれた。彼の温もりは、冷え切った彼女の心を溶かしていった。

ルークとの生活は、決して華やかではない。しかし、それはそれで幸せだった。貧しいながらも、二人で笑い合い、支え合い、毎日を大切に過ごした。ルークは、ヨハンナの過去を知らなくても、彼女を心から愛してくれた。その愛は、前世の貴族社会で味わったことのない、純粋で温かいものだった。

ある日、ルークが森で怪我をしてしまった。心配でたまらなかったヨハンナは、村の医者に駆け込んだ。医者は、ルークの怪我を丁寧に手当てしてくれたが、彼の顔色は悪かった。

「この怪我…単なる擦り傷じゃないな」医者は、深刻な顔で言った。「彼は、この村の奥深くにある、呪われた森で怪我をしたんだろ?あの森には、魔物がいると言われている…」

呪われた森。前世の記憶が、鮮明によみがえった。その森には、確かに魔物…いや、それ以上に恐ろしいものがあった。

ヨハンナは、ルークを助けるため、呪われた森へ向かう決意をした。怖かった。前世の記憶が蘇るたびに、恐怖がよみがえってきた。だが、ルークを一人にしておくことはできなかった。

森の中は、薄暗く、不気味だった。巨大な木々が空を覆い、日光はほとんど届かない。不気味な音が、森の奥から聞こえてくる。ヨハンナは、何度も振り返りながら、森の中を進んだ。

そして、ついにたどり着いた。前世の記憶で見た、あの場所へ。

そこには、巨大な魔物がいた。しかし、それは、前世の記憶で見たものとは少し違った。それは、人間の姿をしていた。老いた貴族の男。ヨハンナの父だった。

「ヨハンナ…お前は、なぜここに…」父の目は、冷たく、狂気に満ちていた。「お前は、私の計画を邪魔するつもりなのか…」

父は、この森で魔物を操り、村の人々を苦しめていたのだ。そして、ヨハンナを後妻にしようと企んでいた。

ヨハンナは、ルークのことを思い出した。彼の優しい笑顔、温かい手。その記憶が、彼女の勇気を与えてくれた。

彼女は、父に立ち向かった。前世の記憶と、ルークへの愛が、彼女に力を与えた。激しい戦いの末、ヨハンナは父を倒した。そして、呪われた森の魔物は消え去った。

ルークは、ヨハンナの活躍を知り、彼女の勇気を称えた。そして、二人の絆は、さらに深まった。

アードルフの求婚。それは、もはや彼女にとって、取るに足らないものだった。彼女は、ルークと、静かでささやかな幸せを掴んでいた。前世の苦い記憶は、彼女を強くした。そして、今、彼女は、本当の幸せを知っていた。真紅のバラのように、美しく、そして力強く。
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