異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

文字の大きさ
44 / 753

速婚の予行練習

しおりを挟む
セレフィーナは、馬車の揺れを心地よく感じていた。南部の視察、と銘打ってはいるけれど、実際はロジオンに会いに行くための旅だ。あの寡黙で、でも、優しくて、強くて……何よりも、自分の気持ちに気づいたらすぐに「迎える準備を」と言って旅立ってしまったロジオンに。  待つのが大嫌いなセレフィーナにとって、この数週間は拷問だった。

南部は、緑豊かな丘陵地帯が広がり、澄んだ空の下、陽射しがキラキラと輝いていた。馬車が街の広場に到着すると、予想外の光景が広がっていた。たくさんの人々が集まり、賑やかな市場が立っていた。そして、その人々から、セレフィーナは「姐さん」と呼ばれていた。

「姐さん、今日は何を買いますか?」
「姐さん、この布、最高ですよ!」

どうやら、ロジオンが事前に自分のことを紹介していたらしい。少し照れくさいけれど、なんだか嬉しい。

ロジオンは、雁の宿と呼ばれる拠点で待っていた。彼の凛々しい姿は、いつもと変わらず、胸が高鳴る。

「お嬢様、お迎えが遅くなり申し訳ございませんでした」

ロジオンは、いつものように静かに頭を下げた。しかし、その目には、いつもとは違う、温かい光が宿っていた。

「いいのよ、ロジオン。むしろ、私が来たからには、早速視察を始めましょう!」

セレフィーナの言葉に、ロジオンは小さく頷いた。

視察、と称したデートは、想像以上に楽しかった。織場では、色とりどりの糸が織りなす美しい布に目を奪われ、染場では、鮮やかな色合いに感動した。仕立て場では、熟練の職人たちの技に息を呑んだ。  ロジオンは、一つ一つの工程を丁寧に説明し、セレフィーナは熱心にメモを取り、質問をした。  二人の間には、言葉以上の、何かが通じ合っていた。

特に印象的だったのは、ロジオンとの秘密の合図だ。「きゅ、きゅ」と、二回小さく咳をすることで、互いの意思を伝え合う。最初は恥ずかしかったが、回数を重ねるごとに、自然と使えるようになった。

そして、夕暮れ時。雁の宿の庭で、ロジオンは、突然、セレフィーナの額にキスをした。

「……きゅ、きゅ」と、セレフィーナは小さく咳をした。

「今日の視察は、大変素晴らしかったです」と、ロジオンは静かに言った。

その言葉には、仕事に対する満足感だけでなく、セレフィーナへの愛情が込められていた。

翌日から、視察はさらに本格化した。セレフィーナは、ロジオンと共に、南部地域の行政や経済、そして人々の暮らしぶりを詳しく調べた。  ロジオンは、驚くほどの速さで問題点を解決し、的確な指示を出した。  彼の能力は、想像をはるかに超えていた。  まるで、未来の領主として、すでに準備万端なのだ。

そんな中、セレフィーナは、夢魔コンシェルジュの茶々に出会う。茶々は、セレフィーナとロジオンの関係を面白がり、二人の未来を予想したり、時にはアドバイスをしたりした。

「ねえねえ、姐さん。ロジオン様、完全に恋してますよ。溺愛っていうやつですね」

茶々の言葉に、セレフィーナは頬を赤らめた。

「そんな……でも、嬉しい」

日を追うごとに、セレフィーナのロジオンへの気持ちは深まっていった。彼の優しさ、強さ、そして、仕事への情熱。全てが、セレフィーナを惹きつけてやまない。

視察も終盤に差し掛かった頃、セレフィーナは、ロジオンに改めて自分の気持ちを伝えた。

「ロジオン、私はあなたを愛しています。あなたと結婚したい」

ロジオンは、少し戸惑ったように見えたが、すぐにセレフィーナの手にキスをした。

「私も、お嬢様を愛しております。結婚の約束、喜んでお受けいたします」

彼の言葉は、静かだが、力強かった。

南部での視察、いや、ロジオンとのデートは、セレフィーナにとって、未来の新婚生活の予行練習になった。  統治は風味、溺愛が主食。  そんな、甘くて幸せな予行練習は、毎日少しずつ、二人の未来を彩っていった。  そして、二人の「きゅ、きゅ」という合図は、これからも、二人の愛の証として、ずっと続いていくのだった。  金髪の青い目の令嬢と、寡黙な騎士の、幸せな物語は、こうして始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。 しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた! ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。 噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。 一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。 これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...