異世界ファンタジーまとめ【短編集】

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氷結将軍と、お断り結婚

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霧が街を覆い、ガス灯の灯りがぼんやりと揺れていた。ロンドンの港町、あるいはそれに似た架空の街。マグノリアは、大きなトランクを抱え、一人、岸壁に立っていた。父を亡くし、唯一の肉親である叔父からの手紙を頼りに、彼女は父の故郷、アイリス大帝国へと旅立ったのだ。

手紙には、アイリス大帝国の王族、氷結将軍と呼ばれるレオンハルト・フォン・アイゼンシュタインと、偽装結婚をするよう書かれていた。理由は、父が残した莫大な借金。それを肩代わりしてくれるのは、レオンハルトだけだった。

マグノリアは、ロマンチックな恋に憧れていた。運命の出会い、一目惚れ、そして、キスシーン付きのハッピーエンド。そんな少女漫画のような展開を夢見ていたのに、現実は、冷酷な氷結将軍との偽装結婚。あまりにも現実離れしている。

「冗談でしょ…?」

マグノリアは、ため息をついた。大型客船「オーロラ号」から降りて、街の喧騒に紛れ込むように歩を進める。街は、蒸気機関車の排煙と、馬車の蹄の音で騒がしかった。近代化が進む一方、中世の面影も残る、不思議な街並みだった。

やっとの思いで、レオンハルトの屋敷にたどり着いた。それは、巨大な門と高い塀に囲まれた、いかにも貴族の屋敷といった風情だった。門番に名前を告げると、不愛想な顔で中へ通された。

屋敷の中は、豪華絢爛だった。きらびやかなシャンデリア、重厚な家具、そして、何よりも目を引いたのは、レオンハルト自身だった。氷結将軍という異名に違わず、冷たそうな顔立ち。しかし、その端正な顔立ちと、凛とした佇まいは、マグノリアの心臓をドキドキさせた。

「…あなたが、マグノリア・ベルウッドさんですね」

レオンハルトは、低い声で言った。その声は、冷たそうでありながら、どこか魅力的だった。マグノリアは、思わず言葉を失った。

「事情は承知しています。しかし、この結婚に、私は全く賛成していません」

レオンハルトの言葉に、マグノリアはハッとした。偽装結婚なのに、なぜ反対するのか?

「私は、愛する人と結婚したい。あなたの父との約束は、あくまでビジネス上の取引です。それ以上でも、それ以下でもありません」

レオンハルトは、マグノリアの目をまっすぐに見つめた。その視線は、冷たかったが、嘘偽りがないように思えた。

「でも…借金は…」

「心配いりません。父が残した借金は、すでに私が処理しました」

レオンハルトは、意外な言葉を口にした。マグノリアは、驚きを隠せない。

「え?どういうことですか?」

「あなたの父は、私にとって特別な存在でした。彼の死を悼み、また、あなたを助けるために、この結婚を提案したのです」

レオンハルトは、初めて、少し優しい表情を見せた。マグノリアは、レオンハルトの言葉に胸が締め付けられる思いだった。

それから数日、レオンハルトとマグノリアは、一緒に過ごす時間が増えた。最初はぎこちなかったが、次第に打ち解けていく。レオンハルトは、意外にもユーモラスな一面を持っていた。冗談を言ったり、笑ったりするレオンハルトを見て、マグノリアは、彼への感情が変化していくのを感じた。

偽装結婚は、次第に本物の愛情へと変わっていった。レオンハルトの優しさ、強さ、そして、彼の抱える孤独を知っていくにつれて、マグノリアは、彼を愛するようになった。

そして、ある夜、レオンハルトはマグノリアにプロポーズをした。

「マグノリア、私と結婚してください。今度は、偽装ではなく、本物の結婚を」

マグノリアは、涙を流しながら、レオンハルトの胸に飛び込んだ。

「はい!」

蒸気機関車の汽笛が遠くで鳴り、街のガス灯が、二人の幸せを祝福しているようだった。アイリス大帝国の氷結将軍と、ロンドンの少女の、予想外のハッピーエンド。それは、運命の出会いでも、一目惚れでもなかったけれど、間違いなく、二人のための、最高の物語だった。
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