異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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黒鉄の触手と日常の狭間

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夕焼けが、錆びついた鉄骨の間に沈んでいった。空は血の色に染まり、僕の頬にもその赤が映った。

俺は、灰色の作業服を着て、汗ばんだ手でタバコに火をつけた。工場の煙突からは、黒い煙がモクモクと空に昇っていく。いつもの帰り道だ。別に変わったことなんて何もない。

少なくとも、表面上は。

この町、鉄骨町は、一見普通の町だった。古びた家並みが続き、工場の騒音と、子供たちの笑い声が混ざり合う。でも、俺には見える。この町の地下に潜む、黒く巨大なダンジョンを。

それは、鉄の触手のように、町の下に広がっている。異形の生物がうごめき、闇が渦巻く。俺だけがその存在を知っている、はずだった。

俺には、ダンジョンを感知する力がある。一種の超能力だ。小さい頃から、この力に悩まされてきた。最初は怖かった。でも、慣れた。むしろ、今は、それが自分のアイデンティティの一部になっている。

ダンジョンは、俺の日常と隣り合わせにある。工場で汗を流し、友達とくだらない話をし、夕飯を食べる。そんな普通の日常の、すぐ下に、あの恐ろしい世界が広がっている。

今日、ダンジョンから奇妙な声が聞こえた。今までとは違う、何かが迫ってくるような、不吉な響きだった。

「なんだよ、これ…」

俺はタバコを地面に投げ捨て、踏み潰した。胸がざわめいている。いつもの感覚とは違う。何かが起きる予感だ。

急いで家に帰った。古びたアパートは、両親が他界して以来、俺一人暮らしだ。部屋は散らかっていて、空腹と不安が胃を締め付ける。

ダンジョンの影響か、頭痛がしてきた。視界が歪み、耳鳴りがする。息苦しくなり、吐き気がした。

俺は、床に倒れ込んだ。

その時、壁が割れた。

そこから、黒い触手が伸びてきた。まるで、巨大なイカの腕のように、太く、粘り気のある触手だ。

俺は、必死に逃げようとした。だが、触手は速かった。あっという間に、俺の腕を掴んだ。

激痛が走った。骨が砕ける音がした。

「う…っ!」

触手は、俺を引きずり込んだ。壁の穴から、闇の世界へ。

ダンジョンの底は、想像を絶する光景だった。巨大な空間には、異形の生物がうごめいている。グロテスクな姿をした怪物たちが、咆哮を上げ、互いに喰い殺し合う。

俺を掴んだ触手は、巨大な生物の一部だった。その生物は、黒く巨大な塊で、その表面には、無数の目が光っていた。

「…これは…なんだ…」

恐怖で、言葉が出ない。

その生物は、俺を睨みつけた。その目には、人間の感情とは違う、何か冷酷で、空虚なものを感じた。

俺は、その生物に食べられるかと思った。だが、そうはならなかった。

その生物は、俺の体に触れた。

すると、俺の体の中に、何かが流れ込んだ。

激しい痛みが走り、意識を失った。

気が付くと、俺はアパートの部屋にいた。壁の穴は塞がれていて、まるで何もなかったかのように。

俺は、自分の腕を見た。傷一つない。

何が起きたのか、分からなかった。

しかし、一つだけ確かなことがあった。

俺の体の中に、ダンジョンの力が流れ込んでいる。

それからというもの、俺は変わっていった。ダンジョンと繋がる力が強まり、その力を制御できるようになった。

俺は、もうただの工場の作業員ではない。

俺は、ダンジョンと戦う者になった。

鉄骨町を守る者になった。

それは、孤独で、過酷な戦いだ。だが、俺は、この町を守るために戦う。

夕焼けが、鉄骨の間に沈んでいく。空は、いつもの血の色に染まっている。

でも、もう怖くない。

俺は、黒鉄の触手と、日常の狭間で、戦い続ける。
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