異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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菜園の令嬢と畑の騎士

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コンスタンタンは、王宮の夜会で壁のシミと化していた。いや、正確には壁のそばの、地味な騎士と化していた。彼は王室直属の騎士団に所属し、「畑の騎士」という、なんとも地味な肩書きを持っていた。王の菜園を守る騎士である。華やかな戦場で活躍する騎士たちと違って、彼の仕事は害虫駆除と野菜の収穫、それに時々迷い込んだウサギを捕まえることだった。

端正な顔立ちをしているのに、なぜか女性には全くモテない。生真面目すぎる性格が災いしているのか、それとも、いつも土まみれで野菜の匂いがするせいなのか。彼は自分でもよく分からなかった。

そんなある夜、コンスタンタンは王の菜園で、信じられない光景を目撃した。満月の光に照らされた菜園で、一人の女性がウサギを追いかけている。彼女は、白いドレスを着て、髪は風に靡き、まるで絵画から飛び出してきたかのような美しさだった。

ウサギは、逃げ惑い、女性は軽やかにそれを追いかける。コンスタンタンは、息を呑んでその様子を見守っていた。そして、女性は、驚くべき行動に出た。素手でウサギを捕まえたのだ。

「あら、捕まえちゃった。」

彼女は、捕まえたウサギを優しく抱きしめ、にこりと笑った。その笑顔は、コンスタンタンの心臓をぎゅっと掴んだ。

「このウサギ、ミートパイにしてやりますわ!」

その言葉に、コンスタンタンは少し驚いた。しかし、彼女の笑顔には、残酷さは全く感じられなかった。むしろ、純粋な喜びと、生き物への敬意が感じられた。

彼女は、王女ではなく、王の側近である、貴族の令嬢、ヴィオレッタ・ド・ヴァルモアだった。彼女は、王の菜園をこよなく愛し、自ら野菜を育て、収穫し、料理を作っていた。彼女は、華やかな社交界よりも、土の匂いと野菜の香りがするこの菜園を好んだ。

それからというもの、コンスタンタンは、ヴィオレッタと菜園で会う機会が増えた。彼は、害虫駆除や野菜の収穫を手伝い、ヴィオレッタは、彼に育てた野菜を振る舞った。

ヴィオレッタは、コンスタンタンの生真面目な性格や、少し不器用なところをからかいながらも、彼の優しさや誠実さを理解していた。コンスタンタンは、ヴィオレッタの明るさと、野菜への愛情に惹かれていった。

しかし、彼は、自分の気持ちをなかなか伝えられなかった。騎士として、完璧な振る舞いをすることに慣れすぎていた彼は、単純な愛情表現が苦手だったのだ。

ある日、ヴィオレッタが作ったミートパイを食べていた時、コンスタンタンは、ついに自分の気持ちを口にした。

「ヴィオレッタ様…あの…僕は…」

言葉は詰まり、彼は顔を赤らめた。ヴィオレッタは、彼の戸惑いを見透かしたように、優しく笑った。

「コンスタンタンさん、あなたのこと、ずっと気になっていたのよ。」

彼女は、コンスタンタンの手を取り、彼の顔を見つめた。

「あの時、ウサギを追いかけていた私を、ただ見ていただけではなく、助けようとしてくれたでしょう?その優しさに、私は心を奪われたのよ。」

コンスタンタンは、言葉が出なかった。彼の心臓は、まるで収穫前のトマトのように、赤く熱くなった。

二人の恋は、菜園で育まれた野菜のように、ゆっくりと、しかし確実に実を結んでいった。コンスタンタンは、もはや壁のシミではなく、ヴィオレッタにとってかけがえのない存在になった。そして、ヴィオレッタは、コンスタンタンに、菜園で育てた野菜を使った、最高のミートパイを焼き続けてくれるようになった。

彼らの恋物語は、王宮の華やかな夜会とは無縁の、静かで温かい、菜園の片隅で静かに咲く一輪の花のように、美しく、そして力強く、永遠に続いた。  そして、二人は、菜園で採れた新鮮な野菜をたっぷり使った、幸せな結婚生活を送ることになった。毎日の夕食は、もちろんヴィオレッタ特製のミートパイ。コンスタンタンは、その度に、あの満月の夜に、初めて出会った時の、彼女の輝く笑顔を思い出していた。
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