異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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凍える河の彼方

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凍える川風が、咲空の頬を鋭く切り裂いた。彼女は冷たい水に浸かった足先を、わずかに震わせた。深い淵を見下ろす彼女の顔には、いつもの無表情があった。長い前髪が、火傷の痕を隠すように垂れ下がっていた。

咲空は高校2年生。妹の美緒とはまるで別人のようだった。美緒は白百合のように美しく、誰からも愛される少女。一方の咲空は、顔の大きな火傷と、それを隠すため常に下ろした前髪、そして何よりも、心を閉ざしたような暗いオーラをまとっていた。

その火傷の傷跡は、美緒の「半身」である神狐族の朋夜がつけたものだった。神族、それは日本列島を去った伊邪那岐命と伊邪那美命が、島々の守護を任せた一族。不思議な力、神術を持つ者たちだ。咲空は、朋夜の神術の炎に焼かれたのだ。

誰も咲空を責めなかった。朋夜は神族で、美緒は神族の半身だから。美緒を優先するのは、当然のことだった。

咲空は常に妹を優先し、自分の気持ちは後回しにしてきた。辛いこと、悲しいこと、全てを一人で抱え込んできた。唯一の心の支えだった祖母の遺品、古びた木製の櫛が、先日、美緒によって壊された。

それは、些細な出来事だった。美緒は謝った。でも、咲空の胸に突き刺さる、深い絶望感。もう限界だった。

全てを捨てたい。何もかも忘れてしまいたい。そう思った咲空は、凍える川へと足を踏み入れた。冷たい水は、彼女の体を急速に冷やしていく。意識が遠のいていく中、彼女はただ、静かに目を閉じた。


その時だった。

「姫野咲空!」

耳元で響いた、力強い声。咲空は驚いて目を覚ました。彼女の目の前には、見慣れない、しかし圧倒的な存在感を持つ女性が立っていた。美しい顔立ち、凛とした立ち居振る舞い、そして、その女性からは、神々しいほどの輝きが放たれていた。

「私は、あなたの半身です。」

女性は、静かにそう告げた。咲空は、理解できなかった。半身?美緒の半身は朋夜のはずなのに…。

「あなたは、神族の最高位、天照大神の血を引く者です。咲空の半身として、あなたを救うために来たのです。」

天照大神…それは、日本の神話で太陽神として知られる、最高位の神。咲空は、自分がそんな存在と繋がっているなんて、想像もしていなかった。

女性は、咲空を暖かい場所に連れて行った。それは、山奥に隠された、神族の隠れ家だった。そこで、咲空は初めて、自分の過去、そして家族の真実を知ることになる。

美緒は、咲空を冷遇していたわけではなかった。美緒は、咲空の火傷のことで深く苦悩し、咲空を傷つけまいと、距離を置いていたのだ。朋夜もまた、神術の暴走を止めきれず、咲空を傷つけたことを深く後悔していた。そして、祖母の遺品を壊したのも、美緒ではなく、朋夜だった。朋夜は、神族としての力にまだ慣れておらず、コントロールを誤ったのだ。

咲空は、自分が家族に愛されていたことを知った。そして、自分が家族を傷つけていたことを知った。

神族の隠れ家で、咲空はゆっくりと癒されていった。天照大神の血を引く者として、咲空は神術の訓練を受け、自分の力をコントロールする方法を学んだ。そして、彼女は、自分の気持ちを素直に表現することを学んだ。

長い時間をかけて、咲空は家族との絆を取り戻した。美緒は、咲空の顔の火傷を気にせず、いつも笑顔で咲空に寄り添った。朋夜も、咲空に謝罪し、神術の訓練をサポートしてくれた。

凍える川で、咲空は死を覚悟した。しかし、そこで彼女を救ったのは、彼女自身の力、そして、彼女を愛する家族だった。

咲空は、もう一人ではない。彼女は、愛する家族に囲まれ、幸せな日々を送るようになった。凍える河の彼方から、彼女は新しい人生を歩み始めたのだ。彼女の長い前髪は、少しずつ短くなり、やがて、火傷の痕は、彼女の美しい顔の一部として受け入れられるようになった。  そして、彼女の瞳には、かつての暗さはなくなり、温かい光が輝いていた。
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