異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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逃亡姫とガラスの靴

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ティティアーナは鏡に映る自分を恨めしそうに睨んだ。きらびやかなドレスは、まるで檻のようだった。今日は王子の舞踏会。あの、童話で有名な王子様と会う日だ。前世の記憶が鮮明なティティアーナは、自分がシンデレラとして転生していることを知っていた。そして、あのガラスの靴、あの運命の出会い…全部、嫌だった。

前世の彼女は、恋愛小説を読み漁る普通の女子高生。シンデレラなんて、ただの童話だと思っていた。なのに、気がついたらこの世界にいて、しかもシンデレラ本人。王子と結婚して、幸せに暮らす…そんな未来は、想像もできないほどつまらなかった。

「もう、嫌だ!」

ティティアーナはドレスの裾を踏みつけ、ため息をついた。継母と義姉たちは、すでに舞踏会に向かっていた。彼女を置いていくつもりらしい。まあ、別に構わない。ティティアーナは、自分なりの計画を立てていた。舞踏会には行く。でも、王子と結婚なんてしない。逃げるんだ。この国から、遠くへ。

彼女は、魔法使いのおばあさんの作った魔法の薬を、こっそりポケットに忍ばせた。これは、一瞬だけ姿を消せる魔法薬。うまく使えば、王子に気づかれずに逃げられるはずだ。

舞踏会は、想像通りに華やかだった。きらびやかなシャンデリア、優雅な音楽、そして、王子様は…思ったよりイケメンだった。でも、ティティアーナは動じなかった。だって、彼女は逃げるんだ。

王子は、ティティアーナに近づいてきた。優しい笑顔で、ダンスに誘う。ティティアーナは、心の中でため息をつきながら、ダンスを始めた。王子は、想像以上に話上手で、面白い冗談も言ってきた。最初は警戒していたティティアーナも、だんだん彼のユーモアのセンスに惹かれていった。

でも、逃亡計画は実行しなければならない。ティティアーナは、時計の針が12時を指すのを待っていた。魔法薬の効果時間は、わずか1時間。その間に、この国から逃げ出す必要がある。

11時50分。ティティアーナは、王子に別れを告げた。「少し気分が悪くなって…」と、適当な理由を言って、そそくさと会場を後にした。

彼女は、魔法薬を飲み干した。視界が白く霞み、体が軽くなった。彼女は、城の庭を駆け抜けた。城壁を越え、森の中を走り抜けた。

しかし、森の中で、彼女は騎士に捕まった。

「おい、待て!」

騎士は、威勢のいい声で叫んだ。彼は、王子の親衛隊の隊長、レオンだった。レオンは、舞踏会でティティアーナの姿を見て、一目惚れしていたのだ。彼女が逃げているのを見て、追いかけてきた。

「逃がさないぞ!」

レオンは、剣を抜いた。ティティアーナは、逃げ場を失った。魔法薬の効果は切れてしまった。

「…お願い、逃がして!」

ティティアーナは、涙ながらに頼み込んだ。レオンは、ティティアーナの必死な顔を見て、剣を納めた。

「…なぜ、逃げるんだ?」

レオンは、優しく尋ねた。ティティアーナは、自分の気持ちを正直に話した。シンデレラとして生きる運命を、受け入れられないこと。王子と結婚して、幸せな生活を送るなんて、想像もできないこと。

レオンは、ティティアーナの話を静かに聞いていた。そして、言った。

「…ならば、一緒に逃げよう。」

レオンは、ティティアーナに自分の馬を差し出した。二人は、森の中を駆け抜けた。王宮の灯りが、遠ざかっていった。

ティティアーナは、レオンと一緒に、遠く離れた国へ逃げた。そこで、二人は静かで幸せな生活を送った。ガラスの靴は、どこかに置いてきた。童話の結末とは違う、ティティアーナとレオンの、新しい物語が始まったのだ。  王子は、ティティアーナの失踪に驚き、悲しんだが、やがて新しい恋を見つけるだろう。  それは、ティティアーナには関係のない、別の物語だ。

二人が暮らす小さな村では、毎年、逃亡を祝う祭りがあるという。それは、決して童話のような、完璧な幸せではないけれど、ティティアーナとレオンにとって、かけがえのない、大切な時間だった。
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