異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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凍土の王太子

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凍える風が、リリスティアの頬を突き刺した。白い息が、瞬く間に消えていく。辺りは一面の銀世界。雪は膝まで積もり、足跡一つない荒野が広がっていた。たった一着の、薄手の毛皮のコートでは、身震いが止まらない。

ほんの数日前まで、彼女はリリスティア・アシュレイ。南国の王女として、華やかな宮廷生活を送っていた。しかし、それは、悪夢のような出来事によって一瞬で崩れ去った。近衛兵長の暗殺事件。濡れ衣を着せられ、国を、家族を、全て失ったのだ。

「もう…二度と…戻らない…」

唇は凍えつき、震える声は風で掻き消されそうになる。国を追放された彼女は、山道を彷徨い、もはや生きる気力も失いかけていた。

その時だった。

遠くから、馬の蹄の音。そして、男の声が聞こえた。

「誰かいるか!?」

リリスティアは、必死に身を隠した。見慣れない、豪華な衣装を身につけた男が、数人の従者を引き連れて、馬で近づいてくる。近寄って来るに従い、その男の顔がよく見えるようになった。端正な顔立ち、鋭い眼光。間違いなく、貴族の生まれだ。

男は、リリスティアを見つけると、驚いたように馬を停めた。

「……君は?」

男は、ゆっくりと馬から降りてきた。背が高く、凛々しい姿は、まるで絵画から飛び出してきたようだ。

「……私は…リリスティア…アシュレイ…」

震える声で、彼女は自分の名前を告げた。

男は、少し考えてから、言った。

「リリスティア…か。君は、寒さで倒れそうだ。私の名を、アルフレッド・エドワードと言う。隣国、ヴェルデリアの王太子だ。」

アルフレッドは、リリスティアを馬に乗せ、自分の居城へと連れて行った。

ヴェルデリアの城は、リリスティアの故郷とは全く異なる、厳格で重厚な雰囲気を持っていた。温かい暖炉の火と、ふかふかのベッド。久しぶりの温かさで、リリスティアはぐっすりと眠りについた。

目覚めると、アルフレッドが優しい顔で立っていた。

「よく眠れたか?」

「…はい…」

リリスティアは、アルフレッドに自分の身に起きたことを全て話した。濡れ衣を着せられたこと、国を追放されたこと、そして、もう故郷には戻れないこと。

アルフレッドは、リリスティアの話を静かに聞いていた。そして、話を終えたリリスティアに、意外な言葉を投げかけた。

「面白い話だ。では、私の国で、一緒に暮らしてみないか?」

リリスティアは、驚きを隠せない。

「…え?」

「私の国は、君を歓迎するだろう。優秀な人材は、常に必要とされている。それに…君のような美しい女性がいたら、国ももっと明るくなるだろう。」

アルフレッドは、少し微笑んでそう言った。

リリスティアは、アルフレッドの提案に戸惑った。しかし、彼女は故郷には戻れない。国を裏切ったとされ、二度と故郷の土を踏むことは許されないだろう。

「…ありがとうございます。…お言葉に甘えさせていただきます。」

こうして、リリスティアはヴェルデリアで暮らすことになった。最初は戸惑いもあったが、アルフレッドや城の人々は皆、親切だった。リリスティアは、自分の才能を生かし、ヴェルデリアの宮廷で重要な役割を担うようになった。

やがて、リリスティアの能力は、ヴェルデリアの政治に大きな影響を与えるようになった。彼女の知略と才能は、ヴェルデリアを繁栄へと導いた。

そして、数年後。

リリスティアの故郷、アシュレイ王国では、王位継承を巡る争いが激化していた。近衛兵長暗殺事件の真犯人が明らかになり、リリスティアの濡れ衣が晴れたのだ。しかし、王位は、既に別の者に譲られていた。

アシュレイ王国の王は、リリスティアの処遇についてヴェルデリアに連絡を取り、謝罪の意を表した。だが、リリスティアは、もう故郷に戻ることはなかった。

「ざまぁみろ」

リリスティアは、ヴェルデリアの宮殿の窓から、故郷の方角を眺めながら、静かに呟いた。彼女は、もうアシュレイ王国の王女ではない。彼女は、ヴェルデリアの、大切な一員なのだ。  かつて自分を陥れた者たちへの復讐よりも、今、目の前に広がる未来の方が、はるかに輝いて見えた。  彼女は、新たな人生を、アルフレッドと共に歩み始めるのだった。
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