異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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緋紅の責務

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エミリアは、バラ園の噴水で、凍り付いた。

婚約者であるレオニダス騎士が、王女イザベラに甘い言葉を囁いているのを、見てしまったのだ。月明かりに照らされた二人の姿は、まるで絵画のようだった。イザベラの満面の笑み、レオニダスの優しい眼差し。それは、エミリアには決して向けられることのない、本物の愛情だった。

胸が締め付けられるような痛みを感じた。けれど、涙は流せなかった。エミリアは、ローゼンベルク家の令嬢。貴族としての矜持が、感情を押し殺した。

翌日、レオニダスはエミリアを訪ねてきた。いつもの、少しぎこちない笑顔で。

「エミリア… 実は、王女殿下と…」

レオニダスは、王女との深い仲を打ち明けた。そして、王国の安泰のため、政略結婚は避けられないと説明した。婚約破棄は、彼の口から出なかった。それは、エミリアにとって、想像を絶する残酷さだった。

「…承知いたしました」

エミリアは、震える声で答えた。涙を堪え、冷静を装った。レオニダスは、安堵したように見えた。彼は、エミリアの気持ちを理解しているのか、していないのか。エミリアには分からなかった。

ローゼンベルク家には、エミリアの他に、双子の妹、リリアがいる。リリアは、エミリアとは正反対の性格で、明るく活発。魔法の才能にも恵まれていた。

その夜、エミリアはリリアに全てを打ち明けた。涙が止まらなかった。

「姉様…」

リリアは、エミリアを優しく抱きしめた。姉妹の温もりは、エミリアの心を少しだけ癒した。

「でも、姉様は、レオニダス様を愛していたんですよね?」

リリアの言葉に、エミリアは再び涙をこぼした。

「…愛していた、のかもしれないわ」

エミリアは、自分の気持ちさえ分からなくなっていた。貴族としての責務、家族への責任、そして、失われた愛。複雑に絡み合った感情に、彼女は苦しんでいた。

しかし、エミリアは、ローゼンベルク家の令嬢としての誇りを捨てていなかった。彼女は、貴族としての責務を果たすことを決意した。

それから数日後、エミリアは、聖女イレーネのもとを訪れた。イレーネは、王国の守護聖女であり、強力な魔法力を持つ女性だった。

「聖女様、私は、ある契約を結びたいのです」

エミリアは、イレーネに、ある提案をした。それは、聖女と貴族令嬢、魔法と血筋、二つの力が織りなす、大胆な契約だった。

エミリアは、自分の魔法の才能を、聖女イレーネに捧げる代わりに、イレーネから、ある力を授かることを約束した。それは、貴族としての責務を果たすため、そして、自身の心を守るための、最後の手段だった。

イレーネは、エミリアの決意を受け入れた。そして、古の魔法の儀式が始まった。

儀式は、数時間にも及んだ。エミリアは、激しい苦痛に耐えながら、自分の全てを捧げた。そして、儀式が終わった時、エミリアは、新たな力を得ていた。

その力は、人の心を操る力ではなかった。それは、自分の心を守る力、そして、他人を理解する力だった。

レオニダスとの婚約は、そのまま続いた。しかし、エミリアの心は、以前とは変わっていた。彼女は、レオニダスへの愛憎という感情の葛藤から解放され、貴族としての務めを淡々とこなすようになった。

一方、リリアは、王宮の魔法師見習いとして、イザベラ王女に仕えることになった。姉妹は、それぞれの場所で、それぞれの道を歩み始めた。

時が経つにつれ、エミリアは、レオニダスとの関係に、ある種の平静を見出すようになった。それは、愛でも、憎しみでもなく、ただ、貴族としての繋がりだった。

そして、エミリアは悟った。貴族の責務とは、愛することだけではない。時には、愛を犠牲にし、自分の心を閉ざし、それでもなお、毅然と生き抜くことだと。

ローゼンベルク家の令嬢として、エミリアは、静かに、しかし力強く、生き続けていくことを決意した。それは、緋紅のバラのように、美しく、そして、強い生き様だった。
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