異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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妖艶の調べ

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桔梗は、朱塗りの門をくぐると、ほのかに甘い香りが鼻をくすぐった。桜の季節はもう過ぎたはずなのに、どこからか桜餅のような香りが漂ってくる。

十歳になったばかりの桔梗は、これまでずっと陰陽師である師匠、蒼葉のもとで暮らしてきた。呪符の書き方から式神の使い方まで、あらゆる陰陽道の技を叩き込まれた。師匠は厳しかったけれど、桔梗は陰陽道のことが大好きだった。しかし、この春、親戚である藤堂家の屋敷に移ることになったのだ。

藤堂家は、代々朝廷に仕える名家。屋敷は想像以上に大きく、回廊を歩いていると迷子になりそうだった。部屋に案内された桔梗は、大きな窓から庭を眺めた。池には鯉が泳ぎ、木々は新緑に輝いていた。蒼葉の小さな屋敷とは比べ物にならないほど、華やかで広々とした空間だった。

「桔梗様、何かお困りのことがございましたら、いつでもお申し付けください」

優しい声がした。振り返ると、美しい女性が立っていた。藤堂家の女主人、葵だ。葵は桔梗に、屋敷の案内をしてくれたり、美味しいお菓子をくれたりした。桔梗は、初めて感じる温かさを感じた。師匠は厳しく、愛情表現は乏しかったから。

数日後、桔梗は屋敷の奥深くにある蔵を掃除することになった。埃っぽい蔵の中には、古い巻物や骨董品が所狭しと並んでいた。その中に、一際目を引く箱があった。黒檀の箱には、複雑な模様が刻まれていた。

好奇心に駆られた桔梗は、箱を開けてみた。中には、美しい笛が入っていた。銀色の笛は、まるで月の光を閉じ込めたようだった。

その瞬間、蔵の中に冷たい風が吹き込んだ。笛から、妖しい調べが流れ出した。それは、美しく、それでいてどこか恐ろしい音色だった。桔梗は、思わず身を縮めた。

すると、蔵の奥の影から、何かが姿を現した。それは、黒い着物に身を包んだ女性の姿だった。長い黒髪が肩に流れ落ち、目は妖しく光っていた。

「美しい音色ですね…」

女性は、かすれた声で言った。彼女は、笛の音に導かれてこの蔵に来たという。そして、この笛は、強力な妖力を秘めていると告げた。

桔梗は、恐怖を感じながらも、不思議な魅力を感じていた。女性は、妖だった。しかし、彼女からは、殺意のようなものは感じられなかった。むしろ、寂しげな雰囲気が漂っていた。

女性は、自分の名前が「月影」だと名乗り、孤独な日々を過ごしていると打ち明けた。彼女は、人間と妖の間に生まれた存在で、どちらにも属することができずにいたのだ。

桔梗は、月影に同情した。師匠のもとでは、妖はただ退治するべき存在だった。しかし、月影は、ただ寂しいだけの妖だった。

それから、桔梗と月影は、蔵で逢うようになった。月影は、笛の演奏を桔梗に聞かせ、桔梗は、月影に陰陽道の話をした。

月影は、桔梗の優しさに触れ、少しずつ変わっていった。妖としての力を抑え、穏やかな表情を見せるようになった。桔梗は、月影が人間の世界で暮らせるよう、陰陽道の力を使い、月影の妖力を制御する方法を探し続けた。

数ヶ月後、桔梗は、月影が人間と変わらない生活を送れるようにする術を見つけ出した。それは、月影の妖力を完全に消し去るのではなく、制御する方法だった。月影は、喜びの涙を流した。

葵や藤堂家の家臣たちも、月影を受け入れた。月影は、屋敷の庭で花を育てたり、子供たちに笛の演奏を教えたりするようになった。

桔梗は、師匠から学んだ陰陽道の知識と、優しい心で、妖と人間の共存という奇跡を実現した。そして、彼女は、師匠とは違う、温かい愛情に満ちた生活を送るようになった。月影との友情は、桔梗の人生を大きく変えた、かけがえのない宝物となった。

ある日の夕暮れ、桔梗と月影は、庭の桜の木の下で笛の調べを聴いていた。桜餅の香りが風に乗って、二人を包み込んだ。桔梗は、幸せな気持ちで、静かに目を閉じた。  師匠のもとで学んだ厳しい陰陽道の修行は、彼女に強さと優しさを与えてくれた。そして、月影との出会いは、彼女に、人生の本当の豊かさ、そして温かい愛を教えてくれたのだ。
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