異世界ファンタジーまとめ【短編集】

テタの工房

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婚約破棄より重要なこと

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アイリーン・セラーズ公爵令嬢は、婚約破棄を告げられた。それも、盛大な夜会で、婚約者であるアルバート卿から、他の女性、エリザベス嬢を指名しながら。ショックはあったが、アイリーンの頭の中心は、それよりもずっと別のことに占められていた。

アルバート卿の後ろに控えていた、地味で眼鏡をかけた男。その男こそが、帝国から視察に訪れていた皇太子、ヴィクター殿下だったのだ。

アイリーンは、殿下が夜会に紛れ込んでいること、そしてその正体を隠していることを、殿下本人から直接聞かされていた。当然、誰にも言ってはいけない、と。

しかし、黙っていられるはずがない。殿下は、周囲から「地味な役人」と見なされ、ありとあらゆる不敬な言動に晒されていた。

「あの眼鏡、似合わないわね。」

「あんなに地味な人が、皇太子に仕えるなんて信じられないわ。」

次から次へと飛び出す、殿下への失礼な言葉の数々。アイリーンは、気が気じゃなかった。

殿下は、その場を静かに、そして辛抱強く耐えていたが、アイリーンには、その苦痛が痛いほど伝わってきた。

「私、詰んでない!?」

アイリーンは、必死に頭を絞った。殿下を庇いつつ、その正体をそれとなく周囲に伝える方法はないだろうか。

思いついたのは、殿下を褒めちぎる作戦だった。

「あの、あの…眼鏡の…方が…素敵ですわ!」

最初は戸惑いながら、アイリーンは殿下を褒め始めた。

「あの…あの… 控えめな物腰… 素晴らしいですわ! まるで… まるで… ヴィクター殿下のような… 知性と品格が感じられますわ!」

アイリーンの言葉に、周囲は面食らった。

公爵令嬢が、地味な役人にそんなことを言うなんて、ありえないことだった。

しかし、アイリーンは止まらなかった。

殿下への不敬な言葉を聞けば、すぐに訂正した。

「いえいえ、そんなことはありませんわ! あの眼鏡の方は、とても優秀で、素晴らしい方なのです!」

アイリーンの熱心な弁護に、周囲の反応は徐々に変化していった。

当初は嘲笑していた人々も、だんだん怪訝な顔になっていった。

「もしかして…この公爵令嬢…あの地味な眼鏡の…ことが…好きなの?」

噂は、あっという間に広まった。

アイリーンは、殿下への愛を隠すつもりはなかった。しかし、それは、恋心というよりも、殿下への深い敬意と、その身を護りたいという強い思いから生まれたものだった。

一方、アルバート卿とエリザベス嬢は、アイリーンの行動を理解していなかった。

「アイリーンは、あの地味な男に夢中になったのか?」

アルバート卿は、婚約破棄のショックよりも、アイリーンの行動に困惑していた。

エリザベス嬢は、アイリーンの行動を面白がっていた。

「あの公爵令嬢、何だか面白いわね。まさか、あの人が好きだなんて。」

二人の不敬な言葉は、アイリーンによって、すぐに修正された。

「いえいえ、アルバート卿、エリザベス嬢。あの眼鏡の方は、本当に素晴らしい方なのです。あなたは、まだその素晴らしさを理解できないだけなのです。」

アイリーンの言葉は、まるで、正義の鉄槌のように、二人の心を打ち砕いた。

しかし、アイリーンの作戦は、完璧ではなかった。

ある日、アイリーンは、殿下が、実は変装していたことに気づいた。

殿下は、本来の姿に戻った。そして、アイリーンに、自分の正体を公表することを許してくれた。

夜会では、殿下は、華麗な姿で現れ、周囲を驚かせた。

「皆さん、この場にいる皆様に、お伝えしなければなりません。あの、地味な眼鏡をかけた役人は、私、ヴィクター皇太子です。」

会場は、静まり返った。

アルバート卿とエリザベス嬢は、呆然としていた。

アイリーンは、安堵のため息をついた。

「これで、殿下への不敬はなくなるわ。」

しかし、アイリーンの戦いは、まだ終わっていなかった。

殿下への愛を公表したことで、アイリーンは、新たな試練に直面することになる。

それは、殿下を巡る、激しい争奪戦だった。

多くの貴族たちが、殿下に近づこうと、しのぎを削った。

アイリーンは、その争奪戦の中心で、殿下への愛を貫き、守り抜いていく決意をした。

彼女の戦いは、これから始まるのだ。
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