短くて怖い話3【短編集】

テタの工房

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濡れた殺意

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蝉の声がやかましい夏の午後だった。涼を求めて、カフェの窓際の席に腰掛けた彩夏(あやか)は、冷たいアイスコーヒーを一口飲む。就職活動も佳境に入り、疲労困憊だ。

その日、面接を終えた帰り道、彩夏は奇妙な男に声をかけられた。男は、雨に濡れた髪を掻き上げながら、にこやかに自己紹介をしてきた。名前は、修司(しゅうじ)というらしい。

「君、なんか…惹かれるものがあるね」

修司は、彩夏にそう言って、電話番号を書き込んだ紙切れを差し出した。彩夏は、少し不気味さを感じながらも、なんとなく断れなかった。

それから数日後、修司から連絡があった。彼は、彩夏と同じ大学に通っていたらしい。共通の話題も多く、彩夏は彼と話すのが楽しかった。しかし、彼の言動には、どこか狂気じみたものを感じ始めていた。

例えば、修司は、雨の日に必ず彩夏に電話をかけてきた。雨音と彼の低い声が混ざり合った電話の声は、彩夏を不気味な気持ちにさせた。

「雨っていいよね。全てを洗い流してくれる感じがして…」

修司は、そんなことを呟くように言っていた。彼の言葉には、どこか不穏な空気が漂っていた。

そして、ある日、修司は突然姿を消した。連絡も取れなくなった。彩夏は、少しホッとした気持ちと、奇妙な不安を抱いた。

数日後、ニュースで衝撃的な事実を知ることになる。修司が、川で遺体となって発見されたのだ。溺死だった。

彩夏は、背筋が凍るような寒気を感じた。修司の言葉、雨への異常な執着、そして彼の死…全てが、彩夏の中で奇妙に結びついた。

それからというもの、彩夏は、水にまつわる不吉な出来事に巻き込まれるようになった。

まず、彩夏がいつも利用するカフェのオーナーが、謎の事故で亡くなった。原因は、厨房で誤って頭から水を被り、意識を失って窒息死したというものだった。オーナーは、雨の日には必ず店の外に置いてある植木に水をやっていた。

次に、彩夏が就職活動で訪れた会社の社長が、プールで溺死体で発見された。社長は、趣味で競泳をしていたという。

これらの事件は、全て水に関係している。しかも、それぞれの事件には、修司との共通点が見つかった。カフェのオーナーは、修司と同じ大学に通っていた。社長は、修司が以前勤めていた会社の取引先の人間だった。

彩夏は、恐怖に慄いた。これは、呪いなのか?それとも、何かの陰謀なのか?

彩夏は、事件の真相を突き止めようと、独自に調査を始めた。彼女は、修司の過去を調べたり、関係者たちに話を聞いたりした。

その過程で、彩夏は驚くべき事実を知る。修司は、幼い頃に、川で溺れかけた経験があった。その時のトラウマが、彼を狂気に突き動かしていたのだ。

そして、修司は、水に関係する形で、復讐をしていた。彼を傷つけた者たちを、水を使って殺していたのだ。

彩夏は、修司が自分に近づいてきた理由を理解した。彩夏もまた、修司が復讐の対象としていた人物と何らかの繋がりがあったのだ。

そして、彩夏自身も、修司の次の標的になっていたことに気がついた。

彩夏は、逃げなければならない。しかし、修司の呪いは、すでに彩夏を追い詰めていた。

ある日、激しい雨が降る中、彩夏は、修司に似た男に襲われた。男は、彩夏を川に突き落とそうとした。

必死で抵抗する彩夏。男の手から逃れ、彼女はなんとか川岸にたどり着いた。

しかし、男は諦めなかった。男は、彩夏の首を絞め始めた。

その時、彩夏は、修司の言葉が脳裏に蘇った。「雨っていいよね。全てを洗い流してくれる感じがして…」

男の顔に、修司の狂気じみた笑顔が重なった。

彩夏は、男の目を睨みつけ、必死の力で抵抗した。そして、男の手に持っていた、濡れた石を掴み、男の頭部に打ちつけた。

男は、そのまま意識を失った。

雨は、まだ降り続いていた。彩夏は、濡れた地面に倒れ込み、息を切らした。

彼女は、生きた。しかし、その代償は大きかった。彩夏は、二度と、平穏な日々を送ることができないだろう。彼女の心に、濡れた殺意が、深く刻まれたままに。
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