短くて怖い話3【短編集】

テタの工房

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渇水の夏

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2025年の夏。空は鉛色に曇り、太陽は影を潜めていた。アスファルトは焼け付くように熱く、セミの鳴き声もどこか虚ろだった。町の水道から水が出なくなったのは、一週間前のことだ。

最初は小さな町外れから始まった。数軒の家で水道が止まり、住民たちは井戸水や近所の川に頼った。しかし、その異常はみるみるうちに町全体へと広がっていった。川の水位は一日ごとに減り、やがて干上がった川底には、ひび割れた粘土がむき出しになった。

「おかしいよなぁ…」

私の隣に住む、いつもボロシャツを着ている老人の、佐々木さんだ。彼は、井戸にバケツを沈めながら、呟いた。彼の井戸も、もう殆ど干上がっていた。底には、僅かに泥水が溜まっているだけだ。

「全部、消えちゃったんだよ…」

佐々木さんは、バケツを諦めて地面に置いた。彼の顔には、深い疲労の色が濃く浮かんでいた。

私も、もう数日間シャワーを浴びていない。水道から出てくるのは、茶色く濁った泥水だけだ。ペットボトルの水も、底を突きかけた。喉の渇きは、日に日に増していく。

町は、騒然としていた。スーパーマーケットの飲料売り場は、空っぽだ。人々は、我先にと水を買い占め、争奪戦を繰り広げた。警察も、事態を収拾しきれない様子だった。

「どこに行ったんだろうね…」

私の友人の、美咲は、空っぽになったペットボトルを握りしめながら言った。彼女も、深刻な水不足に苦しんでいた。

噂は、次々と広がっていった。地下水が枯渇したとか、巨大な地底怪物のせいかとか、訳の分からない話ばかりだ。中には、神罰だとか、言う人もいた。

そんな中、私は奇妙な夢を見た。深い、深い闇の中で、何かが蠢いている。それは、巨大な何かで、ゆっくりと、しかし確実に、地中から水を吸い上げているようだった。

目が覚めると、喉がカラカラだった。夢のせいか、それとも、単なる脱水症状なのか。私は、不安で胸がいっぱいになった。

その日、町では、奇妙な事件が起きた。一人の男が、井戸の中に飛び込んだのだ。彼は、狂ったように水を掴もうとしていたが、すぐに泥水に沈み、姿を消してしまった。

恐怖が、町を覆った。人々は、家の中に閉じこもり、怯えていた。外に出る者は、ほとんどいなかった。

私は、佐々木さんの家を訪ねた。彼は、井戸のそばに座り、何かを呟いていた。

「あの…佐々木さん…」

私は、声をかけた。しかし、彼は私を無視した。彼は、井戸を見つめながら、何かを祈っているようだった。

そして、その時、私は気がついた。井戸の底から、かすかな音が聞こえてきたのだ。それは、まるで、何かが這い上がってくるような、不気味な音だった。

ゆっくりと、ゆっくりと、泥水の中から、何かが姿を現した。それは、巨大な、黒くて粘り気のある、何かだった。それは、まるで、巨大なアメーバのような形をしていて、ゆっくりと、しかし確実に、井戸から這い上がってきた。

その巨大なアメーバは、井戸から這い出し、町へと向かって動き出した。それは、まるで、町の水をすべて吸い取ろうとしているかのようだった。

私は、恐怖で叫んだ。しかし、私の声は、巨大なアメーバの吸い込む音にかき消されてしまった。

町は、闇に包まれた。そして、水は、完全に消えてしまった。


翌朝、町は静まり返っていた。空は晴れ渡り、太陽は燦々と輝いていた。しかし、町には、誰もいなかった。残っていたのは、干上がった川底と、ひび割れた地面だけだった。そして、遠くから、かすかに聞こえる、何かを吸い込む音。
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