月明かりはスポットライト

夜宵

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落暉

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12月31日。


輝夜は今日から4日間、
年末年始の休みに入る。



仕事納めとライブに向けての結束を
図るため、メンバーとスタッフ達が
参加する忘年会へ向かった。



記者が占い師との写真を撮るために
自分を追ってくれている。


遠回りだが、行きも帰りもあえて
陽叶の母達に遭遇した道を通った。





輝夜「今日はハズレか…ライブまでには
何とかしたいんだけどな…」




独り言を言いながら歩いていると、

輝夜が住むマンション脇にある
コンビニが見えてきた。


そのままマンションの玄関を
目指して歩いていると


コンビニを過ぎた途端


ドクンと胸騒ぎがして、立ち止まった。




たった今通り過ぎたコンビニの前に

二人組の女が立っていた気がする。



普段なら素通りしていただろう。



何故違和感を感じたのか

振り返ってわかった。



彼女達は正面の電信柱を見つめながら

奇妙な笑みを浮かべていたのだ。



一瞬前を通っただけで
その異様さを感じさせた。



二人が放つ雰囲気は

とても気味が悪かった。




それより

何故俺の家を知っている……?



輝夜は動揺と恐怖から

真冬なのに額に汗をかいていた。





輝夜「あの…陽叶のお母さんですよね?
どうしてここにいらっしゃるんですか?」





母「おかえりなさい、輝夜さん。あなたと
話がしたくて待っていたの。有名人だから
随分と探すのに時間がかかっちゃったわ。」




輝夜「こういうの困ります。迷惑です。
警察を呼びますからね」



輝夜はそういうと警察へ通報し、
マネージャーにも連絡をした。


普通の人間なら誤解だと、
警察を呼ばれる事に抵抗すると思うが


そんな様子はない。
まるで状況を理解していないようだ。




母「あのね輝夜さん、お願いがあるの。
陽ちゃんのものになってくださる?
あなたが『欲しい』みたいなの。
あの子の願いは全て叶えないと…
これで足りなければ言ってちょうだい。」



陽叶の母はキャリーバッグを開け、

大金を見せながらそう言った。





輝夜「それ、しまって下さい。人の心は
お金で買えない。そうやって今まで全て
思い通りになってきたんでしょうけど、
俺はあなたの願いを叶えるつもりはない。」




その異様な雰囲気に、気付けば

周囲には人が集まってきていた。






女1「あれかぐやんじゃない?やばい!
超イケメンなんだけど!!!」



女2「実物エグすぎ!ってか何か空気
やばくない?変な人に絡まれてんじゃん」



女1「前の記事みたいに出たらかわいそう。
うちらで証言出来るように動画取っとこ」




輝夜の存在に気付いて

動画を回してる人もいる。




周囲の様子を輝夜は
気付いていなかった。


と、いうよりも


気付く余裕が、なかった。



母「あら足りないのね、もっと用意して
くればよかったわ。いくら欲しいの?」



輝夜「いや、どれだけお金を積まれても
俺はあなたの思い通りにはならない。
俺だけじゃない、陽叶もだ。

陽叶も俺も欲しい物は自分で手に入れる。

願いが叶わないくらいで、人は死なない。
そんなことを強いるのが神か?
悪魔だろ!いい加減目を覚ませよ!
いつまでその女の嘘に騙されてるんだ!」




母「陽叶が生まれたのは先生のおかげよ!
今まで何度も流産したわ……あとは
産まれてくるのを待つだけって所まで
育っても、心臓が止まってたりね。

あの日先生と出会っていなかったら…
私は一生子供が産めなかったわ。

やっと産まれてきてくれたんだもの。
絶対に死なせたくないのよ。」






輝夜「陽叶が大切なことはよくわかる。
でもそれはあなたが辛い思いをしながら
不妊治療を受け続けたからでしょう?

この女がどう助けてくれた?
金や高価な物を求められなかったか?

人を救うと言いながら対価を求める、
そんなの偽善だろ。

それに、お金で全て叶えてきたと
思っているのはあなただけだ。
陽叶のお父さんだって、手に入れても
あなたから離れていったじゃないか」




母「それは陽ちゃんが……!」





輝夜「子供が簡単に違うお父さんが
欲しいなんて言う訳ないだろ!!
真に受けるなんてどうかしている!

陽叶は…父親に本当は別に好きな人が
いたのにお金で結婚させられたんだと
気付いたから、寂しいのを堪えて…
大好きな父親を自ら手放したんだよ」




母「そんな…嘘よ…あんなに小さかった
陽ちゃんにそんな決断が出来るわけ…」







雷架「ギャアァァー!!!」



輝夜の言葉で陽叶の母が洗脳から
解けることを恐れた雷架は、

全てを掻き消すような大声で
意味不明な言葉を叫び、
謎の呪文を唱え始めた。





輝夜は放った言葉は



陽叶の母の頭の中で

エコーがかかったように反響している。




そして、
幼い陽叶の成長していく姿が

走馬灯のように浮かんできた。




陽叶の母は、耳を塞ぎながら

空を見上げるようにして
脳裏に駆け巡る思い出を追う。



産声をあげて誕生した時



ミルクを一生懸命飲む様子



初めて歩いた瞬間



ママ!と走って駆け寄ってくる姿



どれも本当に愛おしくて、

自然と笑顔が込み上げてきた。



入園式や七五三の記憶には

父親も出てきた。


父と一緒に陽叶の様子は

とても嬉しそうで
必ず手を繋いでいる。




だが、次第に


記憶の中の陽叶は

虚ろな表情をするようになった。



母「陽ちゃん…どうしたの……?」


陽叶の母は、記憶の中の陽叶を
心配して声をかける。



その声に、記憶の中の陽叶は

こう言った。




「……毎朝来る牛乳屋のお兄さんに、
僕のパパになってほしいんだ。」



その顔は強張っていて、

何かを決意したようだった。



とてもあの歳の子供がするような
顔つきではなかった。





母「陽ちゃん…本当はお父さんと
一緒にいたかったの…?」






陽叶「うん…僕、パパが大好きなんだ。
ずっと一緒にいてほしいけど、パパが
大好きだから幸せになってほしいんだ。」





母「陽ちゃん…ごめんなさい……」





記憶の中の陽叶は

母の顔を悲しそうな顔で見て、
背を向けて暗闇に向かって
走って行く。




そしてテレビの電源を消したように

プツン…と記憶が途切れた。



母「陽ちゃん?…どこにいるの?ねえ!
陽ちゃん……お願い戻ってきて……!!」




陽叶の母は地面に膝をつきながら
頭を抱え泣き叫んでいる。



そこへ警察が到着し、

錯乱状態の彼女を取り囲み、
パトカーに乗せた。




脇で謎の呪文を唱えていた雷架は

パトカーの音を聞こえてくると、
焦って逃げようとしたが

輝夜が腕を掴んで逃がさなかった。



雷架「離して!私は関係ない!!」



到着した警察官は、雷架の取り乱した
様子を見て、パトカーに乗せた。



辺りは警察と野次馬で騒然としていた。



輝夜もしばらくの間、

合流したマネージャーに付き添われて
警察からその場で話を聞かれた。








その後、陽叶の母と雷架は

そのまま警察署で聴取を受けることに。



警察が帰ると、野次馬の中から
記者の森さんが駆け寄ってきた。





森「輝夜さん!バッチリ撮れましたよ。
それにあの占い師、調べたらかなり
真っ黒でしたよ。よかったらこのまま
場所を変えてお話を伺えませんか?」






輝夜「ええ、その先に喫茶店があるんで
向かいますか」




マネージャー「輝夜、どういうこと?」




輝夜「ごめん、ちゃんと説明するから
一緒に来て欲しい」






三人は近所の喫茶店で話すことになった。






森「いやーまさか連絡をもらった次の日に
キャッチできるとは…!びっくりですよ」




輝夜「俺もまさか…家を知られてるなんて」




マネージャー「あの二人組はファン?」




輝夜「違うよ、一人は陽叶の母親で
もう一人は占い師。洗脳されてるんだ。」





森「その話、詳しく聞かせてください。
あの占い師を調べたのですが、かなりの
被害者がいるようなんです。ですが
どの方も被害を受けたのは20年以上前で、
それ以降の被害は見つかりませんでした。」




輝夜「知人がちょうど20代なんです。
知人の母が不妊治療に悩んでいるのに
つけ込んで、そこから今までずっと
家に住み着いていましたから。彼女は
かなり裕福な家系なので他の獲物を
捕まえなくてもよかったのでしょうね。」



森「やっぱり…他の被害者の方達も
皆不妊治療に悩んでた方でしたよ。
頻繁に産婦人科の前を張っていたようで、
病院側から注意を受けては拠点を
移していたと思われます。」




マネージャー「とんでもない女だな…」




輝夜「森さん。俺、知り合いをあの女に
縛られる人生から助けたいんです。
だからどうか…よろしくお願いします」




森「そんな、頭をあげて下さい。前回の
お母様の件ではご迷惑をおかけしたので
今回はしっかり頑張らせてもらいます。
今日の事はあれだけ野次馬がいたらもう
ニュースになっているでしょうし…
1/8発売の記事に掲載しましょう。」





輝夜「ありがとうございます!」






週刊誌の掲載は
ライブの前日になった。




輝夜は森さんと別れ、マネージャーに
玄関前まで送ってもらい、帰宅した。





日野さんには陽叶に気付かれぬように
メッセージで今日の出来事を
軽く説明した。




陽叶にも連絡したくて

年の瀬を挨拶を打ってみたが、


送信せずに消し、
スマホをソファへ置いた。






輝夜「もう少しだ、待っててな。」




ソファに寝転がり、そう呟いた。 




疲労で眠ってしまった輝夜。





つけっぱなしのテレビからは
カウントダウンが始まり、


『ハッピーニューイヤー!!』と

新年を祝う声が聞こえた。











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