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烏兎
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復帰ライブの日程は
年明けの1月9.10.11日の3日間。
今日は12月30日。
輝夜はライブの最終調整に入っていた。
数曲歌いきったあと、
スタッフから
「輝夜さーん!」と呼ばれる。
スタッフの声の方向へ向くと
父が手を笑顔で振っていた。
スタッフ「輝夜さんのお父様からお弁当の
差し入れをいただきましたー!」
メンバー達「うわ!このお弁当、超人気な
お店のじゃん!すげー!パパありがとう!」
メンバー達はいつの間に父と
仲良くなったのかと不思議だったが
父の嬉しそうな顔に輝夜も笑顔になった。
全員分の弁当を配っていると
1つ余ってしまった。
父「あれ…?そういえば陽叶くんは?」
輝夜「余ったのは陽叶の分か…
ごめん父さん、陽叶とはしばらく
連絡が取れてないんだ」
父「そうだったのか、心配だな。元気なら
いいけど…喧嘩でもしたのか?」
輝夜「喧嘩なんてしてないよ、この間
ばぁちゃんのお見舞い帰りに陽叶の母親に
声掛けられてさ。その瞬間パニックを
起こしたみたいに取り乱して
いなくなっちゃったんだ。それっきり。」
父「そんな事が……そういえば陽叶くん
家政婦さんが母親代わりをしてくれたって
言ってたよ。家政婦さんがいるなんて
余程いいおうちに生まれたんだろうな」
輝夜「でもお母さん、溺愛してるように
見えたよ、陽叶のこと。とても育児を
放棄したようには見えなかったけど」
父「溺愛ね…それが原因だったりして」
輝夜「え?」
父「愛情を注がれ過ぎても負担になる。
陽叶くんは、母親の愛情が重すぎて
距離を置いていたのかもな…」
輝夜「俺陽叶のこと何も知らないんだな…
今日も連絡してみる。父さん、差し入れ
ありがとう。陽叶の分、父さんが食べてよ。
久しぶりに一緒にご飯食べたい。」
父「そうだな、一緒に食べるか!」
父さんとメンバー、スタッフ達に
囲まれて食べるお弁当は特別な物だった。
この後予定があるという父を
外まで見送った。
時折振り返っては手を振る父へ
手を振り返し、練習へ戻ろうとすると
知らない女性から声をかけられた。
女性「すみません、fascinate eyesの
輝夜さんですか?」
輝夜「はい…そうですが」
そこへ近くに居合わせたスタッフが
駆けつけ、女性を輝夜のファンだと思い
対応は出来ないことを伝えた。
スタッフに促され、女性におじきをして
背を向けると、
女性「あの!陽ちゃん…小日向陽叶さんの
ご実家で家政婦として働いている日野と
申します。」
輝夜は驚いて女性の方を振り向いた。
さっき父から家政婦の存在を
聞いたばかりだからだ。
スタッフに陽叶の知り合いだと話し、
日野さんを楽屋へ案内した。
輝夜は飲み物を差し出し、
日野さんはお礼を言い受け取った。
輝夜「初めまして。陽叶にはとても
お世話になっているんです。でも最近
連絡が取れなくて…元気でいますか?」
日野「こちらこそ、陽ちゃんからいつも
お話聞いております。いつも色々と
ありがとうございます。やっぱり
そうでしたか…何か様子が変だったから」
輝夜「やっぱり…とは」
日野「私、毎年お盆と年末年始は陽ちゃんの
おうちにお邪魔してるんです。たまーに
内緒でそれ以外の日も来ちゃったり……
今年は昨日からおうちに泊まっていて、
お盆には嬉しそうに輝夜さんの話を
してたのに、昨日はずっと暗い顔してて」
輝夜「そうだったんですね…実は10月頃に
偶然陽叶のお母さんとお友達に会って
その瞬間陽叶が取り乱してそこから…」
日野「…奥様が東京に?…はぁ…私が
秋に来た時に後をつけられていたんだわ。」
輝夜「そんなストーカーみたいな言い方…」
日野「その様子では…陽ちゃんは奥様の
話をされてないようですね…」
輝夜「え?」
日野さんは陽叶の幼少期から今に
至るまでの話を丁寧に話してくれた。
母が父と無理やり結婚したこと
不妊治療の最中に占い師と
出会ったこと
陽叶が父を想い自ら父がいない
人生を選んだこと
そして
何故心理学を学ぼうと思ったか
そのきっかけを。
輝夜は信じられなかった。
あの明るい陽叶がそんな辛い過去を
背負って生きてきたなんて
全く想像もつかなかった。
いつも笑顔で、人の心配ばっかりして
そんな様子は微塵も感じさせなかった。
輝夜「俺…何も知らなくて…俺よりも
よっぽど辛い思いしてたのに、俺のために
泣いて…いつも寄り添ってくれて…」
日野「輝夜さんと出会って、本当に
明るくなったんですよ。それまではもう
取り憑かれたように本を読んでは勉強…
あの子がお友達の話をしてくれるなんて
保育園の時以来だったから嬉しくて…」
輝夜「…陽叶のお母さんは今も占い師に
洗脳されたままなんですか?」
日野「ええ、御手洗と入浴以外は常に
行動を共にしていますので…あの女が
いる限りは…いや、いなくなってももう
手遅れでしょうね。」
輝夜「どうにか出来ないんでしょうか…
その占い師を。陽叶の人生を復讐のために
費やしてほしくないですよ…」
日野さんはスマホを取り出し、
少し操作をしてから
輝夜にスマホを差し出した。
日野「この女、雷架という占い師です。
とんだ詐欺師ですよ。懲らしめてやりたい」
輝夜「僕に出来ることはありますか。
…陽叶を救いたい。」
日野「本当は今日、陽ちゃんの様子が
おかしい理由が知りたくて輝夜さんを
尋ねて来たのですが…話していくうちに
思いついてしまいました。あの女を
懲らしめる方法を。」
日野さんの提案は、
秋に日野さんを追ってきた母親は
大体の居場所を掴んだので
今度は家をつきとめるために
年末年始の間にまた追ってくるだろう。
陽叶の願いである
「陽叶の人生から消えてほしい」という
願いを叶える前に
輝夜を「欲しい」と思っている
陽叶の願いを叶えるために
必ず輝夜の前に現れる。
それを見込んで母親達と輝夜の
写真を撮らせて、占い師の正体を
週刊誌に暴かせる
というものだ。
輝夜「なるほど…」
日野「失礼があってはいけないと思って
お会いする前に輝夜さんのことを少し
お調べしました。お母様の事で週刊誌に
取り上げられた輝夜さんでしたら、また
変な女に絡まれていると、大きく世間に
注目されるのではと…ごめんなさい。
あなたを利用するようなことを言って…」
輝夜「いいんです。陽叶のためなら僕を
利用してほしいです。それに日野さんが
陽叶をどれだけ想ってるか…とても
よくわかりました。俺の父親に陽叶が
話してたそうなんです、家政婦さんが
母代わりをしてくれたと…日野さんのこと
だなってお話して確信しました。」
日野さんは口を手で覆い、涙した。
日野「私に何かあったら…あの子は
どうなってしまうのだろうと、ずっと
気がかりで…でも安心しました。
あなたが居てくれるからもう大丈夫ね」
輝夜はティッシュを日野さんへ渡した。
輝夜「今までも、日野さんがいたから
やって来れたんだと思いますよ。二人で
陽叶を救いましょう、復讐の人生から」
二人は固く手を握りあった。
日野さんが控え室を後にすると、
輝夜は練習に合流した。
数時間後に練習を終え、
輝夜はある人へ電話をかけた。
「はい、週刊日昇の森です。」
輝夜「あ、森さん?輝夜です」
森「輝夜さん!お久しぶりです。
あの記事の際は本当に失礼しました。
でもどうしたんですか、輝夜さんから
電話くれるなんて」
輝夜「いや実は最近…占い師を名乗る女性
2人組につけられていて困ってるんです。
母の記事を出して以来、週間日昇さん、
結構叩かれてますよね?提案なんですけど
俺を張って写真を撮ってくれないかなって。」
森「それはもう大炎上でしたよ…
名誉挽回が出来るなら輝夜さんの頼みだし
引き受けたいのですが…その女達、
ただの占い師ではネタになりませんよ?」
輝夜「占い師の名前はらいか。漢字は
雷に十字架の架です。ネットで調べると
出てきます。実は知人の家に住み着いて
洗脳状態にして貢がせてる詐欺師なんです。
素性を調べて記事にしてくれたら俺、
怪しい占い師に絡まれている所を森さんに
助けられたってインタビューに答えますよ。
そうすれば名誉挽回出来ますよね?」
森「なるほど…ん?この女どっかで……
わかりました。その話、乗りましょう。
明日から張らせてもらいますから。」
輝夜「よろしくお願いします。では。」
正直言うと、輝夜は週刊誌が嫌いだ。
母の件といい、記事に弁明出来なければ
社会的に抹殺されかねない。
人の不幸は蜜の味。
嘘でも記事にしてしまえば
事実かのように広まる。
そんな思惑が見え隠れしていて、
大嫌いだ。
だが今は違う。
陽叶のためならどんなことだってする。
どんな奴だって利用してやる。
陽叶が自分を救ってくれたように
俺が絶対に救ってみせる
そんな強い思いを抱いていた。
輝夜と日野さんが話をしていた頃、
陽叶は日野さんの帰りを待っていた。
日野さんはテーブルに
「出かけてきます。夕方には戻ります」と
置き手紙をしていた。
その脇には紙袋が置いてあった。
なんだろうと中身を見てみると
1番上に紙が敷かれていて
「お父さんがあなたに送ってきていた
手紙です。読んでみたら?」
そう書かれていた。
父は出て行ってからもずっと
陽叶のことを気にかけ、
手紙を送ってくれていた。
陽叶は日野さんから送られて来る度に
渡されていたが、読んだら寂しくなると
思い、ずっと読まないと拒んできた。
日野さんは捨てずに取っておいてくれた。
日付を書き、綺麗にファイリングして
保管してくれていたのだ。
おかげで古い順から読むことが出来た。
1番初めに送られてきていた手紙を開く。
陽叶は保育園生だったのに、
文は平仮名ではなく全て漢字で
フリガナがふられていた。
辞書に興味を持っていた陽叶が
言葉を調べられるように。
_________________
お手数ありがとう。
日野さんから受け取りました。
まだ小さい陽叶に気を使わせ、自分から
寂しくなる道を選ばせてしまったこと
本当に申し訳なく思っています。
パパにとって陽叶はたった一人の
可愛い可愛い息子です。
それはこれからも変わりません。
パパはいつでも陽叶のことを
思っているよ。
大好きな陽叶へ。
パパより。
_________________
陽叶は次々と手紙を開けて読んだ。
読み終えた枚数が増えるごとに
流れる涙も多くなっていた。
七五三や入学式、
誕生日やクリスマス。
人生のイベント毎に送られた手紙から
父の陽叶への愛の深さが伝わる。
何枚封を開けたことだろう。
一つ一つ読んでいくと、
金箔の付いた封筒を開く順番が来た。
そこには成人を迎える陽叶へ
父の願いが記されていた。
_________________
成人おめでとう。
あんなに小さかった陽叶がもう
ハタチになるなんて、
信じられないよ。
沢山寂しい思いをさせたこと、
どれだけ身勝手な父親だったか、
大人になった陽叶はきっと私を
嫌いになっていると思う。
陽叶の人生を壊した私が言っては
いけないことだとわかっているけど、
大切にしたいと思える相手に
出会えていたらいいなと思ってる。
情けないことだけど、陽叶が私の
幸せを願ってくれたように、
陽叶にも大切な人と
幸せになってほしい。
この先の陽叶の未来がずっと
明るいものであるように
願っています。
_________________
この手紙を読み終えた時、
日野さんが帰ってきた。
日野「ただいま!お、手紙読んだのね。
お父さん喜ぶわよ。もー!こんなに目を
赤くして泣いちゃって」
陽叶「パマさん…父さんに返事書きたい」
日野「うん、そうね。でも、直接会って
ゆっくり話すのもいいんじゃない?」
陽叶「え?」
日野さんは3枚のチケットを広げて
陽叶に見せた。
日野「今日ね、輝夜さんに会ってきたの。
心配してたわよ、凄く。このチケットを
くれて、陽叶と一緒によかったらって。
3枚あるからお父さんも呼んでみない?」
陽叶「どうして会いに…」
日野「陽ちゃん、奥様と会ったのね。
きっと私が秋に後をつけられたんだわ。
ごめんなさい。嫌な思いさせちゃって。
私ね、あなたが苦しむのはもう嫌なの。
ずっと抱え込んで暗い顔してたのに
輝夜さんに出会ってからは楽しそうで
本当に安心したし、嬉しかったわ。
彼ならあなたを救ってくれると思って
話に言ったの。もうあの人達から
逃げる人生から解放されてほしいから」
陽叶「そんな…輝夜さんを巻き込むのは
どうしても嫌だよ。輝夜さんは…僕の…
大切な人だから」
日野「陽ちゃん。あなたが輝夜さんを
大切に思うように、輝夜さんもあなたを
大切だと思っているわ。あなたのために
なら何でもするから利用してくれって。
自分のことばっかりで陽叶の辛さに
気付けなかったって悔やんでた。
こんなに思われているのに、まだ偽物の
自分を演じ続けていくの?」
陽叶「偽物の自分…あの時の輝夜さんと
一緒だ…」
日野「輝夜さんは本当の、ありのままの
あなたを受け入れたいと思ってる。
連絡、返してあげなさい。
落ち着いたらでいいから。お父さんには
私から連絡してみるわね。
さ!今日はオムライスよー!」
陽叶は読み終えた手紙をファイルに
戻しながら、輝夜のことを考えていた。
夕食を食べ終え、部屋のベッドに
座りながら、輝夜への返信を打ち込む。
何度も何度も
文を入れたり消したりを繰り返す。
悩んだ末に
【ずっと連絡出来なくてごめんなさい】
と、送信し、すぐに
【会いたい。けど、会えない。怖いんだ】
と続けた。
携帯を枕元に投げて
大の字になって寝転がった。
目の上に腕をのせて、
深いため息をついた。
同時刻
輝夜の携帯が鳴った。
ホーム画面の通知には【陽叶】の文字。
輝夜は慌ててメッセージを見た。
【ずっと連絡出来なくてごめんなさい】
【会いたい。けど、会えない。怖いんだ】
陽叶の過去を考えたら
怖くなるのも無理はない。
自分にも相談出来るくらいに、もっと
話しをしてたら…もっと会っていたら…
悔しい気持ちが込み上げてくる。
輝夜は
【連絡くれて安心した。大丈夫か?】
【必ず助けるから。待ってて】
と、送信した。
陽叶は輝夜からの返信をすぐに見て
頬を赤らめた。
本当に助けてくれるような気がして、
頼もしくて、ドキドキした。
自分の恋心が身体に出始めている。
人を好きになるって
こんなにもドキドキして、
嬉しくて、切なくて、辛いんだ…
パパもこんな気持ちだったのかな
もしそうなら
あの時パパを手放した自分を
褒めてあげたい
だってこんな気持ちをずっと隠して
好きでもない人と生き続けるなんて
そんな悲しいことはない。
もしパパと会えた時には、
こう伝えよう。
大人になっても嫌いになんて
なってないよ。
あの時パパの幸せを願ったこと、
今でも後悔してない。
パパの幸せは自分の幸せ。
変わらずそう思い続けられるのは
俺にも大切な人が出来たから
…と。
年明けの1月9.10.11日の3日間。
今日は12月30日。
輝夜はライブの最終調整に入っていた。
数曲歌いきったあと、
スタッフから
「輝夜さーん!」と呼ばれる。
スタッフの声の方向へ向くと
父が手を笑顔で振っていた。
スタッフ「輝夜さんのお父様からお弁当の
差し入れをいただきましたー!」
メンバー達「うわ!このお弁当、超人気な
お店のじゃん!すげー!パパありがとう!」
メンバー達はいつの間に父と
仲良くなったのかと不思議だったが
父の嬉しそうな顔に輝夜も笑顔になった。
全員分の弁当を配っていると
1つ余ってしまった。
父「あれ…?そういえば陽叶くんは?」
輝夜「余ったのは陽叶の分か…
ごめん父さん、陽叶とはしばらく
連絡が取れてないんだ」
父「そうだったのか、心配だな。元気なら
いいけど…喧嘩でもしたのか?」
輝夜「喧嘩なんてしてないよ、この間
ばぁちゃんのお見舞い帰りに陽叶の母親に
声掛けられてさ。その瞬間パニックを
起こしたみたいに取り乱して
いなくなっちゃったんだ。それっきり。」
父「そんな事が……そういえば陽叶くん
家政婦さんが母親代わりをしてくれたって
言ってたよ。家政婦さんがいるなんて
余程いいおうちに生まれたんだろうな」
輝夜「でもお母さん、溺愛してるように
見えたよ、陽叶のこと。とても育児を
放棄したようには見えなかったけど」
父「溺愛ね…それが原因だったりして」
輝夜「え?」
父「愛情を注がれ過ぎても負担になる。
陽叶くんは、母親の愛情が重すぎて
距離を置いていたのかもな…」
輝夜「俺陽叶のこと何も知らないんだな…
今日も連絡してみる。父さん、差し入れ
ありがとう。陽叶の分、父さんが食べてよ。
久しぶりに一緒にご飯食べたい。」
父「そうだな、一緒に食べるか!」
父さんとメンバー、スタッフ達に
囲まれて食べるお弁当は特別な物だった。
この後予定があるという父を
外まで見送った。
時折振り返っては手を振る父へ
手を振り返し、練習へ戻ろうとすると
知らない女性から声をかけられた。
女性「すみません、fascinate eyesの
輝夜さんですか?」
輝夜「はい…そうですが」
そこへ近くに居合わせたスタッフが
駆けつけ、女性を輝夜のファンだと思い
対応は出来ないことを伝えた。
スタッフに促され、女性におじきをして
背を向けると、
女性「あの!陽ちゃん…小日向陽叶さんの
ご実家で家政婦として働いている日野と
申します。」
輝夜は驚いて女性の方を振り向いた。
さっき父から家政婦の存在を
聞いたばかりだからだ。
スタッフに陽叶の知り合いだと話し、
日野さんを楽屋へ案内した。
輝夜は飲み物を差し出し、
日野さんはお礼を言い受け取った。
輝夜「初めまして。陽叶にはとても
お世話になっているんです。でも最近
連絡が取れなくて…元気でいますか?」
日野「こちらこそ、陽ちゃんからいつも
お話聞いております。いつも色々と
ありがとうございます。やっぱり
そうでしたか…何か様子が変だったから」
輝夜「やっぱり…とは」
日野「私、毎年お盆と年末年始は陽ちゃんの
おうちにお邪魔してるんです。たまーに
内緒でそれ以外の日も来ちゃったり……
今年は昨日からおうちに泊まっていて、
お盆には嬉しそうに輝夜さんの話を
してたのに、昨日はずっと暗い顔してて」
輝夜「そうだったんですね…実は10月頃に
偶然陽叶のお母さんとお友達に会って
その瞬間陽叶が取り乱してそこから…」
日野「…奥様が東京に?…はぁ…私が
秋に来た時に後をつけられていたんだわ。」
輝夜「そんなストーカーみたいな言い方…」
日野「その様子では…陽ちゃんは奥様の
話をされてないようですね…」
輝夜「え?」
日野さんは陽叶の幼少期から今に
至るまでの話を丁寧に話してくれた。
母が父と無理やり結婚したこと
不妊治療の最中に占い師と
出会ったこと
陽叶が父を想い自ら父がいない
人生を選んだこと
そして
何故心理学を学ぼうと思ったか
そのきっかけを。
輝夜は信じられなかった。
あの明るい陽叶がそんな辛い過去を
背負って生きてきたなんて
全く想像もつかなかった。
いつも笑顔で、人の心配ばっかりして
そんな様子は微塵も感じさせなかった。
輝夜「俺…何も知らなくて…俺よりも
よっぽど辛い思いしてたのに、俺のために
泣いて…いつも寄り添ってくれて…」
日野「輝夜さんと出会って、本当に
明るくなったんですよ。それまではもう
取り憑かれたように本を読んでは勉強…
あの子がお友達の話をしてくれるなんて
保育園の時以来だったから嬉しくて…」
輝夜「…陽叶のお母さんは今も占い師に
洗脳されたままなんですか?」
日野「ええ、御手洗と入浴以外は常に
行動を共にしていますので…あの女が
いる限りは…いや、いなくなってももう
手遅れでしょうね。」
輝夜「どうにか出来ないんでしょうか…
その占い師を。陽叶の人生を復讐のために
費やしてほしくないですよ…」
日野さんはスマホを取り出し、
少し操作をしてから
輝夜にスマホを差し出した。
日野「この女、雷架という占い師です。
とんだ詐欺師ですよ。懲らしめてやりたい」
輝夜「僕に出来ることはありますか。
…陽叶を救いたい。」
日野「本当は今日、陽ちゃんの様子が
おかしい理由が知りたくて輝夜さんを
尋ねて来たのですが…話していくうちに
思いついてしまいました。あの女を
懲らしめる方法を。」
日野さんの提案は、
秋に日野さんを追ってきた母親は
大体の居場所を掴んだので
今度は家をつきとめるために
年末年始の間にまた追ってくるだろう。
陽叶の願いである
「陽叶の人生から消えてほしい」という
願いを叶える前に
輝夜を「欲しい」と思っている
陽叶の願いを叶えるために
必ず輝夜の前に現れる。
それを見込んで母親達と輝夜の
写真を撮らせて、占い師の正体を
週刊誌に暴かせる
というものだ。
輝夜「なるほど…」
日野「失礼があってはいけないと思って
お会いする前に輝夜さんのことを少し
お調べしました。お母様の事で週刊誌に
取り上げられた輝夜さんでしたら、また
変な女に絡まれていると、大きく世間に
注目されるのではと…ごめんなさい。
あなたを利用するようなことを言って…」
輝夜「いいんです。陽叶のためなら僕を
利用してほしいです。それに日野さんが
陽叶をどれだけ想ってるか…とても
よくわかりました。俺の父親に陽叶が
話してたそうなんです、家政婦さんが
母代わりをしてくれたと…日野さんのこと
だなってお話して確信しました。」
日野さんは口を手で覆い、涙した。
日野「私に何かあったら…あの子は
どうなってしまうのだろうと、ずっと
気がかりで…でも安心しました。
あなたが居てくれるからもう大丈夫ね」
輝夜はティッシュを日野さんへ渡した。
輝夜「今までも、日野さんがいたから
やって来れたんだと思いますよ。二人で
陽叶を救いましょう、復讐の人生から」
二人は固く手を握りあった。
日野さんが控え室を後にすると、
輝夜は練習に合流した。
数時間後に練習を終え、
輝夜はある人へ電話をかけた。
「はい、週刊日昇の森です。」
輝夜「あ、森さん?輝夜です」
森「輝夜さん!お久しぶりです。
あの記事の際は本当に失礼しました。
でもどうしたんですか、輝夜さんから
電話くれるなんて」
輝夜「いや実は最近…占い師を名乗る女性
2人組につけられていて困ってるんです。
母の記事を出して以来、週間日昇さん、
結構叩かれてますよね?提案なんですけど
俺を張って写真を撮ってくれないかなって。」
森「それはもう大炎上でしたよ…
名誉挽回が出来るなら輝夜さんの頼みだし
引き受けたいのですが…その女達、
ただの占い師ではネタになりませんよ?」
輝夜「占い師の名前はらいか。漢字は
雷に十字架の架です。ネットで調べると
出てきます。実は知人の家に住み着いて
洗脳状態にして貢がせてる詐欺師なんです。
素性を調べて記事にしてくれたら俺、
怪しい占い師に絡まれている所を森さんに
助けられたってインタビューに答えますよ。
そうすれば名誉挽回出来ますよね?」
森「なるほど…ん?この女どっかで……
わかりました。その話、乗りましょう。
明日から張らせてもらいますから。」
輝夜「よろしくお願いします。では。」
正直言うと、輝夜は週刊誌が嫌いだ。
母の件といい、記事に弁明出来なければ
社会的に抹殺されかねない。
人の不幸は蜜の味。
嘘でも記事にしてしまえば
事実かのように広まる。
そんな思惑が見え隠れしていて、
大嫌いだ。
だが今は違う。
陽叶のためならどんなことだってする。
どんな奴だって利用してやる。
陽叶が自分を救ってくれたように
俺が絶対に救ってみせる
そんな強い思いを抱いていた。
輝夜と日野さんが話をしていた頃、
陽叶は日野さんの帰りを待っていた。
日野さんはテーブルに
「出かけてきます。夕方には戻ります」と
置き手紙をしていた。
その脇には紙袋が置いてあった。
なんだろうと中身を見てみると
1番上に紙が敷かれていて
「お父さんがあなたに送ってきていた
手紙です。読んでみたら?」
そう書かれていた。
父は出て行ってからもずっと
陽叶のことを気にかけ、
手紙を送ってくれていた。
陽叶は日野さんから送られて来る度に
渡されていたが、読んだら寂しくなると
思い、ずっと読まないと拒んできた。
日野さんは捨てずに取っておいてくれた。
日付を書き、綺麗にファイリングして
保管してくれていたのだ。
おかげで古い順から読むことが出来た。
1番初めに送られてきていた手紙を開く。
陽叶は保育園生だったのに、
文は平仮名ではなく全て漢字で
フリガナがふられていた。
辞書に興味を持っていた陽叶が
言葉を調べられるように。
_________________
お手数ありがとう。
日野さんから受け取りました。
まだ小さい陽叶に気を使わせ、自分から
寂しくなる道を選ばせてしまったこと
本当に申し訳なく思っています。
パパにとって陽叶はたった一人の
可愛い可愛い息子です。
それはこれからも変わりません。
パパはいつでも陽叶のことを
思っているよ。
大好きな陽叶へ。
パパより。
_________________
陽叶は次々と手紙を開けて読んだ。
読み終えた枚数が増えるごとに
流れる涙も多くなっていた。
七五三や入学式、
誕生日やクリスマス。
人生のイベント毎に送られた手紙から
父の陽叶への愛の深さが伝わる。
何枚封を開けたことだろう。
一つ一つ読んでいくと、
金箔の付いた封筒を開く順番が来た。
そこには成人を迎える陽叶へ
父の願いが記されていた。
_________________
成人おめでとう。
あんなに小さかった陽叶がもう
ハタチになるなんて、
信じられないよ。
沢山寂しい思いをさせたこと、
どれだけ身勝手な父親だったか、
大人になった陽叶はきっと私を
嫌いになっていると思う。
陽叶の人生を壊した私が言っては
いけないことだとわかっているけど、
大切にしたいと思える相手に
出会えていたらいいなと思ってる。
情けないことだけど、陽叶が私の
幸せを願ってくれたように、
陽叶にも大切な人と
幸せになってほしい。
この先の陽叶の未来がずっと
明るいものであるように
願っています。
_________________
この手紙を読み終えた時、
日野さんが帰ってきた。
日野「ただいま!お、手紙読んだのね。
お父さん喜ぶわよ。もー!こんなに目を
赤くして泣いちゃって」
陽叶「パマさん…父さんに返事書きたい」
日野「うん、そうね。でも、直接会って
ゆっくり話すのもいいんじゃない?」
陽叶「え?」
日野さんは3枚のチケットを広げて
陽叶に見せた。
日野「今日ね、輝夜さんに会ってきたの。
心配してたわよ、凄く。このチケットを
くれて、陽叶と一緒によかったらって。
3枚あるからお父さんも呼んでみない?」
陽叶「どうして会いに…」
日野「陽ちゃん、奥様と会ったのね。
きっと私が秋に後をつけられたんだわ。
ごめんなさい。嫌な思いさせちゃって。
私ね、あなたが苦しむのはもう嫌なの。
ずっと抱え込んで暗い顔してたのに
輝夜さんに出会ってからは楽しそうで
本当に安心したし、嬉しかったわ。
彼ならあなたを救ってくれると思って
話に言ったの。もうあの人達から
逃げる人生から解放されてほしいから」
陽叶「そんな…輝夜さんを巻き込むのは
どうしても嫌だよ。輝夜さんは…僕の…
大切な人だから」
日野「陽ちゃん。あなたが輝夜さんを
大切に思うように、輝夜さんもあなたを
大切だと思っているわ。あなたのために
なら何でもするから利用してくれって。
自分のことばっかりで陽叶の辛さに
気付けなかったって悔やんでた。
こんなに思われているのに、まだ偽物の
自分を演じ続けていくの?」
陽叶「偽物の自分…あの時の輝夜さんと
一緒だ…」
日野「輝夜さんは本当の、ありのままの
あなたを受け入れたいと思ってる。
連絡、返してあげなさい。
落ち着いたらでいいから。お父さんには
私から連絡してみるわね。
さ!今日はオムライスよー!」
陽叶は読み終えた手紙をファイルに
戻しながら、輝夜のことを考えていた。
夕食を食べ終え、部屋のベッドに
座りながら、輝夜への返信を打ち込む。
何度も何度も
文を入れたり消したりを繰り返す。
悩んだ末に
【ずっと連絡出来なくてごめんなさい】
と、送信し、すぐに
【会いたい。けど、会えない。怖いんだ】
と続けた。
携帯を枕元に投げて
大の字になって寝転がった。
目の上に腕をのせて、
深いため息をついた。
同時刻
輝夜の携帯が鳴った。
ホーム画面の通知には【陽叶】の文字。
輝夜は慌ててメッセージを見た。
【ずっと連絡出来なくてごめんなさい】
【会いたい。けど、会えない。怖いんだ】
陽叶の過去を考えたら
怖くなるのも無理はない。
自分にも相談出来るくらいに、もっと
話しをしてたら…もっと会っていたら…
悔しい気持ちが込み上げてくる。
輝夜は
【連絡くれて安心した。大丈夫か?】
【必ず助けるから。待ってて】
と、送信した。
陽叶は輝夜からの返信をすぐに見て
頬を赤らめた。
本当に助けてくれるような気がして、
頼もしくて、ドキドキした。
自分の恋心が身体に出始めている。
人を好きになるって
こんなにもドキドキして、
嬉しくて、切なくて、辛いんだ…
パパもこんな気持ちだったのかな
もしそうなら
あの時パパを手放した自分を
褒めてあげたい
だってこんな気持ちをずっと隠して
好きでもない人と生き続けるなんて
そんな悲しいことはない。
もしパパと会えた時には、
こう伝えよう。
大人になっても嫌いになんて
なってないよ。
あの時パパの幸せを願ったこと、
今でも後悔してない。
パパの幸せは自分の幸せ。
変わらずそう思い続けられるのは
俺にも大切な人が出来たから
…と。
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