6 / 24
#第二話 #隠し事 #前髪
しおりを挟む
『——試練:隠していたことを話してみよう! 絆が深まるきっかけになりますよ!』
スマホが同時に震え、画面には新しいメッセージが浮かび上がる。それを見た蒼依の表情が一瞬だけ固まる。
「そんなの絶対言える訳ないじゃん……」
蒼依は戸惑いながら、画面をじっと見つめていた。いつも強気で勝ち気な彼女が、すこし動揺しているのが分かる。
「さっそく試練に負けちゃったみたいだな——」
春樹の口元が緩んだのを見ると、蒼依はムッとした様子で続けた。
「別に負けてないし。こんなの簡単だもん」
「春樹こそ、人に言えない秘密とかあるんじゃないの?」
「そんなの特に無いよ」
「す、スマホに入ってる変な画像とか……」
蒼依の声が途中から小さくなった。
「入ってない! 変なこと言うなよ!」
「だって、結衣がそう言ってたし——検索履歴には必ず"癖"が現れるって」
「現れねえよ! そんなの見るなよ、絶対に!」
「なんで隠すのよ。もしかして本当にそうだったのかしら」
蒼依が呆れのこもった眼差しを、春樹に向けていた。
「試練だよ、ほら」
春樹は迷っていた。隠していたことを話すと言っても、蒼依はほとんど知っている。
今、隠していることを話すとなると——実は好きな人がいるなんて、絶対に言える訳がない。
「じゃあ、私からいこうかな。こういうのは先に言った方が勝ちだし」
「変なルールを増やすなよ」
「別に増やしてない。でも、ちょっと恥ずかしくなってきたかも……」
蒼依は視線を下に落として、ためらうように唇を軽く噛む——そして意を決したように顔を上げた。
「中ニのときの話でも、いい?——多分これ、春樹は知らないから」
「一回、喧嘩した後に、全然会わなかったことがあったでしょ?」
「なんとなく覚えてる。あの時は、本気で嫌われたと思ってた」
春樹にとっては、あまり思い出したくない過去だったが、蒼依が小さな声でつぶやいていく。
「嫌ってなんかないよ。気が強くて、可愛げがないって言葉には、結構ムカついたけど」
「そんなこと言ったっけ。よく覚えてないな」
(覚えてたのかよ。でもあれだって、蒼依が俺より英語のテストの点数が、二点だけ良かったことを、延々と勝ち誇ったように続けたからで……)
「でも、それも今じゃ思い出。ほんとはね——」
そう言いながら、蒼依が自分の前髪を撫でた。
「せっかく前髪作ってもらったんだけど、なんか似合わない気がして、ちょっと切ってみたの」
「前髪? そんな話、初耳なんだけど」
「……そしたら、次の日、友達には『姫みたいで可愛い』って言われた」
蒼依が苦笑いしながら続けていく。
「最初は気にしてなかったんだけど、皆が姫みたいで可愛いとか、二組のお姫様とか言うから、なんか恥ずかしくなってきちゃって——」
「だから、絶対春樹にだけは、見られたくなかったの。あの、ぱっつんの前髪」
居心地の良い沈黙の中で、蒼依が手で顔を仰ぐような仕草をしながら、窓際の壁に寄りかかっていた。
「何だよ、もう。こっちは三キロも痩せたっていうのに」
「だって、あんな姿見せるの……負けた気がして嫌だったし……」
蒼依がごめんね、と小さく付け足した。
「だから前髪伸びるまで、ずっと避けてた。喧嘩のせいだって、勘違いさせたまま——」
「……別にいいけどさ。俺も見たかったな、その前髪」
「っ、もうこの話は終わり。次は春樹の番だから」
驚いたような様子の後に、そっぽを向きながら、蒼依が早くしなさいよ、催促する。
「実は俺、納豆は千回かき混ぜる派なんだ——」
「豆の粒感が苦手でさ、クリームになるくらいまでかき混ぜたく……」
「は? 隠してたの、それ」
それは違うだろと、不機嫌になってしまった蒼依を前にしながら、春樹は黙りこむ。
「……高校受験でキツかった時、蒼依と写ってる写真を待ち受けにしてた」
「えっ? そ、それってどういう意味なの——」
蒼依が驚いたような顔を見せてから、すぐに取り繕うように窓の外を見つめていた。
「喧嘩して、ちょっと不機嫌そうな顔で写ってる写真なんだけど、俺が折れそうな時に、バカ、何負けそうになってんのよ! って言ってくれるような気がして……」
「もう。私をそんな風に使わないでよ」
「ち、直接言ってくれたら、すこしは優しくしてあげたかもしれないのに……」
——腕を組みながら、蒼依が吐息混じりに呟いた。落ちてきた日差しのせいか、なんだか横顔が綺麗で、耳の先が夕日よりも赤く染まっている。
「……変な空気にしないでよ、バカ春樹」
「蒼依の方こそ、前髪なんか気にするなんてらしくないぞ」
「う、うるさい! この鈍感納豆千回男!」
蒼依が髪をいじりながら、不機嫌そうに呟いたが、いつもより口角が緩んでいることを、春樹は見逃さなかった。
まるで沈黙を検知したかのように、スマホが振動する。画面には新しい通知が表示されていた。
『絆が深まりましたね。春樹の恋ごころ+10 蒼依の恋ごころ+15』
恋むすびのエフェクト。春樹の器の方が、液体が少なかったが、蒼依の器よりもすでに注がれている量が多い。
「なっ、なんで私の方がポイント多いのよ」
「知るかよ。あー、めっちゃ恥ずかしかった」
「私だって、めーっちゃ恥ずかしかったし」
蒼依がスマホの画面を乱雑に消すと、目の前の机の上に静かに置いた。
スマホが同時に震え、画面には新しいメッセージが浮かび上がる。それを見た蒼依の表情が一瞬だけ固まる。
「そんなの絶対言える訳ないじゃん……」
蒼依は戸惑いながら、画面をじっと見つめていた。いつも強気で勝ち気な彼女が、すこし動揺しているのが分かる。
「さっそく試練に負けちゃったみたいだな——」
春樹の口元が緩んだのを見ると、蒼依はムッとした様子で続けた。
「別に負けてないし。こんなの簡単だもん」
「春樹こそ、人に言えない秘密とかあるんじゃないの?」
「そんなの特に無いよ」
「す、スマホに入ってる変な画像とか……」
蒼依の声が途中から小さくなった。
「入ってない! 変なこと言うなよ!」
「だって、結衣がそう言ってたし——検索履歴には必ず"癖"が現れるって」
「現れねえよ! そんなの見るなよ、絶対に!」
「なんで隠すのよ。もしかして本当にそうだったのかしら」
蒼依が呆れのこもった眼差しを、春樹に向けていた。
「試練だよ、ほら」
春樹は迷っていた。隠していたことを話すと言っても、蒼依はほとんど知っている。
今、隠していることを話すとなると——実は好きな人がいるなんて、絶対に言える訳がない。
「じゃあ、私からいこうかな。こういうのは先に言った方が勝ちだし」
「変なルールを増やすなよ」
「別に増やしてない。でも、ちょっと恥ずかしくなってきたかも……」
蒼依は視線を下に落として、ためらうように唇を軽く噛む——そして意を決したように顔を上げた。
「中ニのときの話でも、いい?——多分これ、春樹は知らないから」
「一回、喧嘩した後に、全然会わなかったことがあったでしょ?」
「なんとなく覚えてる。あの時は、本気で嫌われたと思ってた」
春樹にとっては、あまり思い出したくない過去だったが、蒼依が小さな声でつぶやいていく。
「嫌ってなんかないよ。気が強くて、可愛げがないって言葉には、結構ムカついたけど」
「そんなこと言ったっけ。よく覚えてないな」
(覚えてたのかよ。でもあれだって、蒼依が俺より英語のテストの点数が、二点だけ良かったことを、延々と勝ち誇ったように続けたからで……)
「でも、それも今じゃ思い出。ほんとはね——」
そう言いながら、蒼依が自分の前髪を撫でた。
「せっかく前髪作ってもらったんだけど、なんか似合わない気がして、ちょっと切ってみたの」
「前髪? そんな話、初耳なんだけど」
「……そしたら、次の日、友達には『姫みたいで可愛い』って言われた」
蒼依が苦笑いしながら続けていく。
「最初は気にしてなかったんだけど、皆が姫みたいで可愛いとか、二組のお姫様とか言うから、なんか恥ずかしくなってきちゃって——」
「だから、絶対春樹にだけは、見られたくなかったの。あの、ぱっつんの前髪」
居心地の良い沈黙の中で、蒼依が手で顔を仰ぐような仕草をしながら、窓際の壁に寄りかかっていた。
「何だよ、もう。こっちは三キロも痩せたっていうのに」
「だって、あんな姿見せるの……負けた気がして嫌だったし……」
蒼依がごめんね、と小さく付け足した。
「だから前髪伸びるまで、ずっと避けてた。喧嘩のせいだって、勘違いさせたまま——」
「……別にいいけどさ。俺も見たかったな、その前髪」
「っ、もうこの話は終わり。次は春樹の番だから」
驚いたような様子の後に、そっぽを向きながら、蒼依が早くしなさいよ、催促する。
「実は俺、納豆は千回かき混ぜる派なんだ——」
「豆の粒感が苦手でさ、クリームになるくらいまでかき混ぜたく……」
「は? 隠してたの、それ」
それは違うだろと、不機嫌になってしまった蒼依を前にしながら、春樹は黙りこむ。
「……高校受験でキツかった時、蒼依と写ってる写真を待ち受けにしてた」
「えっ? そ、それってどういう意味なの——」
蒼依が驚いたような顔を見せてから、すぐに取り繕うように窓の外を見つめていた。
「喧嘩して、ちょっと不機嫌そうな顔で写ってる写真なんだけど、俺が折れそうな時に、バカ、何負けそうになってんのよ! って言ってくれるような気がして……」
「もう。私をそんな風に使わないでよ」
「ち、直接言ってくれたら、すこしは優しくしてあげたかもしれないのに……」
——腕を組みながら、蒼依が吐息混じりに呟いた。落ちてきた日差しのせいか、なんだか横顔が綺麗で、耳の先が夕日よりも赤く染まっている。
「……変な空気にしないでよ、バカ春樹」
「蒼依の方こそ、前髪なんか気にするなんてらしくないぞ」
「う、うるさい! この鈍感納豆千回男!」
蒼依が髪をいじりながら、不機嫌そうに呟いたが、いつもより口角が緩んでいることを、春樹は見逃さなかった。
まるで沈黙を検知したかのように、スマホが振動する。画面には新しい通知が表示されていた。
『絆が深まりましたね。春樹の恋ごころ+10 蒼依の恋ごころ+15』
恋むすびのエフェクト。春樹の器の方が、液体が少なかったが、蒼依の器よりもすでに注がれている量が多い。
「なっ、なんで私の方がポイント多いのよ」
「知るかよ。あー、めっちゃ恥ずかしかった」
「私だって、めーっちゃ恥ずかしかったし」
蒼依がスマホの画面を乱雑に消すと、目の前の机の上に静かに置いた。
1
あなたにおすすめの小説
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる