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#第七話 #秘密 #大切なこと
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『——試練:相手に言える秘密を打ち明けてみよう!』
スマホが震え、新たな試練が画面に表示される。それを見た瞬間、二人は思わず顔を見合わせた。
「また変わったのが来たな」
「次は一体、何?」
画面には『お互いの秘密を共有してみよう』という筆文字が浮かび上がっていた。とことこ歩いてきた巫女のキャラクターが可愛らしく両手を合わせながら、『秘密を打ち明けることで、絆がさらに深まりますよ』と微笑んでいる。
「秘密って、人に言えないからこそ秘密なのよね」
蒼依が訝しげな顔をしながら言う。
「アプリがクリア判定するみたいだぞ。あとでフォームに入力するか、音声入力に対応させるかが選べるみたいだ」
「俺、そんなに秘密とかないけどな」
「私だって、別に秘密なんてないけど」
「じゃあ、とりあえず俺から言うか」
このままじゃ進まないと思い、春樹はちょっと考えてみた。本気で隠しておきたいこと——たとえば、蒼依に関する秘密——それは絶対に言えないし、軽すぎても秘密にはならない。
すこしの沈黙の後、言うことを決めた春樹が口を開いた。
「実は俺、人の物を壊しちゃったことがあるんだ」
「えっ?」
蒼依が驚いた顔をする。
「小学生の時、父さんが大切にしてたカメラを、間違って床に落として壊しちゃってさ。なかなか言い出せなかったんだ」
「それって、結局どうなったの?」
「父さんは、買い替えようと思ってたんだよな、って言って、気づかないふりをしてくれたみたいだ。でも、すぐに言えなかった罪悪感は残ってて……」
「だから、あの時からはすぐに謝るようにしてきた。見て見ぬふりは、ずっとモヤモヤするからさ」
蒼依は驚いたように微笑んでいた。その目は、ほんの少しの優しさが混じっているようでもあった。
「春樹の『ごめん』にはそういう理由もあったのね。もちろん私の秘密が勝つに決まってるけど」
「だったら、そのすごい秘密とやらを聞かせてくれよ」
「ちょっと。そんなにハードル上げられても困るんだけど」
「自分で言ったんだぞ、まったく……」
そう言った後に、蒼依はすこしだけ強気な目をする。何かを決心するように、一度だけうなずいたが、踏ん切りがつかないのか、しばらく視線を泳がせていた。
「実は昔、春樹のことを、友達って言うのがちょっと怖かったの。幼なじみって言葉が、昔から知ってる、と違う意味を持ちそうな時に、私は今でも『もう良いでしょ』って言いたくなるから……」
「えっ?」
予想外の秘密に、春樹は一瞬、言葉を失った。
「小学校六年生の時のこと、覚えてる?」
「橘くんと付き合ってるんだよね、って噂話」
蒼依がそう言いながら、視線をゆっくりと落としていく。
「私、あの時は笑いながら、いつも否定してた。まさか、ただの幼なじみだよ、って」
「覚えてる。そんなわけないだろって、俺も否定してたから」
春樹は、昔と同じような笑顔の蒼依を見ながら、試練で掲示された秘密という言葉を思い出していた。
「桜庭さんと橘くんって、付き合ってるんでしょ?」
「だって、いつも一緒だもん」
「そんなに仲良いんだし、将来は結婚式に呼んでね」
蒼依が一つ一つの言葉を確かめるようにしながら、懐かしむように呟いていく。
「ふふっ、小学生って感じでしょ? でも、素直で楽しかったな」
「あの時、正直ね。満更でもなかったんだ」
「“仲いい”って言われるの、ちょっと嬉しかった。私たちの関係が、ただの友達じゃないみたいで」
蒼依は静かに息を吸って、言葉を整えるように続けていく。
「でも、今は違う。その“仲いい”が、便利な言い訳みたいになっちゃってる気がして……」
言いかけて、蒼依はそこで止めた。そして結局、もういいでしょ、と強がるように付け足してしまう。
「で、でも、それは、やっぱり嫌っていうか——」
蒼依はもごもごと口ごもる。顔がだんだん赤くなっていくのが分かった。
「た、他意なんて別に無いんだから。ただの友達じゃないんだけどな、って思ってただけで……」
「それが、蒼依の秘密なんだな」
春樹がゆっくりとつぶやくと、蒼依は突然立ち上がり、勢いよく顔を振った。
「もう終わり! この試練、クリアってことでいいでしょ!」
「いや、待てよ。そんな急に——」
止める間もなく、スマホが震えた。
『試練クリア! 絆が深まりました。春樹の恋ごころ+30、蒼依の恋ごころ+25』
画面には、キラキラした液体が器に注がれるアニメーションが流れる。
春樹は自身の心拍数からして、蒼依よりもすこしだけ多い恋ごころで満たされていることに、密かに納得していたのだった。
「あー、恥ずかしい。き、今日のことは忘れていいから」
「こんな大切なことを忘れろっていうのか」
「なっ……そ、そういう意味じゃなくて」
春樹のちょっと真剣な言葉に、蒼依が顔を真っ赤にして否定する。
「すまん、俺も変なことを言ったかも」
顔が熱かった。柄にもないことを言っているなと、自分で気づいたからだった。
「別に、変なことじゃないけど」
うつむいていた蒼依が、消え入るような声で、小さくつぶやいた。
スマホが震え、新たな試練が画面に表示される。それを見た瞬間、二人は思わず顔を見合わせた。
「また変わったのが来たな」
「次は一体、何?」
画面には『お互いの秘密を共有してみよう』という筆文字が浮かび上がっていた。とことこ歩いてきた巫女のキャラクターが可愛らしく両手を合わせながら、『秘密を打ち明けることで、絆がさらに深まりますよ』と微笑んでいる。
「秘密って、人に言えないからこそ秘密なのよね」
蒼依が訝しげな顔をしながら言う。
「アプリがクリア判定するみたいだぞ。あとでフォームに入力するか、音声入力に対応させるかが選べるみたいだ」
「俺、そんなに秘密とかないけどな」
「私だって、別に秘密なんてないけど」
「じゃあ、とりあえず俺から言うか」
このままじゃ進まないと思い、春樹はちょっと考えてみた。本気で隠しておきたいこと——たとえば、蒼依に関する秘密——それは絶対に言えないし、軽すぎても秘密にはならない。
すこしの沈黙の後、言うことを決めた春樹が口を開いた。
「実は俺、人の物を壊しちゃったことがあるんだ」
「えっ?」
蒼依が驚いた顔をする。
「小学生の時、父さんが大切にしてたカメラを、間違って床に落として壊しちゃってさ。なかなか言い出せなかったんだ」
「それって、結局どうなったの?」
「父さんは、買い替えようと思ってたんだよな、って言って、気づかないふりをしてくれたみたいだ。でも、すぐに言えなかった罪悪感は残ってて……」
「だから、あの時からはすぐに謝るようにしてきた。見て見ぬふりは、ずっとモヤモヤするからさ」
蒼依は驚いたように微笑んでいた。その目は、ほんの少しの優しさが混じっているようでもあった。
「春樹の『ごめん』にはそういう理由もあったのね。もちろん私の秘密が勝つに決まってるけど」
「だったら、そのすごい秘密とやらを聞かせてくれよ」
「ちょっと。そんなにハードル上げられても困るんだけど」
「自分で言ったんだぞ、まったく……」
そう言った後に、蒼依はすこしだけ強気な目をする。何かを決心するように、一度だけうなずいたが、踏ん切りがつかないのか、しばらく視線を泳がせていた。
「実は昔、春樹のことを、友達って言うのがちょっと怖かったの。幼なじみって言葉が、昔から知ってる、と違う意味を持ちそうな時に、私は今でも『もう良いでしょ』って言いたくなるから……」
「えっ?」
予想外の秘密に、春樹は一瞬、言葉を失った。
「小学校六年生の時のこと、覚えてる?」
「橘くんと付き合ってるんだよね、って噂話」
蒼依がそう言いながら、視線をゆっくりと落としていく。
「私、あの時は笑いながら、いつも否定してた。まさか、ただの幼なじみだよ、って」
「覚えてる。そんなわけないだろって、俺も否定してたから」
春樹は、昔と同じような笑顔の蒼依を見ながら、試練で掲示された秘密という言葉を思い出していた。
「桜庭さんと橘くんって、付き合ってるんでしょ?」
「だって、いつも一緒だもん」
「そんなに仲良いんだし、将来は結婚式に呼んでね」
蒼依が一つ一つの言葉を確かめるようにしながら、懐かしむように呟いていく。
「ふふっ、小学生って感じでしょ? でも、素直で楽しかったな」
「あの時、正直ね。満更でもなかったんだ」
「“仲いい”って言われるの、ちょっと嬉しかった。私たちの関係が、ただの友達じゃないみたいで」
蒼依は静かに息を吸って、言葉を整えるように続けていく。
「でも、今は違う。その“仲いい”が、便利な言い訳みたいになっちゃってる気がして……」
言いかけて、蒼依はそこで止めた。そして結局、もういいでしょ、と強がるように付け足してしまう。
「で、でも、それは、やっぱり嫌っていうか——」
蒼依はもごもごと口ごもる。顔がだんだん赤くなっていくのが分かった。
「た、他意なんて別に無いんだから。ただの友達じゃないんだけどな、って思ってただけで……」
「それが、蒼依の秘密なんだな」
春樹がゆっくりとつぶやくと、蒼依は突然立ち上がり、勢いよく顔を振った。
「もう終わり! この試練、クリアってことでいいでしょ!」
「いや、待てよ。そんな急に——」
止める間もなく、スマホが震えた。
『試練クリア! 絆が深まりました。春樹の恋ごころ+30、蒼依の恋ごころ+25』
画面には、キラキラした液体が器に注がれるアニメーションが流れる。
春樹は自身の心拍数からして、蒼依よりもすこしだけ多い恋ごころで満たされていることに、密かに納得していたのだった。
「あー、恥ずかしい。き、今日のことは忘れていいから」
「こんな大切なことを忘れろっていうのか」
「なっ……そ、そういう意味じゃなくて」
春樹のちょっと真剣な言葉に、蒼依が顔を真っ赤にして否定する。
「すまん、俺も変なことを言ったかも」
顔が熱かった。柄にもないことを言っているなと、自分で気づいたからだった。
「別に、変なことじゃないけど」
うつむいていた蒼依が、消え入るような声で、小さくつぶやいた。
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