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36:黄麟2
しおりを挟む「―――アキの魂の欠片を、集めていた、だと?」
僕の言葉に、翡翠が息を飲んだのがわかった。
それがどうしたというのか?
愛しい風花を復活させるために、それは必然であり当然の処置である。
君だって、もう一度、風花に逢いたいだろうに。
「異界に散った風花の魂は、転生した体の命を奪うことで取り出すことが出来る」
「―――やはり……お前が、アキの転生体を―――殺し続けていたと、言うのか?」
「そうだよ」
にっこりと微笑んであげたら、翡翠の目はこれ以上ないくらいに見開かれて、燃えるような怒りの光を称えて、僕を睨みつけてきた。
わからないなあ。
これは、風花を復活させるために必要な処置だ。
何をそんなに怒る必要があるのだろうか?
己の全ての力を結集し、弊害となるものは全て薙ぎ払い消し去り、人の命も、竜の眷属も、何もかも、使えるものは全て使ってきた。
分子に近い程に散り散りに砕けた風花の身体を、ひとつひとつ、それこそ気が遠くなる程に長い時を掛け、拾い上げ搔き集め、再生した。魂の欠片は、どうしても、この世界から見つける事は出来なかったが、黒の領域で拾い上げた【贄】を使うことさえできれば可能と、目算は立っていた。
風花の身体の再生は完成したが、魂がなければ、この世に生み出すことは叶わない。
どうしたものかと、考えていた時に、ソイツは僕に語り掛けてきた。
『はじめの尊き黄色の竜よ、我が、力となり、尊きあなたの願いを叶えましょうぞ』
僕の耳元に囁いてくる声。
それは、古代の悪霊ーアビゲイルのものだった。
世界がはじまり人が生まれて間もない頃に、人の世界の掌握を望み、人々を惑わす毒となり、我ら「はじめの竜」が滅ぼし世界から消し去ったはずの悪霊アビゲイルは、この世に返り咲くことを虎視眈々と狙い、呪詛と化した魂を時の中に漂わせ、復活の時は今であると、あろうことかこの僕に取引を持ち掛けてきたのだ。
アビゲイルが持つのは、禁忌の魅了の能力。
遠い昔に人々を惑わした魅了の能力で、またも世界を手中に納めんとする目論見は最初から読めてはいたが、そんなものに、この僕が踊らされるわけもない。
ただ、使えるとは思った。
僕が再生した風花の身体に、アビゲイルの魂を植え付け、今世に誕生させれば、風花を世界に生まれさせることが出来る。そうして、風花の中のアビゲイルの魅了の力を使い、他の竜たちに血の誓いを交わさせて従わせ、僕の傘下に下らせることが出来れば―――。
この世に生まれた風花の身体を、僕が手づから育てて、美しく成長させ、その間に風花の魂を集め、魂を入れ替えれば、風花は僕だけのものとすることが出来る。今度こそ、他の竜になど絶対に渡しはしない。
そうしてこの世に生まれた子は、僕の風花そのままの光が透ける銀糸の髪に、太古の海の青を映した瞳を持ち、産みの母親から「アルラキス」と名付けられた。
『創世の女神』の生まれ変わりとして本神殿に親子共に住まうことになったアルラキスは、僕の顔を見るなり、赤子の分際でにやりと下卑た笑いを見せてくれた。中身は本当に、アビゲイルなんだと、僕はその時に理解し、いたたまれない気持ちになった。高貴なる僕の風花の中に、卑しいアビゲイルの魂が住み着いていることは、少々の我慢が必要だった。風花の魂を全て集めるまで、全ての魂を集めたら、アビゲイルの魂など、我が手の業火で焼き消してくれる―――。
さあ、風花の魂を迎い入れる準備は整った。
あとは、異界に散った風花の魂を集めるだけだが、ここに至るまでに様々な力を身に着けた僕であっても、異界に渡る力は持ち得てはいない。異界に渡る次元転移能力を持つのは、はじめの竜の中でも、黒き竜のみ。
黒い竜は、風花が砕け散ったあの時から隠棲しこの世界に姿を見せたことはないが、あの時―――何者かに呼ばれるように訪れた幻夢の木のもとで、僕は、花弁に眠る風花の魂のひと欠片の他に、ある拾い物をしていた。
幻夢の木のもとに、花弁に眠る風花の魂の守り人のように、生まれたばかりの黒い仔竜が身体を丸めて眠っていた。
この黒い仔竜の持つだろう次元転移能力を使えば、異界に散った風花の魂を手にすることが出来る。
僕に与えられた【贄】。
黄麟の心は踊っていた。
やはり、自分は風花に選ばれたのだ。
風花に愛され、風花を愛し、共に生きるたった一つの存在は、自分である。
心躍る黄麟は、黒き仔竜を呪いの檻に捕らえた。
瞬間、目を覚ました仔竜の瞳は―――黒き竜の持つ金色の瞳ではなく、愛する風花の青い瞳を思わせる深い瑠璃色の瞳をしていた。
―――あの色は、憎たらしくなるほどに、風花の青と同じだった。
これまでの自らの功績を、まるで美しい音楽でも聴くように目を緩め感慨深く思い出していた黄麟の前に、突如として次元の切れ目が現れて、空気を切り裂き鼓膜に響き渡る地響きのような音と共に、夜の闇のような黒き竜がその姿を現した。
成竜とは言えない成長途中の竜であっても、その恐ろしいまでのオーラは、場を圧するほどの威厳と力を纏っていた。
「――――――黄金色を被った闇の竜!!アカツキから離れろっ!!」
黒き竜の双眸は深い瑠璃色の中に、縦に割れた瞳孔から放射状に金色が広がっていたが、その、瑠璃色には黄麟は―――覚えがあった。
「どこぞで野垂れ死にしたと思っていたら、あの仔竜が随分と育ったものだ。せっかく拾った命を大切にしたらどうだ。翡翠同様、邪魔だてするなら、殺すよ?」
金色の雷を天より降らせる黄竜に、空が見る見るうちに黒雲を呼び、まるで夜のような暗闇が辺りを満たし始めた。
黒き竜の咆哮が金色の雷を跳ね除ける。
「今のおれは、お前に痛めつけられて、力を搾取され続けた、おれじゃない!」
「そのようだね?僕のあつらえた素敵な首輪がないようだけど、どうやって、呪縛を破ったんだい?君の力じゃ、無理だったろうに―――名無しの黒いだけの屑竜くん?」
馬鹿にするように卑下するように笑って見せると、若き黒竜が自分に向けて黒い雷を雨のように降らせてきた。
「おれの名前は、瑠璃だっ!!」
こんな力、何処から出しているのだろうか?
こんな力、ちょっと成長したからって、出せるわけがない。
過去に拾った僕の【贄】
『呪』を掛けた魔具を首に嵌め、その力は全て、我がモノとしたはずだったのに。
「アカツキがおれを助けて名前をくれた!だから、今度はおれは、アカツキを助けるんだ!!」
「邪魔だなあ。―――お前は、もういらないんだ」
嫌な、匂いがする。
もう、思い出したくもない、黒いアイツの、匂いが。
「アイツが出てきたら、面倒だから、もう、君達は消えてくれないかな?お前の力を使って次元を渡って、風花の魂を宿す転移体を殺しに行くのは、もう終わりだ。ソレさえ殺せば、最後の欠片は手に入る。―――風花の魂の欠片は、全て、僕のものだ」
光も射さない闇の中に高らかな黄麟の笑い声が響き渡り、彼は、人型から竜体へとその身を変貌させた。
その体は、黄竜を名乗る黄色い色ではなく、全身闇を纏ったかのように、真っ黒な鱗を全身に纏っていた―――。
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