11 / 16
11 決勝
しおりを挟む負傷した大会参加者の治療を続けていたが、やがて治癒師たちが少しずつ戻り、待機場は落ち着きを取り戻していた。
「ユイさん、今日は本当にありがとうございました。あとは私たちがやりますので」
ルシアさんにそう言われ、軽く会釈して待機場を後にした。
再び闘技場へ戻ると、熱気が渦巻いていた。
ちょうど先ほど治療した銀髪の青年がステージに立っていた。決勝ステージのようだ。今まで一番と思えるくらいの歓声が上がる。魔力を纏う彼の姿は堂々としている。
氷が咆哮し、炎が空を裂く。彼の戦いぶりは驚くものだった。氷の魔力を精密に操り、相手の攻撃を反射するその姿は、まるで氷の彫刻のように静かで、美しかった。
「すごい……」
やがて、観客席から黄色い歓声が上がる。
「ゼルフィ様ーっ!!」「かっこいいー!!」
彼が魔法を繰り出すたびに、少女たちが叫ぶ。彼の名前はゼルフィというのだろう。あまりの熱狂ぶりに思わず笑みが溢れた。
(若いのに……人気だなぁ)
そう思っていると、氷の刃が空を走る。会場全体を凍てつかせるような壮絶な一撃。
審判の旗が上がると、観客席が割れるような歓声に包まれた。
「優勝者はゼルフィ・アークウェル!!!」
思わず立ち上がって拍手を送った。
(すごい……本当に、すごい)
彼がこちらを見た。彼が手を降るだけで、近くの観客が「きゃー!私に手振ってくれたわ!!」と大きな歓声を上げる。
あの時、傷を癒やした青年が、今舞台の上で光を放っている。なんだか少しだけ、自分まで誇らしい気分になった。
夜の帳が、闘技場をゆっくりと包み込んでいた。日中の熱気を帯びた空気は、冷たい風に撫でられ、灯火が揺れる。淡い魔石灯が次々と点り、宵闇の空を彩るように光の帯が舞い上がる。
──大会の最後を飾る、特別な戦い。
《フィナーレ交流戦》
一年に一度、この大会の優勝者と王立魔道士団の筆頭が一騎打ちをする、伝説の舞台だった。
フィナーレを見ようと集まって来る人の波をかき分けながら、慌ててセレナを探していた。
「ユイ、こっち!」
鮮やかなサーモンピンクのドレス姿が見えた。セレナだ。
「早くしないと、フィナーレの交流戦始まるわよ!」
「えっ、もうそんな時間!?」
ふたりは観客席の階段を駆け上がるようにして、息を弾ませながら見つけた席に腰を下ろした。
直後、会場の中央──氷の装飾が施されたステージに、ひとりの青年が歩み出る。
銀の髪が光を反射し、淡い青の魔力が彼の足元を照らす。「あ、彼だ」と小さく呟いた。
司会の声が高らかに響く。
「今年の魔道士大会優勝者──ゼルフィ・アークウェル!!!」
割れんばかりの歓声が闘技場を揺らす。無数の拍手と、花火のように弾ける歓喜の声。観客の誰もがその名を叫び、若き才能の勝利を祝福していた。
その光景を見つめながら、胸の奥で静かに息を吐いた。
「すごいなぁ……」
セレナが微笑んで頷く。
「若いのに見事よね。でも──」
そのときだった。空気が、変わる。
風が止まり、場内のざわめきが吸い込まれるように静まる。次の瞬間、地鳴りのような歓声が一斉に爆発した。
「きゃああああああっ!!!」
「カイル様ぁ!!!」
会場の光が一点に集まる。静かに舞台へと歩み出た男。黒の軍装のような魔道士団の制服に、銀の刺繍が月光を受けて淡く光る。
その姿だけで、観客席の温度が一気に上がった。
カイル・ヴァレンティス
王立魔道士団筆頭──氷の団長。
長身の彼がゆっくりと歩を進めるたび、空気の粒が凍り、舞い上がる。ただそこに立つだけで、他の誰も近づけない。魔力の圧が肌を刺すほど強烈で、思わず息を止めた。
「……やっぱり……すごい」
声にならない呟きが漏れる。見惚れる、という言葉しかなかった。セレナが隣で笑う。
「ねぇ、あれ、ユイの“お知り合い”なんでしょ?」
「そ、そうだけど。でも……別人みたい……」
静寂の中、カイルさんは無言で右手を上げた。すると、舞台の中心から氷の柱が立ち昇り、光を反射して蒼白の輝きを放つ。まるで氷晶の城がその場に生まれたようだった。
「はぁ……」
その光景に息を呑む。魔法が美しい。心からそう思った。冷たく、鋭く、それでいて澄んでいて。誰よりも力強く、そして孤高に見えた。
最後の対戦が行われるというアナウンスと共に、ゼルフィも前に進み出る。氷の青年と氷の団長。二つの魔力が拮抗し、空気が震える。
「フィナーレ交流戦、開始!!!」
司会者の声が高らかに響いた。一拍の静寂。
次の瞬間、地を割るような轟音が響き、光と氷が交差し、戦いの幕が上がった。
魔法の閃光が夜空を裂く。会場の熱は頂点に達し、観客は息をすることすら忘れて見入っていた。
「カイルさん……」
彼が放つ一撃一撃に、心が震えた。強く、美しく、圧倒的で。夜の空を裂く魔力の光。
両手を胸の前に組みながら、ただ彼の背中を見つめていた。
21
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています
白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。
呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。
初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。
「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・
二人は正反対の反応をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる