私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸

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11 決勝

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 負傷した大会参加者の治療を続けていたが、やがて治癒師たちが少しずつ戻り、待機場は落ち着きを取り戻していた。

「ユイさん、今日は本当にありがとうございました。あとは私たちがやりますので」

 ルシアさんにそう言われ、軽く会釈して待機場を後にした。

 再び闘技場へ戻ると、熱気が渦巻いていた。

 ちょうど先ほど治療した銀髪の青年がステージに立っていた。決勝ステージのようだ。今まで一番と思えるくらいの歓声が上がる。魔力を纏う彼の姿は堂々としている。
 氷が咆哮し、炎が空を裂く。彼の戦いぶりは驚くものだった。氷の魔力を精密に操り、相手の攻撃を反射するその姿は、まるで氷の彫刻のように静かで、美しかった。

「すごい……」

 やがて、観客席から黄色い歓声が上がる。
「ゼルフィ様ーっ!!」「かっこいいー!!」
 彼が魔法を繰り出すたびに、少女たちが叫ぶ。彼の名前はゼルフィというのだろう。あまりの熱狂ぶりに思わず笑みが溢れた。
(若いのに……人気だなぁ)

 そう思っていると、氷の刃が空を走る。会場全体を凍てつかせるような壮絶な一撃。
 審判の旗が上がると、観客席が割れるような歓声に包まれた。

「優勝者はゼルフィ・アークウェル!!!」

 思わず立ち上がって拍手を送った。
(すごい……本当に、すごい)
 彼がこちらを見た。彼が手を降るだけで、近くの観客が「きゃー!私に手振ってくれたわ!!」と大きな歓声を上げる。
 あの時、傷を癒やした青年が、今舞台の上で光を放っている。なんだか少しだけ、自分まで誇らしい気分になった。



 夜の帳が、闘技場をゆっくりと包み込んでいた。日中の熱気を帯びた空気は、冷たい風に撫でられ、灯火が揺れる。淡い魔石灯が次々と点り、宵闇の空を彩るように光の帯が舞い上がる。

──大会の最後を飾る、特別な戦い。
 《フィナーレ交流戦》

 一年に一度、この大会の優勝者と王立魔道士団の筆頭が一騎打ちをする、伝説の舞台だった。

 フィナーレを見ようと集まって来る人の波をかき分けながら、慌ててセレナを探していた。

「ユイ、こっち!」
 鮮やかなサーモンピンクのドレス姿が見えた。セレナだ。
「早くしないと、フィナーレの交流戦始まるわよ!」
「えっ、もうそんな時間!?」

 ふたりは観客席の階段を駆け上がるようにして、息を弾ませながら見つけた席に腰を下ろした。
 直後、会場の中央──氷の装飾が施されたステージに、ひとりの青年が歩み出る。

 銀の髪が光を反射し、淡い青の魔力が彼の足元を照らす。「あ、彼だ」と小さく呟いた。

 司会の声が高らかに響く。

「今年の魔道士大会優勝者──ゼルフィ・アークウェル!!!」

 割れんばかりの歓声が闘技場を揺らす。無数の拍手と、花火のように弾ける歓喜の声。観客の誰もがその名を叫び、若き才能の勝利を祝福していた。

 その光景を見つめながら、胸の奥で静かに息を吐いた。

「すごいなぁ……」
 セレナが微笑んで頷く。
「若いのに見事よね。でも──」


 そのときだった。空気が、変わる。

 風が止まり、場内のざわめきが吸い込まれるように静まる。次の瞬間、地鳴りのような歓声が一斉に爆発した。

「きゃああああああっ!!!」
「カイル様ぁ!!!」

 会場の光が一点に集まる。静かに舞台へと歩み出た男。黒の軍装のような魔道士団の制服に、銀の刺繍が月光を受けて淡く光る。
 その姿だけで、観客席の温度が一気に上がった。

 カイル・ヴァレンティス
 王立魔道士団筆頭──氷の団長。

 長身の彼がゆっくりと歩を進めるたび、空気の粒が凍り、舞い上がる。ただそこに立つだけで、他の誰も近づけない。魔力の圧が肌を刺すほど強烈で、思わず息を止めた。

「……やっぱり……すごい」

 声にならない呟きが漏れる。見惚れる、という言葉しかなかった。セレナが隣で笑う。

「ねぇ、あれ、ユイの“お知り合い”なんでしょ?」
「そ、そうだけど。でも……別人みたい……」

 静寂の中、カイルさんは無言で右手を上げた。すると、舞台の中心から氷の柱が立ち昇り、光を反射して蒼白の輝きを放つ。まるで氷晶の城がその場に生まれたようだった。

「はぁ……」

 その光景に息を呑む。魔法が美しい。心からそう思った。冷たく、鋭く、それでいて澄んでいて。誰よりも力強く、そして孤高に見えた。

 最後の対戦が行われるというアナウンスと共に、ゼルフィも前に進み出る。氷の青年と氷の団長。二つの魔力が拮抗し、空気が震える。


「フィナーレ交流戦、開始!!!」

 司会者の声が高らかに響いた。一拍の静寂。
 次の瞬間、地を割るような轟音が響き、光と氷が交差し、戦いの幕が上がった。

 魔法の閃光が夜空を裂く。会場の熱は頂点に達し、観客は息をすることすら忘れて見入っていた。

「カイルさん……」  

 彼が放つ一撃一撃に、心が震えた。強く、美しく、圧倒的で。夜の空を裂く魔力の光。

 両手を胸の前に組みながら、ただ彼の背中を見つめていた。
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