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3、胸騒ぎ

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 アーヴィンがケネスに師事してから、一年が過ぎた。
「そろそろ、王国の剣術大会に申し込みをしよう」
「早すぎませんか? ケネスさん」
 ケネスは笑って言った。
「アーヴィンは筋が良い。俺が教えられることは大体覚えている」
 
 ケネスとアーヴィンは王都に行き、剣術大会への参加手続きを行った。
「あれは……マックス!?」
 アーヴィンは帰りに寄った飲み屋で、マックス達を見かけた。
「マックスも剣術大会に参加するのかな?」
 アーヴィンの呟きに、ケネスは口の端を上げて答えた。
「それは無いだろう。大会に参加するには、身元のしっかりした推薦者が必要だからな」
 ケネスの言葉をきいて、アーヴィンは目を見開いた。

「ケネスさん……元傭兵だと言っていたけど、もしかして名の知れた騎士なのですか?」
 アーヴィンの問いかけにケネスは首を横に振って笑った。
「ずいぶん昔の話さ。今はただの老いぼれだ」
「そんなことありません」
「いや、守るべき者も守れなかった。……アーヴィン、お前の父親は昔俺の相棒だったんだよ」
「え?」
 アーヴィンが聞き直そうとしたところで、マックスに見つかってしまった。

「アーヴィンに、老いぼれか。まだ生きてたのか」
「マックスさんこそ……まだ盗賊団を解散していないんですか?」
「言うようになったな、アーヴィン」
 マックスはニヤニヤ笑って、アーヴィンを上から下までジロジロと眺めた。
「ずいぶん真っ当な身なりをしてるじゃねえか。ま、盗賊だった過去は消せないがな」
「……」

 アーヴィンが黙っていると、ケネスが低い声でマックスに言った。
「失せろ、盗賊。アーヴィンに近づくな」
「へっ、今日はこの辺にしておいてやるよ」
 マックスは大人しく去って行った。アーヴィンは嫌な予感がした。
「気にするな、アーヴィン。奴はもう関係の無い人間だ」
「……はい、ケネスさん」

 アーヴィンとケネスは飲み屋を出て、町に帰っていった。
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