調律師カノン

茜カナコ

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21.救出

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「大変じゃないか! 僕も行くよ!」
 アデルの母親がいなくなったという話を聞いて、ベンジャミンはカノンとアデルに言った。
「それじゃ、夕食後に森の入り口で待ち合わせよう」
 カノンはアデルとベンジャミンに言った。二人は頷いた。

 夕食を終えて、カノンとベンジャミン、アデルは一度部屋に戻った。
「何を持っていこう? やっぱりこれは必要だよね」
 ベンジャミンは魔法のたいまつを取り出して、カノンに話しかけた。
「そうだね。ほかには……僕は薬草を持っていくよ」
「じゃ、そろそろ部屋を出てネズミに変身しようぜ」
 ベンジャミンとカノンは部屋を出て、変身魔法を使った。

 カノンとベンジャミンは生徒たちと先生にも見つからず、森の入り口に移動した。
「ここまでくれば、もう大丈夫だよね」
「ああ」
 カノンとベンジャミンは変身魔法を解いた。

「カノン! ベンジャミン!」
 アデルは先についていたらしい。森の入り口の木陰から顔を出した。
「お母さんは……きっとこの先で……」
 アデルは不安そうにそう言うと、カノンとベンジャミンの目を見つめた。
「早く行こう!」

 カノンは森に入っていった。
「待って、カノン」
 アデルが続いた。
「おいおい、あわてるなよ」
 ベンジャミンは魔法のたいまつをつけて、二人の後を追った。

 森の中は暗く、魔法のたいまつが照らすほんのわずかな空間しか見えなかった。
「アデル、ベンジャミン、気を付けて」
「カノンこそ、気をつけろよ」
 足元はぬかるんでいる。三人はゆっくりと森を進んでいった。
「……!」
 カノンは足を滑らせた。その先は小さな崖になっていた。

「……うぅ……誰か……」
 崖の下から、声が聞こえる。
「誰かいる!!」
 カノンは注意深く崖の下を覗き込んだ。真っ暗で何も見えない。

「……下りてみよう」
 カノンの提案にアデルとベンジャミンは頷いた。
「滑らないように気を付けて……」
 カノンはそう言うと先に崖を下りて行った。

「アデル! 女の人がいる!」
 アデルも急いで崖を下りた。
「……お母さん……?」
「……その声はアデル!?」

 アデルは母親に駆け寄ると、彼女を抱きしめた。
「お母さん、大丈夫?」
「ちょっと、足を怪我してしまって……ここから動けなかったんだよ」
「足?」
 カノンがアデルの母親の足元に魔法のたいまつを近づけた。彼女の足は変な方向に曲がっている。

「……ヒール!」
 アデルは回復魔法を使った。しかし、母親の足は治っていない。
「……!」
 アデルの手にカノンの手が重なった。その瞬間、ヒールの効果が桁違いに強くなった。
「カノン! 何をしたの?」
「……調律魔法をかけたんだ」

「調律魔法? それにこんな効果があるの?」
 後から来たベンジャミンがカノンに聞いた。
「うん、魔法を強くするやり方をエリス先生に教えてもらったから」
「それより、お母さんを早く町まで連れて行きたい!」
 アデルの言葉に、カノンとベンジャミンが頷いた。

「それじゃ、僕の肩につかまってください」
 一番背の高いベンジャミンが、アデルの母親に言った。
「……ありがとう」
「じゃあ、お母さん、森から出るよ」

 四人は森の入り口に向かって歩き出した。

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