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37.呼び出し

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フローラは目を覚まして、ベッドから出ると窓から外を見た。
「酒場で聞いたのは……今日……でしたよね。なにも起こらないといいけれど……」
見慣れない男性が、屋敷に向かって歩いてくるのが見えた。
 フローラは身支度を整えて、玄関に向かった。

「フローラ、どうしましたか?」
「トレヴァー様……」
 フローラが玄関から外に出ようとしたところで、トレヴァーがフローラに声をかけた。
「誰か、来たのですか?」
「えっと、あの……」

 フローラがトレヴァーに返事をしようとしたとき、ドアが激しくノックされた。
 ドアの外から男性の声がする。
「アルフレッド様! 大変だ! ドアを開けてくれ!」
「……フローラは中で待っていてください」
 トレヴァーはフローラが玄関の扉から離れたのを確認してから、ゆっくりとドアを開けた。
「いったい何の騒ぎでしょうか? 当家の主人にどんなごようでしょうか? ……おや? あなたは?」
 アビントンはドアの隙間から、屋敷の中をのぞきながら大きな声で言った。
「よお! 俺だ! アビントンだ! アルフレッド様はいるか?」

「アルフレッド様はまだお休みでございます。ご用件なら私がお伺いいたしますが?」
「大変なんだ! 町の奴らが教会の前で大騒ぎをしてるんだ! やつら、本当に教会に押しかけるとは思わなかった……」
 トレヴァーが玄関先でアビントンの話を聞いていると、騒ぎで起きだしたアルフレッドがやってきた。

「やあ、だれかと思ったらアビントンさんじゃないか。こんな朝早くから何のようだい?」
「アルフレッド様! 奴らが教会の餌食になる前に、助けてやってくれ!」
 アビントンはドアから玄関の中に入り、アルフレッドに訴えた。
「あいつら、教会が話を聞いてくれるわけなんかないのに! 集まって訴えれば聞いてくれるはずだと! ……俺は止めたんだ……」

 アビントンはそこまで言うと、大きく深呼吸をして、アルフレッドを見つめた。
「俺は、町の奴らが死ぬのを見たくない」
「大げさじゃないかな? いくら教会だって、罪のない人を殺したりは……しないとは言えないけど」
 アルフレッドは困ったような笑みを浮かべ、トレヴァーに言った。

「トレヴァー、馬車の用意をしてくれないか? 教会に向かったほうがよさそうだ。フローラも来てくれるかい?」
「はい……!」
 フローラは青ざめた顔で、頷いた。
「それではすぐに馬車の用意をいたします。アルフレッド様、フローラ、外出の準備をしてください」
「ああ」
「はい」

 しばらくして、トレヴァーは玄関の前に馬車をつけた。
「お待たせいたしました、アルフレッド様」
「ありがとう、トレヴァー。アビントンさん、乗ってください。フローラも」
 アビントンが進行方向に背を向けた席に座ると、アルフレッドが反対側の席に乗り、最後にフローラがアルフレッドの隣に座った。

「それでは、教会に向かいます」
 トレヴァーは馬を操り、馬車を走らせた。

 外には、今にも雨を降らせそうな、重い雲が立ち込めていた。
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