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56.イーディス
しおりを挟むイーディスが荷解きを終えたころ、アルフレッドはイーディスの部屋を訪ねた。
アルフレッドはドアをノックした。ドアが開く。中にいたイーディスに声をかける。
「失礼いたします、アルフレッドです。昼食の準備が出来たらお知らせしますが、それまでおくつろぎください。疲れたでしょう? 飲み物でも運ばせましょうか?」
「お心遣いありがとうございます。飲み物は結構です」
イーディスはピンと姿勢を正したままアルフレッドから目をそらし、部屋を一瞥した。
白を基調とした家具と、机に置かれた青い花瓶に生けられた白いバラ。ベッドも白いシーツに桜色のクッションが置かれ、清潔で明るい印象を受ける。
「素敵なお部屋ですね」
すました笑みを浮かべ、イーディスが言った。
「気に入っていただけて良かったです」
アルフレッドは屈託のない笑顔で答える。
「それに、アルフレッド様も伺っていたような方ではないようですね」
イーディスが白い手袋をはめた指先で口元を押さえて、アルフレッドを値踏みするような眼で見た。
「伯母のジェリーは私をどのように紹介したのでしょうか? ……聞くのが怖いです」
アルフレッドはイーディを見つめ、にっこりと笑ってから一礼し、部屋を出た。
***
応接間にもどったアルフレッドはため息をつき、フローラに言った。
「礼儀正しくするのは疲れるね。肩が凝ってガチガチだよ」
フローラが慰めるようにアルフレッドに微笑みかける。
「そんなに無理をしても……。本性が隠しきれるものでもないのでは?」
「本性って……。そんなこと言わないでよ、フローラ。伯母さんに僕がきちんと生活しているって伝わらなかったら、イーディスさんと結婚させられちゃうよ。あの人、なんか怖いし、苦手だな」
アルフレッドは両肩をすくめて首を左右に振った。フローラが机に置いてあった砂糖菓子をアルフレッドにすすめると、アルフレッドはそれを一つ指先で摘まみ上げて口に放り込んだ。
アルフレッドはフローラの向かいのソファにどっかりと座ると背中をソファに預け、天井を見上げた。
「イーディス嬢と何を話せばいいのやら……。思いつかないなあ。まさか魔道具の話をするわけにはいかないし」
アルフレッドが、今度は肘をソファの手すりにおいて頬杖をついてフローラを見た。
フローラが首をかしげてアルフレッドに尋ねる。
「イーディス様をどこかに案内される予定は無いのですか?」
アルフレッドの顔がパッと明るくなった。
「町を案内するか、教会を案内するか、両方か、考えてはいるよ? あ、一応バレエを見に行けるよう手配をしてあるから、その話をすればいいかな?」
フローラは方眉を上げて、アルフレッドを見た。
「バレエ?」
「うん。三人でバレエを見に行こうと思ってるよ?」
「……初めて聞きました」
「あれ?言ってなかった? 明日、バレエを見に行けるようトレヴァーに手配してもらったよ?」
アルフレッドはニコッと笑って机の上の砂糖菓子をもう一つ食べると、自分の部屋に向かって歩いて行った。
一人広間に残されたフローラは砂糖菓子を見つめたままつぶやく。
「バレエを見に行く? イーディス様とアルフレッド様と私の三人で? ……どんな格好をすればいいのかしら? それにしても男性が一人で女性が二人というのは大丈夫なのかしら……?」
フローラの眉間に深いしわが寄った。
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