悪役令嬢に転生したけれど、ヒロインを激推ししています

茜カナコ

文字の大きさ
11 / 15

11.パイ作り2

しおりを挟む
 キッチンにはクランベリーと砂糖が山のように用意されていた。
「パイシートも準備できているかしら?」
私が冷蔵庫の中を覗き込むと、三枚のパイシートが冷やされている。

「レミ様、パール様、エプロンをご用意しておりますから、どうぞお使いください」
私は、キッチンの脇に置いてあったエプロンをレミ様とパールたんに渡した。

「こんな格好をするのは子どものころ以来かしら?」
 レミ様がエプロンの裾を両手で持ってひらひらさせている。
「そうですね」
 パールたんは右手を口元に当てて、クスクスと笑っている。

「私も着替えますね」
 私は残っていたエプロンを身に着けた。
「それではお料理を始めましょう! お砂糖はこちら、お塩は……使わないので奥に置いておきましょうね」
私達はそれぞれ、こんろに鍋を置いてクランベリーと砂糖を入れた。

「うーん、もう少しお砂糖を足したほうが良いかしら?」
 私はわざと自分の鍋に塩を入れた。

「あ、リーズ様!? それはお塩では!?」
 レミ様が目を丸くして、大きな声を上げた。
「大変!」
 パールたんも心配そうに私を見つめている。

「あら? 私ったら、うっかりしたわ! でも、混ぜちゃえば大丈夫!」
 私は、鍋の中のクランベリーソースを木べらで混ぜてにっこり笑った。クライブがこの塩入クランベリーパイを食べたら、私のことを料理下手だと思って愛想をつかすはず……!

 パールたんとレミ様が顔を見合わせてから小さな声で言った。
「……少し変わった味になるのも面白いかもしれませんわ」
「……ええ」
 パールたんとレミ様は、眉を八の字にしたまま微笑んだ。

 しばらくクランベリーソースを煮詰めていると、レミ様が口を開いた。
「たまにはお料理も面白いですわね。でも、手が疲れてしまいましたわ」
 レミ様が木べらを持っていた右手を上げて、手首を回した。
「レミ様ったら」
 パールたんはなべ底が焦げ付かないように、丁寧に木べらを動かし続けている。

「あら? ちょっと焦げ臭いのでは?」
 私がレミ様の鍋を覗くと、クランベリーソースがボコッと大きな泡を作っている。

「まあ大変! ちょっと手を休めすぎてしまったかもしれませんわ!」
 レミ様が慌てて鍋の底を木べらで混ぜると、黒っぽいかけらがいくつか浮いてきた。

「……うまくいっているのはパール様だけですね」
 私は満面の笑みを浮かべてパールたんを見た。クライブもパールたんのクランベリーパイが一番おいしいというに違いない。そして、パールたんの魅力に気付くはず!

「あの……そろそろ、クランベリーソースを火からおろして冷ましませんか?」
 パールたんが遠慮がちに言った。
「そうですね」
 私とレミ様も鍋を火からおろし、キッチンの台の空いているところに鍋を置いた。

「今のうちに、パイを容器に敷きましょう」
 冷蔵庫からパイシートを取り出し、レミ様とパールたんに渡した。
「パイを作る器は、この中から選んでいただけますか?」
 私は空いているテーブルの上に金属の器を並べた。

「私はこれにしますわ」
 レミ様が両手から横にはみ出すくらいの楕円の器を選んでいった。
「じゃあ、私はこちらにします」
 パールたんは丸い器を持ち上げた。

「それじゃあ、私はこちらにします」
 私は長方形の器を選んで、残りの器をしまった。

「さあ、パイ生地を敷きましょう!」
 私たちはパイ生地を油を塗った器に敷いた。

「そろそろ、クランベリーソースも粗熱がとれたようですわ」
 レミ様が鍋に軽く手をふれて、にっこりと笑った。

私達はそれぞれ器の中のパイにクランベリーソースを入れて、パイ生地でふたをした。
 私は料理長を呼んで、三人のパイをオーブンの中に入れてもらった。

「美味く焼きあがると良いですね」
 パールたんが心配そうに言った。
「楽しみですわ」
 レミ様は両手を祈るように組んで目を輝かせている。

「焼きあがったら、お声をおかけします」
 料理長の言葉に頷き、私たちはエプロンを脱いで広間に移動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます

山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった 「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」 そう思った時すべてを思い出した。 ここは乙女ゲームの世界 そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ 私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない バットエンド処刑されて終わりなのだ こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

処理中です...