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1.悪魔との契約
しおりを挟む私には不死身の呪いがかけられている。
***
母さんの寝室のベッドの脇に、父さんと私は立っていた。
「あなた、坊やをお願いします。……私はもう」
やつれはてた母さんが、ベッドの中で力なく微笑む。
「お前は助かる! そのために俺は……契約を交わしたんだ!」
父さんが母さんの手を握り、母さんに訴えた。
「契約? ……何を言っているの?」
母さんは訝し気に父さんを見つめた。
私も父さんを見上げる。
父さんは母さんの手を放し、私の方を向いた。
「お前だって、母さんのためなら何でもするだろう?」
父さんは片膝をついて私の目を覗き込んだ。
私は何も言わず、素直に頷く。
その時、足元が震えるような低い声が部屋に響いた。
「よろしい、契約は成立した」
父の背から黒い影が立ち上がる。黒い影は人のような姿をしていた。ぎらりと光る赤い目が、私を見て三日月形に細められる。黒い影から低い声が発せられると空気が震えた。
「では、その女の命を助けよう。代わりに息子には不死の呪いをかける。永遠の命にとらわれた絶望は、さぞ甘美であろう」
黒い影は父の背から離れ、私の前にふわりと漂った。一瞬、血の香りがした。
「お前、起き上がってごらん」
父さんが母さんに言う。
「え? 起き上がれるわけが……」
母さんはベッドで上体を起こすと、目を瞬かせた。
「体が軽いわ? それに、息苦しさが消えたみたい……?」
父は母に抱きつくと、深く息を吐いた。
「これでもう、大丈夫だ」
「どういうこと? 貴方、契約って……?」
父さんは、母さんの問いかけには答えず涙を浮かべたままの表情で私を見た。
「母さんを助けられたんだから、永遠に生きるくらいなんでもないだろう?」
私は微笑んだ。
「母さん、元気になったの? よかった!」
幼い私は、何もわかっていなかった。
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