メシマズ配信と呼ばないで!

茜カナコ

文字の大きさ
1 / 1

おもってたのとちがう

しおりを挟む
 大学に入ったタイミングで一人暮らしを始めて一か月が過ぎた。
 新しい生活にも慣れてきたし、家事もこなせていると思う。
 そして、私は一人ぼっちの時間を持て余し始めた。

「ねえ、家で何してる? 杏(あん)ちゃん?」
 同じ講義をとっている杏ちゃんに、私は聞いてみた。
「ん? 動画見たり、動画みたり」
「動画ばっかじゃん」
 私がそう言うと、杏ちゃんはむっとした顔で私に言い返した。

「そういう優愛は何してんの?」
「私は……料理?」
「へー、自炊してるんだ。偉いね、優愛。私は実家だから、食事はお母さん任せだよ」
「偉くなんてないよ」
 私は照れて一応そう言った。けど本当は、けっこう料理には自信がある。
「SNSとかに上げないの?」
「うーん、そうだね……」

 家に帰ってから、私は考えた。
 前から配信者ってあこがれてたんだよね。今なら一人暮らしだし、自分で作った料理を動画で流すのも悪くないかもしれない。私はネットで動画配信の始め方を調べた。
 すぐにスマホだけでできる、動画配信の仕方をまとめたブログを見つけることができた。
 私はブログを見ながら、動画サイトのチャンネルを開設した。
「えっと、サイトの名前は……どうしよう? それに自分の顔をネットに出すのは、ちょっと怖いな……」

 部屋を見回すと、机の隅にこの前100均で買った、くまのパペット人形があることに気づいた。
「よし、これを使って動画を撮ろう! サイト名は『美味しい!くまちゃんねる』にしよう!」

 私はチャンネル登録をしてから、くまのパペットを左手にはめてスマホで料理動画を取り始めた。作るのは袋麺を使った、チャーハン。みそ味なのがポイントだ。
「うん、こんなもんかな?」

 動画とは別に、出来上がった料理の写真を撮ってプレビュー画面に設定した。
「いっぱい見てもらえるといいな……」
 私はスマホをホーム画面に切り替えて、机の上に置いた。

***

「おはよう、優愛」
「おはよう、杏ちゃん」
 一般教養の講義で、また杏ちゃんと顔を合わせた。
「あれ? 何見てるの?」
「え? ……別に」
 私はついさっきまで見ていた私の動画、『美味しい! くまちゃんねる』を見られないようにスマホを空いている席に置いた。

「あ、くまちゃんねる、凄いよね! 俺も見たよ!」
 声をかけてきたのは来生(きすぎ)爽(そう)君。オリエンテーションの時、隣の席だったこともあって、爽君は私に時々声をかけてくれる。
「くまちゃんねる、怖いもの見たさ? で、作ってみたらさ、味は結構良かったんだよ? 驚いたことに! だけど、見た目がグロいんだよね。つーか放送事故レベル?」
 私は思ってもいなかった爽君の言葉に衝撃を受けた。絶対、おいしそうにとれたと思ってたのに……。

 動揺を隠すために、違う動画に切り替えようとして私は驚いた。
「あ、『美味しい! くまちゃんねる作ってみた』って動画がもうあがってる!」
「それ、俺の動画だよ!」
 爽君は屈託のない笑顔でさらりと言った。
「そうなんだ……」

 作られた袋麺チャーハンは、切りそろえられた麺と、野菜の彩りが美しく、私の動画よりも美味しそうに映っている。パクリのくせに。
「くまちゃんねるってさー、犬の飯よりひどくない? わざとやってんのかな? だって、あの盛り付けセンスは……無いわ」
 杏ちゃんの言葉がグサリと刺さる。

「作ってる人は真剣だと思うよ!」
 私がむきになって言い返すと、杏ちゃんと爽君は顔を見合わせてから、笑った。
「ネタだよ」
 杏ちゃんが笑いながら言う。
「優愛はピュアだね」
 爽くんも笑いをこらえている。

「うう……」
 私は『美味しい! くまちゃんねる』を検索して、愕然とした。
(メシマズ配信ってまとめサイトにあげられてる……)
 私は思った以上に別の意味でバズっている自分の動画を見て、複雑な気持ちになった。
(絶対、リベンジしてやるから!)
 一人心に誓ったとき、講義が始まった。

 私の大学生活は、色々といそがしくなりそうだ。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...