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60、にゃんじろうが本を破きました

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橘 信司は目を離してしまっていた。
お店のお客さんから、悲鳴が上がった。

「きゃあ! 私の本が!?」
「お客様、どうされましたか!?」
アレスと信司が慌てて駆けつけると、にゃんじろうが机の上に置いてあったお客さんの本で遊んでいた。

「いけません! にゃんじろう!」
信司は急いでにゃんじろうから本を取り上げたが、もう遅かった。
本は、1ページだけだったが破れてしまっていた。
「申し訳ございません、お客様!」
アレスと信司は謝った。にゃんじろうは、キャットタワーの上に逃げ出してしまった。

「いいえ、お手洗いに行くのに、本をしまわなかった私も悪いんです」
「お名前とご住所を教えて頂けますか? 同じ本を取り寄せてお送りしたいのですが」
「名前はライラック。住んでいるのは、図書館の隣です」
「ライラック様、それでは本を探して近日中に送らせて頂きます」
信司がそう言うと、ライラックは悲しそうに首を振った。

「この本は父の形見で、絶版しています。もう手に入りません」
「そうでしたか。ますますもって、申し訳ございません」
信司とアレスは深く頭を下げた。

「そんなに謝らなくても大丈夫です」
ライラックは信司に言った。
「私、司書をしていますから、本の修理は得意なんです」
信司達に出来ることはもう無かった。

「それでは、おわびにドーナツとパンケーキの詰め合わせをお持ちください」
信司はそう言って、台所に行くと持ち帰りようにドーナツとパンケーキを作った。
「こちらをどうぞ」
「……ありがとうございます」
ライラックは礼を言って、信司からのお詫びの品を受け取った。

ライラックが帰った後、信司とアレスは落ち込んでいた。
「ちょっと目を離した隙に、こんなことがおきるんですね、信司さん」
「そうですね、アレスさん。油断していましたね」

二人はライラックの事を思い出して責任を感じていた。
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