ワイルド・ソルジャー

アサシン工房

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第1章 傭兵と軍人

第1話 荒野の傭兵

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 199X年。世界各地で戦争が相次ぎ、ようやく終息に向かおうとしていた。
 しかし、その代償として文明は荒廃し、法と秩序が失われた。荒野を支配するのは無法者たち、そして金で動く傭兵たちだ。

 黒い戦闘服に身を包んだ、長身で筋肉質な男が荒野を歩いている。
 金髪を肩まで伸ばしており、青く美しい瞳を持つ青年だが、その瞳の奥からは影を感じさせる。
 男の名はマティアス・マッカーサー。かつて裕福な家庭で育ち、戦争によって全てを失った彼は、冷徹な傭兵としてこの荒廃した世界を生き抜いていた。
 マティアスは少年時代から武術を身に付けており、貴族の子から傭兵に身を転じることに抵抗は無かった。

 マティアスは傭兵を募集している町にたどり着いた。この地は辺り一面荒野で、町の中はオアシスとなっている。マティアスの元に、今回の雇い主が現れた。

「お兄さん、君が私の依頼を引き受けてくれた傭兵さんだね。私はこの町の自警団を務めるケイト・ブラウンだよ」

 言葉を発したのは20歳程度の女性だ。気の強そうな雰囲気で半袖の戦闘服を着用している。快活な笑顔とは裏腹に、その瞳にはどこか狡猾さが垣間見える。

「私はマティアス・マッカーサーだ。無法地帯を生き抜いてきたから腕には自信がある」
「無法地帯を経験しているなら心強いね。見た感じ、君はガタイ良くて強そうだから安心したよ。弱い男じゃ頼りなくて背中は預けられないもの」

 マティアスが自己紹介をすると、ケイトはマティアスにボディタッチしながら言った。
 ケイトの仕草は明らかにマティアスを誘っているようだったが、マティアスは動じることもなく、淡々と仕事内容について尋ねる。

「今回の仕事内容を教えてくれ。いつでも準備はできている」
「このご時世で、しかも猛暑だから町の外にチンピラが大量発生していてね。傭兵さんの力を借りたいところだったんだよ。私と一緒に奴らを駆除してくれないかな」
「容易いことだ。無法者と戦うのは慣れている。あんたは戦うよりも身を守ることに専念してくれ。雇い主が死んだら報酬をもらえなくなってしまうからな」

 果たして猛暑がチンピラの大量発生と関係あるのか不明だが、マティアスはツッコミを入れることもなく即答した。

「大丈夫、私はそこらのチンピラにやられるほどヤワじゃないよ。伊達に自警団をやってるわけじゃないんだから」

 ケイトは持っている銃を器用に回しながら言った。そして今回の契約内容と今後の仕事について話し始める。

「報酬は敵一人につき500$ね。それと、この仕事が終わったら追加注文いいかな? 後で町に戻ったら付き合って欲しいの」
「報酬はそれで構わん。外にいる無法者などは雑魚ばかりだからな。その追加注文とやらはどんな内容だ?」
「それは今回の仕事を終えてからのお楽しみだよ。とにかく契約成立ね! 早速現場に向かうよ!」
(……変な女だ)

 ケイトはニコニコしながら言った。マティアスはケイトが何かを企んでいることを察していたが、自分への敵意は無いと判断し、彼女について行く。
 マティアスとケイトは町の外に出て、敵がたくさんいそうな場所へ向かう。
 マティアスはこの町に向かう途中で幾度となく無法者に遭遇していたので、敵が集まりやすい場所は把握していた。歩いている途中、ケイトが雑談を始めてくる。

「ねぇ、マティアスってとても寂しそうな目をしているよね。好きな人とか愛する人はいないの?」
「いないな。私の家族は数年前に死んだ。今の私に失うものは何もない」

 マティアスは淡々と返事をするが、その返答の裏には失った家族への深い悲しみが隠されていた。

(唯一遺体が見つかっていない弟のライナスだけが心残りだが、両親の死と同時に行方不明になったあの状況ではライナスとの再会は絶望的だろうな……)

 そんな思考を巡らせているうちに、ケイトの携帯電話に着信が掛かってきた。

「ごめん、ちょっと電話に出るね」

 ケイトはその場から少し離れ、マティアスに聞こえない小さな声で電話の相手と話をする。

「あ、もしもし、マスター! どうもこんにちはー! それでね……いい感じの傭兵さん雇ったんですよ~! あの、チンピラ一人につき1,000$でどうですか? じゃ、よろしくお願いします! ハイ、頑張りますんで。どうも~失礼しまーす」

 電話の相手はケイトの雇い主だ。ケイトはマティアスの報酬を半分もピンはねしようとしているのだ。マティアスはその事実に気づいていない。

「待たせたね! 先、進もう」

 2人は再び先へ進む。数分ほど歩くと、そこにはモヒカン頭・スキンヘッドの武装した無法者達で溢れかえっていた。
 その場にいるのは20数人ほどで、中にはバイクに乗っている男もいる。

「暑くてイライラするぜ~。暇つぶしにあの町のブツを略奪しに行こうぜ」
「分かったぜ。あの町には自警団の奴らがいるが、所詮素人集団よ」

 無法者達が話しているのが聞こえた。ここに来るのがあと数分遅れていたら、町は無法者達に襲われていただろう。
 マティアスとケイトは無法者達の前に姿を現す。

「そんなにイライラするなら私達が相手になってあげるよ! このモヒカン共め!」

 ケイトは自信満々に無法者達を挑発する。

「おめぇ、あそこの自警団の女じゃねーか。今度は新しい傭兵を雇って俺達の邪魔をする気か? あんまり俺達を怒らせんじゃねーぞ!」
「ほら! さっさと掛かってきなさい! 返り討ちにしてあげるからさ!」

 ケイトはマティアスの腕を当てにしているのか、やけに強気だ。

「ヒャーハッハ! たった2人で何が出来るってんだ? てめぇらまとめてぶっ殺してやるぜ!」

 無法者達が一斉に2人へ襲い掛かってくる。バイクの男達が猛スピードで2人に突進してきた。
 マティアスはバイクを軽々と避け、その瞬間に男の腕を片手で掴んでバイクから引きずり出す。
 持ち主から引き離された無人のバイクは遠くに走っていき、別のバイク男と衝突して派手に吹っ飛ばしながら停止した。
 マティアスは掴んだ男を仰向けに倒し、もう片方の腕でアーミーナイフを男の胸目がけて突き刺す。男は断末魔を挙げ、胸からは血しぶきを噴き出していた。

(凄い……あの素早いバイクの動きを一瞬で……。でも私だって負けていられないよ!)

 ケイトは銃を構え、狙いを定めて敵の頭部を次々と撃ち抜いていく。マティアスも襲ってくる敵を格闘技とナイフ技で蹴散らしながらケイトに呼び掛けた。

「なるほど、伊達に自警団をやっているわけではなさそうだな。だが油断するなよ。雇い主の生存が第一だ」
「分かってるよ。ヤバくなったら撤退するから大丈夫!」

 マティアスはケイトの身を心配しつつ、彼女に接近してきた敵を優先的に攻撃していく。ここで彼女に死なれてしまっては報酬が全て無くなってしまうからだ。
 そしてついにマティアスは最後の敵の首をへし折って倒した。幸い敵は近接武器しか持っていなかった為、得意の近接戦で軽々と片付けることが出来た。

「これでこの周辺は片付いたな。次の場所へ移動するか?」

 マティアスはまだ戦い足りないと言わんばかりに次の仕事場への移動を提案する。しかし、ケイトは遠くを見ながら青ざめた表情で言った。

「待って! なんかヤバい奴がやってきたよ!」

 遠くから一段と強そうな大柄な無法者がバイクに乗りながらやってきた。
 半裸の革ジャンと黒いヘルメットを身に着けており、目以外の素顔はほぼ見えない。この周辺の無法者の親玉だろうか。
 瀕死の無法者が親玉らしき男に話しかけた。

「ボス! 俺らのシマを荒らし回ってるのはこいつらです! 俺達の仇を討って……下さい……」

 瀕死の手下はそう言い残して息絶えた。親玉は手下の最期を看取ると、マティアスとケイトに声を掛ける。

「てめぇら、随分と俺の部下達を可愛がってくれたそうじゃねぇか。このまま帰れると思うなよ!」

 親玉は巨大な斧を振り回してきた。マティアスとケイトは攻撃をかわしつつ敵との距離をあける。
 ケイトは親玉との距離を取った後、銃で頭部を狙撃する。しかし、親玉はヘルメットを被っていてダメージはほぼ無かった。

「このアマ! 今まで散々俺の部下達をコケにしてくれたな! 今日こそはてめぇの首を頂くぜ! ……で、そこの金髪の男はこの女に雇われた傭兵か?」
「その通りだ。私は自分の利益の為だけに戦っている」

 マティアスが自分を利己主義者だと明かすと、親玉はひらめいたように微笑んだ。

(ならば雇い主を殺し、俺がこの傭兵を引っこ抜いて仲間にしてやろう!)
 
 親玉はバイクで真っ先にケイトへ向かって突進する。そしてケイトに接近した瞬間、親玉は巨大な斧を振り落とし、ケイトの右腕の手首を切り落とした。

「うぎゃあああああっ!!!」

 持っていた銃を地面に落とし、手首から血を噴き出して絶叫するケイト。マティアスは急いでケイトのもとへ向かう。

「ケイト、大丈夫か!?」
「だ、駄目だあぁぁぁ! こいつは強すぎる!! 退却!! 退却よ!!」

 ケイトは全力で逃げ出した。マティアスは雇い主の生存を第一に考え、彼女を逃がす為に親玉へ銃を向け発砲する。銃弾は体や腕に命中したが、親玉にとってはかすり傷程度だった。
 親玉はマティアスを無視し、すぐさまケイトを追いかけて回り込む。

「来るなあぁぁぁぁ!! 来るんじゃねぇぇぇぇ!!」

 恐怖と激痛で叫ぶケイト。親玉は再び斧を振り、今度はケイトの左腕も切り落とした。

「Noooooooooooo!!!」

 かつてない激痛に地面を転がり回って絶叫し続けるケイト。痛みで起き上がることも出来ず、次第に彼女の意識は遠のいていく。
 マティアスは急いでケイトのもとに駆け付ける。

「ケイト、死ぬな! ここであんたが死んだら私の給料はどうなる!?」
「マティアス、私の名前を呼んでくれてありがとう。君と……仲良くなりたかった……」

 ケイトはこの仕事が終わったらマティアスを自分の遊び相手として雇うつもりだった。彼女はそれが叶わなくなった無念と共に意識を失う。

「最後の一発くれてやるよオラ!」

 親玉は意識を失ったケイトめがけて斧を振り落とし、ついに彼女の胴体を真っ二つにした。
 かつての気の強い雇い主は、今や見るも無残な血塗れのバラバラ死体となってしまった。

(くっ! なんてことだ! 雇い主が死んでしまった! これでは無法者を狩っても意味が無い! しかし、このままでは私もやられてしまう……!)

 雇い主を殺され、報酬を水の泡にされたマティアスの表情には怒りと焦りが浮き出る。
 しかし、敵と自分の力の差は歴然だ。直接戦闘で勝てる相手では無く、逃げてもバイクで追いつかれるだけだ。
 もはや絶体絶命の状況。マティアスは報酬のことよりも生き延びる方法を考えた。
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