タツヤさんのハワイアン鉄板焼きショー

アサシン工房

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タツヤさんのハワイアン鉄板焼きショー

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 ハワイ・ワイキキの通りにネオンが滲んでいた。
 俺たちの目的地はハワイ名物の鉄板焼きチェーン店――その名も"ヤマダ・オブ・トーキョー"。
 シェフが厨房ではなく客の目の前でナイフとフォークを華麗に操りながら、豪快に料理を振る舞う和風料理店だ。
 入口で案内を待っていると、厨房の向こうには大柄から細身まで、色とりどりの男性シェフが鉄板の前で笑っていた。
 シェフたちの名札には「ジョー」「ウィリアム」「スティーヴ」「ダニー」など。ヤマダっぽい名前は1人もいない。逆に清々しいぜ。

「予約の4名、タツヤ様!」
「おう! 待ってたぜぇ~」

 案内された島型テーブルの向こう側から滑るように現れたのは、褐色の肌に白いコックコート、胸元の名札には"RAMAN"。笑顔が眩しい若い男だぜ。

「アロハ! わたし、ラマンと申します。本日のショー&ディナー、担当します!」
「よろしくナス!」
「YO! おいしく頼むぜ~」
「ラマン、楽しみにしているよ」
「ラマン、よろしくねー!」

 ラマンは片手でコテを回し、もう片手でオイルボトルを派手にスピンさせる。
 カチリと立てたコテの背で、塩胡椒シェーカーをタップダンスさながらに踊らせる。

「まずは前菜。エビ、野菜、そして……ロマンス!」
「ロマンス!?」
「はい、ロマンスは……ハート型ガーリックライスで提供します!」
「お、おう……ロマンチックだなー」
「おれ達、そういう関係に見られてる……?」
「さぁ? うまければ問題ない」

 鉄板がジュワァッ! とうまそうな音を立てる。ラマンはタマネギを輪に切り、筒状に積み上げる。
 オイルを垂らし、ライターに火を灯すと、深呼吸ひとつ。大量のモヤシを鉄板の上に乗せ、そして……。

「モヤシを燃やします!」
「ファッ!?」
「心は熱く、味は優しく。ヨガ・オニオン・フレイム&ヨガ・モヤシ・ファイアー!」

 火柱が派手に立ち、山盛りのモヤシが鉄板で燃やされる。ゴマ油の香りがふっと俺たちの鼻をくすぐった。

「いい匂いだ……」
「早く食いてーぜぇ~」
「楽しみだなぁ~」

 ラマンは卵を三つ空へ放り、コテの端でカンカンカンと連打。
 最後の一つを帽子のつばで受け、コツンと鉄板へ割り落とす。
 黄身は崩さず、白身だけ広げて薄いクレープに。そこへ刻んだネギとガーリックチップをパラパラ振りかける。
 クレープを折りたたむ指先の滑らかさに、ミカエルが小さく息を漏らす。

「手元が正確だ」
「ラマン、もしかして元マジシャンか?」
「いいえ、お母さんが厳しかっただけです!」
「そうなのか~。ママに感謝だなぁ~」

 場が温まったところで、ラマンはステーキとロブスターを乗せ、塩を高い位置からパラパラと降らせた。粉雪みたいだぜ。

「仕上げにハワイの風を――」

 彼はレモンを半月に切ると、空中でひねって果汁を弾丸のように飛ばす。散った香りに、ヨウスケが目を細めた。

「さわやか~」

 ここまで完璧だ。だが、山場は突然やって来た。

「では、お客さまへ、シュリンプ・トス! お口でキャッチ、できますか?」
「望むところだー!」

 レイさんが前のめりだ。ラマンは小さく切ったエビをヘラでぴょんと弾く。
 放物線、完璧……に見えたが、エビは思ったよりも高く、そして遠く……。
 ポスッ――!
 レイさんの額に直撃してしまった!

「アッー!」
「ご、ごめんなさい! ミスです! わたし、実は新人なのです! ほんとに、ほんとにごめんなさい……」

 ラマンは泣きそうになりながら両手で胸にコテを抱え、ペコペコ頭を下げた。コック帽が揺れる。

「だ、大丈夫だから……気にしなくていいぜ」
「味は逃げない。落ちた分は作り直せばいい」
「ほら、水。冷やそう」

 レイさんが笑いながら親指を立て、ミカエルが理知的にフォロー、ヨウスケが冷たいおしぼりを差し出した。
 俺は鉄板に落ちた小さなプリッとしたエビを眺めて肩をすくめる。

「ラマン。俺らだって失敗は日常茶飯事だ。多少のミスなんてどうってことないぜ。続けてくれ」
「ありがとうございます! もっと、がんばります!」

 ラマンの肩がふっと軽くなる。気を取り直して調理再開だ。
 モヤシに醤油を細糸で描き、湯気の向こうにスマイルマーク。
 ガーリックライスは心臓の形にまとめ、コテでドキドキと鼓動の音を刻むみたいに叩き、上に卵クレープのハートをそっと乗せた。

「ロマンス、完成です!」
「お、おう……これはめっちゃ映えるぜ!」

 ステーキはミディアムレア、刃を入れると肉汁が光の筋になって鉄板の上を走る。
 ロブスターの身はぷりぷり、バターとレモンの香りが合わさると、海が近くに寄ってくるような気分だぜ。
 そして、さっきのエビ――リベンジ・トス。

「今度は低めで、優しく……」

 ラマンは深呼吸し、ヘラをふわり。エビは短い弧を描き、ヨウスケの口へ、スポッ!

「やったぁ!」

 続けてミカエルも成功。レイさんは額ガードのポーズで笑い、俺は首をちょっとすくめて受け止める。

「ナイスコースだぜ」

 途中、再び小さなミスがあった。コテで弾いた卵殻がライスの端にコロン。
 ラマンは瞬時に気づき、無言でそれを取り除くと頭を下げる。

「すぐに気づいて行動するのがプロへの第一歩だ」

 ミカエルの言葉に、ラマンは照れ笑いする。
 ラストはフランベ。照明が少し絞られ、鉄板の炎が夜景のガラスに映る。

「ヤマダ・オブ・トーキョー、本日のヨガ・ベスト・ファイヤー!」

 オレンジの焔がすっと立ち、俺たちは拍手をした。ラマンはコテを胸に当て、静かに礼をする。
 ハートのガーリックライス、焦がしバター香るステーキ、レモンが効いたロブスター、しゃっきりモヤシ、甘い玉ねぎ、表面だけ焼いたアヒのタタキ。
 四人で箸を入れる。――うまい、絶品だ。
 米の粒立ち、にんにくの香りは強すぎず、肉は噛むほど甘い。
 レモンは刺さらず、背中を押す。モヤシはさっくり、塩が跳ねる。

「これは絶品だ!」
「額の代償を差し引いても余裕でプラスだな!」
「やさしい味。ハートも、ちゃんと鼓動してる!」
「ラマン、最高だぜぇ~!」

 ラマンは胸に手を当てた。

「本当にありがとうございます! 今日、最初のお仕事でした。だから……緊張して……ミスしてしまいました。次はもっと上手くやります!」
「今日の一皿がベンチマークだ。明日は“今日を越える”ってだけでいいんだよ」
「はい!」

 デザートのアイスが運ばれてくる頃、テーブルの向こうを他のシェフが通り過ぎる。

「いいね、ラマン!」
「グッジョブ!」

 仲間の声に、ラマンは照れたように親指を立てた。
 デザートを食べ終え、会計の時に俺は封筒を出した。チップを添えて。
 
「For RAMAN。ショーと、味と、勇気に」
「わぁ……ありがとうございます!」
「ミスしても、そこから立て直すセンスが一番のごちそうだったぜ」
「次、来た時は“額トス”以外で頼むどー!」
「はい、もうソフトトスだけにします!」

 外へ出ると、夜の湿った風と、遠くの波の音。通りのどこかでウクレレが鳴っている。
 俺たちはいっぱいになった腹をさすりながら歩いた。

「明日も海だな」
「朝一で泳いで腹を空かせて、昼にまたうまい飯を……」
「ラマン、きっとさらに上手くなってるよ」
「また行こうぜ。ヤマダ・オブ・トーキョー」

 ――ごちそうさま。明日もきっと、俺たちは絶品のハワイアングルメを楽しむだろう。
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