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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族のスタート2
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音の放った一言に、真っ先に反応したのはていりだった。
「十二乗さん、それはどういうことかしら?」
「文字通りよ。揃いも揃って何馬鹿なこと言ってんのって言ってんの」
音の言葉には迷いが無かった。後ろめたいことがあるならば絶対に存在するはずのない言霊。故に彼女の言葉は言っていた。私は、自分が正しいと信じていると。
「私だってそこまで頭が固いわけじゃないわ。あんたたちの言ってることが妄想じゃないってことぐらい分かってる。その上で言うわ。あんたたちは、馬鹿よ」
「へえ、理由は何かしら?」
「そこのシスコンに聞いてみたら?案外気付いてるかもよ」
「え、僕?」
混乱する縦軸。しかしどうして、頭は悟ろうとしていた。音とて血も涙もないわけではない。少なくとも血か涙のどちらか一方ではなく、血もある、且つ、涙もあるなのだ。そんな音なら気づくだろう。縦軸の作戦、その最大の難点に。
「……」
「虚君、何か心当たりがあるの?」
「縦軸君、黙ってないで答えてよ!」
「……十二乗、お前は優しいな」
「だから馬鹿なの?当然の配慮でしょ」
「はぁ。三角さん、先輩、彼女はこう言っているんだ」
虚愛の気持ちも考えてやれ
「……!」
「ねえねえ、どういうこと?ていりちゃん、縦軸君、どういうこと?」
「先輩、私たちは虚君の願いを叶えようとしています。でももし、それが虚君のお姉さん、愛さんの望みに反したとしたら?」
「……え?」
縦軸は気づけなかった。一度喪った最愛の姉を取り戻せる。目の前に突如現れたその可能性は、彼の目を眩ませるには十分だったのだ。
愛が生まれ変わっているとして、彼女にも向こうでの家族がいる。新たな人生がある。彼女が自分の力で掴もうとしている幸せを奪うかもしれない、縦軸の望みを叶えると言うことはそのリスクを伴うのだ。
「大体、あんたの話によればその愛さんって人、いじめられたから自殺したんでしょ?それで運良く異世界転生できたとして、何でわざわざこっちの世界に戻ってこようなんて思うのよ?」
「……」
「はぁ、何も言えないわね。あんたの我儘で私たちを振り回すのはまあ許すわ。でもね、その我儘であんたのお姉さん悲しませるかもしれないわよ。その覚悟はあんの?」
「……」
縦軸は言葉が返せなかった。音の言うことは間違っていなかった。それどころか9年間縦軸が気付きもしなかった問題を浮き彫りにして見せたのだ。
縦軸の中に顕現したこの感情は何だろうか。音に言い負かされたことへの悔しさか、昨日今日知ったばかりのクチで姉のことを勝手に語られたことへの怒りか、何も反論できない故の自己嫌悪か。答えなど分からない。この時の縦軸の感情を、決して現代文の問題なんかにしてはいけない。ただそこには、負の感情と分類されることだけは確かな化け物がいた。そしてそれは、どうやったのかは知らないが、縦軸を焚きつけた。
数秒の後、縦軸は音の胸ぐらを掴んだ。
威圧はそれほどでも無い。そんな覇気は縦軸には無い。しかし、縦軸が彼の向ける目の奥の情報にはそれ以上の力がある。
「虚君!なにやってるの!」
「縦軸君、乱暴はダメだよ!」
慌てて止めに入るていりと微。
「へえ、あんたってこういう時殴らないタイプだったんだ。いい子ね」
ていりと微によって引き離された2人は、しばらく睨み合っていた。
「……帰る」
教科書の入ったリュックを乱暴に掴み、縦軸は部室を後にした。
「縦軸君!」
「ほっときなよ先輩」
追いかけようとした微を音が止める。
誰も話そうとしない。縦軸のいなくなった部室には、ただただ3人の重たい空気だけが存在していた。まだ外は明るい。こんな時間に帰るのは帰宅部くらいである。
「……一緒がいいに、決まってる」
微が何を思ってこう呟いたのかは誰も知らない。だけどその声はていりと音には確かに届いていた。ただ反応が無かっただけである。
「十二乗さん、それはどういうことかしら?」
「文字通りよ。揃いも揃って何馬鹿なこと言ってんのって言ってんの」
音の言葉には迷いが無かった。後ろめたいことがあるならば絶対に存在するはずのない言霊。故に彼女の言葉は言っていた。私は、自分が正しいと信じていると。
「私だってそこまで頭が固いわけじゃないわ。あんたたちの言ってることが妄想じゃないってことぐらい分かってる。その上で言うわ。あんたたちは、馬鹿よ」
「へえ、理由は何かしら?」
「そこのシスコンに聞いてみたら?案外気付いてるかもよ」
「え、僕?」
混乱する縦軸。しかしどうして、頭は悟ろうとしていた。音とて血も涙もないわけではない。少なくとも血か涙のどちらか一方ではなく、血もある、且つ、涙もあるなのだ。そんな音なら気づくだろう。縦軸の作戦、その最大の難点に。
「……」
「虚君、何か心当たりがあるの?」
「縦軸君、黙ってないで答えてよ!」
「……十二乗、お前は優しいな」
「だから馬鹿なの?当然の配慮でしょ」
「はぁ。三角さん、先輩、彼女はこう言っているんだ」
虚愛の気持ちも考えてやれ
「……!」
「ねえねえ、どういうこと?ていりちゃん、縦軸君、どういうこと?」
「先輩、私たちは虚君の願いを叶えようとしています。でももし、それが虚君のお姉さん、愛さんの望みに反したとしたら?」
「……え?」
縦軸は気づけなかった。一度喪った最愛の姉を取り戻せる。目の前に突如現れたその可能性は、彼の目を眩ませるには十分だったのだ。
愛が生まれ変わっているとして、彼女にも向こうでの家族がいる。新たな人生がある。彼女が自分の力で掴もうとしている幸せを奪うかもしれない、縦軸の望みを叶えると言うことはそのリスクを伴うのだ。
「大体、あんたの話によればその愛さんって人、いじめられたから自殺したんでしょ?それで運良く異世界転生できたとして、何でわざわざこっちの世界に戻ってこようなんて思うのよ?」
「……」
「はぁ、何も言えないわね。あんたの我儘で私たちを振り回すのはまあ許すわ。でもね、その我儘であんたのお姉さん悲しませるかもしれないわよ。その覚悟はあんの?」
「……」
縦軸は言葉が返せなかった。音の言うことは間違っていなかった。それどころか9年間縦軸が気付きもしなかった問題を浮き彫りにして見せたのだ。
縦軸の中に顕現したこの感情は何だろうか。音に言い負かされたことへの悔しさか、昨日今日知ったばかりのクチで姉のことを勝手に語られたことへの怒りか、何も反論できない故の自己嫌悪か。答えなど分からない。この時の縦軸の感情を、決して現代文の問題なんかにしてはいけない。ただそこには、負の感情と分類されることだけは確かな化け物がいた。そしてそれは、どうやったのかは知らないが、縦軸を焚きつけた。
数秒の後、縦軸は音の胸ぐらを掴んだ。
威圧はそれほどでも無い。そんな覇気は縦軸には無い。しかし、縦軸が彼の向ける目の奥の情報にはそれ以上の力がある。
「虚君!なにやってるの!」
「縦軸君、乱暴はダメだよ!」
慌てて止めに入るていりと微。
「へえ、あんたってこういう時殴らないタイプだったんだ。いい子ね」
ていりと微によって引き離された2人は、しばらく睨み合っていた。
「……帰る」
教科書の入ったリュックを乱暴に掴み、縦軸は部室を後にした。
「縦軸君!」
「ほっときなよ先輩」
追いかけようとした微を音が止める。
誰も話そうとしない。縦軸のいなくなった部室には、ただただ3人の重たい空気だけが存在していた。まだ外は明るい。こんな時間に帰るのは帰宅部くらいである。
「……一緒がいいに、決まってる」
微が何を思ってこう呟いたのかは誰も知らない。だけどその声はていりと音には確かに届いていた。ただ反応が無かっただけである。
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