転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生遺族と自称ライバル7

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 少し前に遡って期末テスト1日目。1年の科目は数学α(αとβの2回ある)、古典、物理基礎。
 秀才のていりや彼女の個人レッスン(その横にRとハイフンと、多くの国で成人を意味する数字はつかない)で実力を伸ばした縦軸は難なくこなした。一方で、苦戦する者もいた。

(ムリ……二次関数、ムリ……)

 決して馬鹿なのではない。勉強すれば理解できるし、人並みに努力もできる。人並みであっても馬鹿ではない。それなのに、十二乗音は苦戦していた。諸悪の根源はテスト期間中毎晩深夜までパソコンに向かっていたことだが、そんなことを悔やんでも意味がない。
 音の声が空想の中で木霊したが、それが現実世界に影響することはなかった。


「次よ…………次は死なないわ……」
「死にそうな顔してどうしたのかしら?」
「あぁん?」

 音は素直な子だ。煽られて受け流せるような性格じゃない。ていりは賢い子だ。音が煽られて受け流せるような性格じゃないことは分かっている。

「これはこれは、三角ではありませんかぁ。今日は愛しの縦軸ダーリンとは一緒じゃないんですかぁ?」

 毎度毎度点数で一喜一憂する少年少女は、テストの点数が人格に影響することも少なくない。いい点を取れば聖人のようになり、悪い点を取れば不良(捨て猫は拾わない)になる。そんな現象が今、音に起きている。

「おめぇらはいいよなぁ。2人でイチャコラ楽しくお勉強してりゃ乗り切れるんだからよぅ」
「その様子だと……大変そうね」
「うっさいわ!」
「そんなあなたに相談なんだけど」
「こっちの話は聞かんのかい!」

 騒ぎ出す音に対し、ていりは狐のような、あるいは猫のような笑みを浮かべて近づいていく。

「な、何よ……!」
「ねえ、

 ゆっくりと、優しく、ていりの指が1本1本音の頬に添えられていく。その感触からか、見つめるていりの視線のせいか、音はていりを見つめたまま硬直していた。
 ていりの顔が少し近づく。その瞳の中には勝負に勝つことを確信した軍師のようであった。

「ちょ、み、三角⁉︎あんた何が目てk……」
「十二乗音さん」


 1組だったわよね?



 縦軸と微の誕生日から数日後、鳩乃杜高校は終業式を迎えた。補習に出なければいけないほどの成績ではなかったことは喜ばしい音だったが、その表情はあまり芳しくなかった。

「ったく、何で私があいつのために」

 先日謎のMMORPGを送りつけてきた友人が土産として寄越してきた某真面目なお菓子を頬張りながら、音は気配を消して歩いていた。


「十二乗さん、互君のこと探ってくれない?」


 ていりがそう頼んできた時点では、もちろん音も断る気満々であった。
 だがしかし、自分の窮地を救われた以上多少の手助けはしてやろうと思ったのだ。件の友人にもある程度ぼかして相談したところ、

「それは大変っす!是非とも助けてあげるっす!」

と返されたのでもう引くに引けないというやつである。
 現在除は少し先を歩いている。こちらに気付く様子はない。こんな尾行で分かることなどせいぜい住所ぐらいだろうが、何もせずにいたら何故か胸の奥が痛むのだ。

「べ、べつにていりのことが心配とかじゃないんだからね!」

 誰かに聞こえるわけでもないのに、抑え気味にそう呟く音。除に気づかれていないかと焦って前方に再び注意を向けたが、どうやら取り越し苦労だったようだ。



 そんな調子の尾行が15分ほど続いた。除に不穏な動きは無かった(無くて当たり前なのだが)。強いて言うなら蜜柑をぶちまけたお婆さんを助けたり、不良にナンパされていた男の娘を助けたり、急な風でメイド服が飛んできて、その持ち主と思われる20代頃の女性に口止めされていた程度だった。残念ながらていりが望むような情報は得られていない。
 ちなみにこの時の出来事を後日ていりに報告したところ、微妙に顔が青くなったという。

「暑い……もう帰ろうかしら。別にあいつだって1日でいきなり都合のいい情報が手に入るなんて思ってないだろうし」

 セミの声がもはやただのBGMになり、白いシャツは始めから汗で濡れていたかのようだ。

(この劣悪環境に慣れてしまうのはあの両親に屈するよりもまずい)

 丁度除が曲がり角に差し掛かり、その姿が視界から消える。丁度いい機会だ。もう帰ろう。音がそう思って踵を返し、虚家へと歩き始めたその時だった。

 首を掴まれた。咄嗟のことで少し硬直したが、考える間も無く自分の首を掴んできたものに対して手を伸ばそうとする。
 ギリギリでやめた。これ以上動くのはまずいと、首元から伝達される金属特有の冷たい触感が警告していたからだ。

「あなた、誰?」
「……⁉︎」

 声優のような可愛らしい声が、どす黒い感情を伴って音に放たれた
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