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第1章 民間伝承研究部編
転生遺族と自称ライバル11
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縦軸はていりに誘われて夏祭りに来た。
真夏にベタベタしている人々をみていると、暑くないのかと気になることがあったかもしれない。あるいはそんな些細なことなど考えたことがあろうがなかろうが変わらないかもしれない。だが今の縦軸にはわかる。
「縦軸、あっちで綿飴売ってるよ」
「うん、わかったから引っ張らないで」
ていりの体が近い。夏祭りという人が極めて多い場所なのもあってそれなりの熱気を感じられた。夜風が救いである。
「ねえていり」
「ん?」
「浴衣、似合ってるよ」
「ありがと」
「おーい、尊くなってるかー?」
「縦軸くーん、ていりちゃーん!」
音と微もやってきた。何故か音が微の後をついて回っている。
「先輩楽しそうですね」
「にへへ、2人も楽しい?」
「はい」
「もちろんです。縦軸と一緒ですから」
「あんたら暑くないの?」
先程から(正確には以前からだが)ていりの距離感はバグっていた。音が多少引くのも無理はない。それに対し、ていりは少し笑った。
「確かに、縦軸といっしょって思うと暑くなってくるわね。ところで十二乗さん」
ていりが音に近づいていく。そして誰にも聞こえないように耳元でそっと囁いて訊ねた。
「あの2人は?」
「あんたの予想通りよ。証拠あるけどどうする?」
「後でいいわ、ふふっ」
不敵に笑うていり。
「ていり、どうしたの?」
「何でもないわ。行こ、縦軸。デートの続きよ」
「なんつーか……徹底してるわよね、あんたら」
「あら、何のこと?」
「……」
ていりのその一言は縦軸にとって何かが蠢いているように思えた。影が伸びて来るような、何かに沈められていくような。
「…………音ちゃん、私は金魚掬いに向かいます。行きましょう」
「ちょ、え?そっちは金魚掬いじゃなくて射的……ま、待てこらー!」
2人は行ってしまった。ていりを押し付けられた縦軸の目にはていりの背から伸びる影が見えていた。
「ねえ、ていり……」
「行こ、縦軸」
珍しく笑っていた。厳密に言えば微笑む程度だったが確かにていりは笑っていた。珍しいことというのは言い換えると普通ではないということだ。
恋人ごっこが始まって以来、縦軸は困惑やら諦めやらに振り回されていた。ていり自身のことを考えてやる余裕を、知らず知らずのうちに失っていたのだろう。
ていりの心は読めない。読めたことがない。信頼はしているし、今の演技をやめても友達であることは確かだ。だが、縦軸がていりが何を思って何をしたいかを確信できたことは無かった。もしかしたら今、そのツケが回ってきているのではないだろうか。縦軸は、どこぞの唐の某元官吏とは似て非なる焦燥に駆られてきた。
射的に行った。ていりは慣れた手つきで銃に弾を込め、見事全てを景品に命中させてみせた。あるぬいぐるみを手に入れたところ、それが欲しかったと思われる子供が後ろで泣き出した。その子の親が困っていたところ、ていりがいつもの鉄面皮でぬいぐるみを子供に譲ることで丸く収まった。
「なんで他の景品まで?」
「邪魔だったから」
隣を歩くていりが振り向かずに答える。
「ねえていり」
「何?」
「優しいね」
子供に景品を譲るていりを思い出しながら縦軸は答えた。
「ありがとう。でもどうして」
「何となく。僕も助けられてるなって」
「どういうこと?」
「僕を最初に巻き込んでくれたのはていりだから。最初に手を差し伸べてくれたというか」
きっとていりがいなくても微は縦軸の魔力に気付いた。そこから先の出会いも消えることは無かっただろう。だがそれでも、縦軸にとってはていりが最初だった。
「私が縦軸を助けてる……それはそれで面白いかもしれないわ」
「どういうこと?」
「何のこと?」
分かりやすくはぐらかされる縦軸。この状況でていりに勝つ方法など思いつくはずもなかった。
「縦軸、普段はあんまり言わないけど私も縦軸のこと、助けたいって思ってるわ」
「え?う、うん」
「だから決めたわ。もう出し惜しみはあんまりしない。私は私のできることをするわ」
「出し惜しみ?できること?」
「すぐに分かるわ。だから待ってて」
よく分からなかった。だが
「分かったよ」
この少女のことを縦軸は信じていた。
「そういえば平方さんは?」
「互君を誘って来てるはずよ。探す?」
「そうだね」
そんな話をしていると、件の人物たちは向こうからやって来た。
「三角さん、虚さん、こんばんは」
「三角さん、浴衣姿も綺麗だね」
よく印象に残る声優あるいは幼女のような声とひたすら暑苦しく芯の通った声。
ていりの表情が少し暗くなる。ていりは成をじっと見つめたまま、ただ静かに黙り込んでいた。
「2人とも楽しそうですね」
「三角さん、夏祭りを楽しんでるかい?もし縦軸とのデートが退屈なら俺が……」
「3人とも、行きましょう」
拳を叩きつけるかのような除の声をていりの凛とした声がかき消す。
「先輩たちは金魚掬いに行ったのよね?じゃあ私たちもそこへ行きましょう」
「ああいいとも!縦軸、勝負といこうじゃないか。三角さん以外でも俺は負けないぞ!」
「あ、はい……」
除に絡まれて困惑する縦軸。
するとていりが突然縦軸の腕を引き寄せて自分に近づけた。側から見たら何とも可愛らしい仕草だが、縦軸はそうは言っていられなかった。耳元でこう囁かれたからだ。
「迷惑かけてごめん。今日で終わるから」
真夏にベタベタしている人々をみていると、暑くないのかと気になることがあったかもしれない。あるいはそんな些細なことなど考えたことがあろうがなかろうが変わらないかもしれない。だが今の縦軸にはわかる。
「縦軸、あっちで綿飴売ってるよ」
「うん、わかったから引っ張らないで」
ていりの体が近い。夏祭りという人が極めて多い場所なのもあってそれなりの熱気を感じられた。夜風が救いである。
「ねえていり」
「ん?」
「浴衣、似合ってるよ」
「ありがと」
「おーい、尊くなってるかー?」
「縦軸くーん、ていりちゃーん!」
音と微もやってきた。何故か音が微の後をついて回っている。
「先輩楽しそうですね」
「にへへ、2人も楽しい?」
「はい」
「もちろんです。縦軸と一緒ですから」
「あんたら暑くないの?」
先程から(正確には以前からだが)ていりの距離感はバグっていた。音が多少引くのも無理はない。それに対し、ていりは少し笑った。
「確かに、縦軸といっしょって思うと暑くなってくるわね。ところで十二乗さん」
ていりが音に近づいていく。そして誰にも聞こえないように耳元でそっと囁いて訊ねた。
「あの2人は?」
「あんたの予想通りよ。証拠あるけどどうする?」
「後でいいわ、ふふっ」
不敵に笑うていり。
「ていり、どうしたの?」
「何でもないわ。行こ、縦軸。デートの続きよ」
「なんつーか……徹底してるわよね、あんたら」
「あら、何のこと?」
「……」
ていりのその一言は縦軸にとって何かが蠢いているように思えた。影が伸びて来るような、何かに沈められていくような。
「…………音ちゃん、私は金魚掬いに向かいます。行きましょう」
「ちょ、え?そっちは金魚掬いじゃなくて射的……ま、待てこらー!」
2人は行ってしまった。ていりを押し付けられた縦軸の目にはていりの背から伸びる影が見えていた。
「ねえ、ていり……」
「行こ、縦軸」
珍しく笑っていた。厳密に言えば微笑む程度だったが確かにていりは笑っていた。珍しいことというのは言い換えると普通ではないということだ。
恋人ごっこが始まって以来、縦軸は困惑やら諦めやらに振り回されていた。ていり自身のことを考えてやる余裕を、知らず知らずのうちに失っていたのだろう。
ていりの心は読めない。読めたことがない。信頼はしているし、今の演技をやめても友達であることは確かだ。だが、縦軸がていりが何を思って何をしたいかを確信できたことは無かった。もしかしたら今、そのツケが回ってきているのではないだろうか。縦軸は、どこぞの唐の某元官吏とは似て非なる焦燥に駆られてきた。
射的に行った。ていりは慣れた手つきで銃に弾を込め、見事全てを景品に命中させてみせた。あるぬいぐるみを手に入れたところ、それが欲しかったと思われる子供が後ろで泣き出した。その子の親が困っていたところ、ていりがいつもの鉄面皮でぬいぐるみを子供に譲ることで丸く収まった。
「なんで他の景品まで?」
「邪魔だったから」
隣を歩くていりが振り向かずに答える。
「ねえていり」
「何?」
「優しいね」
子供に景品を譲るていりを思い出しながら縦軸は答えた。
「ありがとう。でもどうして」
「何となく。僕も助けられてるなって」
「どういうこと?」
「僕を最初に巻き込んでくれたのはていりだから。最初に手を差し伸べてくれたというか」
きっとていりがいなくても微は縦軸の魔力に気付いた。そこから先の出会いも消えることは無かっただろう。だがそれでも、縦軸にとってはていりが最初だった。
「私が縦軸を助けてる……それはそれで面白いかもしれないわ」
「どういうこと?」
「何のこと?」
分かりやすくはぐらかされる縦軸。この状況でていりに勝つ方法など思いつくはずもなかった。
「縦軸、普段はあんまり言わないけど私も縦軸のこと、助けたいって思ってるわ」
「え?う、うん」
「だから決めたわ。もう出し惜しみはあんまりしない。私は私のできることをするわ」
「出し惜しみ?できること?」
「すぐに分かるわ。だから待ってて」
よく分からなかった。だが
「分かったよ」
この少女のことを縦軸は信じていた。
「そういえば平方さんは?」
「互君を誘って来てるはずよ。探す?」
「そうだね」
そんな話をしていると、件の人物たちは向こうからやって来た。
「三角さん、虚さん、こんばんは」
「三角さん、浴衣姿も綺麗だね」
よく印象に残る声優あるいは幼女のような声とひたすら暑苦しく芯の通った声。
ていりの表情が少し暗くなる。ていりは成をじっと見つめたまま、ただ静かに黙り込んでいた。
「2人とも楽しそうですね」
「三角さん、夏祭りを楽しんでるかい?もし縦軸とのデートが退屈なら俺が……」
「3人とも、行きましょう」
拳を叩きつけるかのような除の声をていりの凛とした声がかき消す。
「先輩たちは金魚掬いに行ったのよね?じゃあ私たちもそこへ行きましょう」
「ああいいとも!縦軸、勝負といこうじゃないか。三角さん以外でも俺は負けないぞ!」
「あ、はい……」
除に絡まれて困惑する縦軸。
するとていりが突然縦軸の腕を引き寄せて自分に近づけた。側から見たら何とも可愛らしい仕草だが、縦軸はそうは言っていられなかった。耳元でこう囁かれたからだ。
「迷惑かけてごめん。今日で終わるから」
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