転生遺族の循環論法

はたたがみ

文字の大きさ
69 / 167
第1章 民間伝承研究部編

転生遺族の邂逅3

しおりを挟む
「にしてもどうすんのよ。お姉さんと傾子さんが見つかったって連れ戻す方法は無いんでしょ。詰んでるじゃない」
「まあね」

 2人だけの会議は続く。事態は進展したものの依然こちらからは手を出せない状況だ。

「向こうへ行く方法があればいいんだけどね」
「そうね。何かないの?」
「何かって……」
「実際あんたや先輩みたいなのがいるんだし、どこかに向こうの世界に行く力を持った人がいるかもよ」
「探すのにどんだけかかるんだよ」

 音とて自信があって言っているわけではない。現実的な手段があるならば、それはだろう。

「ねえ虚、本当にあて無いわけ?」
「あったら苦労してないよ」

 相変わらずこの話題は遅々として進まない。音もそろそろ心が一旦折れてきた。

「もう部屋で休んだら?私もやることあるし」
「そうだね。ありがとう」
「何でお礼言うのよ」
「気遣いだろ?お前優しいから」
「う、うっさい!いいからさっさと行った行った!」

 縦軸は穏やかに2階の部屋へ戻ろうとする。

「ねえ」

 何故か呼び止められた。

「何だよ」
「何で私だけ『十二乗』なの?三角は『三角さん』だし平方は『平方さん』じゃない」
「ああ、確かに」

 縦軸はこの時初めて気づいた。

「知り合った頃は『十二乗さん』だったわよね」
「そうだったな」
「何で?」

 縦軸は数秒悩んだ。真面目に正解を検討したものの、出てきた答えは至って単純で曖昧だった。

「才能じゃないかな。十二乗の」
「何それ」
「知らないよ」

 この時2人の間でこれ以上の会話は生まれなかった。



 ドアを閉めて鍵をかける。ガチャンという音が耳に届き、縦軸はため息を零した。

「失敗したな」

 部屋のドアに背中を沿わせながら縦軸は腰を下ろす。
 音との会議の最中、縦軸は自分の失敗に気付いてしまった。それが悔しくて悔しくて、部屋に戻ってから動く気力すら湧かないのだ。
 傾子に転移のスキルを与えておけば良かった。そうすれば愛は連れ戻せたし、それが出来なくても微と傾子を再会させることも簡単だった。

「向こうへ行く力……無理だよ」

 自分は転生させることしか出来ない。誰かが死なないと何もできない。

「誰かが死ぬ……か」

 ふと勉強机に目が向く。引き出しの中には例のハサミだ。懐かしい代物だ。かつてあれを手に取った頃のことが思い出される。
 あの頃、縦軸は空っぽだった。姉がいなくなったことに絶望して最後は死を選ぼうとした。〈転生師トラックメイカー〉が発現しなければどうなっていただろう。

「結局僕も、同類なのかな」

 未だ縦軸が死なない理由は大きく2つある。
 1つはスキルの存在だ。これを極めた先に希望があるのではないかと、そんなものに縋っている。
 そして2つ目は家族や作子、最近で言えばていりたちの存在だ。自分が死ねば彼らは悲しむ。それを身をもって知っているからこそ、「自分が転生して愛を探しに行く」という選択肢を捨てられるのだ。

遺族こっちの身にもなってくれよ……お姉ちゃん」

 いや、それは無理難題かもしれない。
 いじめられている人間にことは幾つかある。例えば逆上しないこと。相手より強かろうが弱かろうが無力だろうが手を出してしまったら後で教師に理不尽に叱られてしまう。次に身内に悟らせないこと。家族にまで追求されてしまえば本人にとっては安心できる場所が1つ消失される事態だからだ。ただしこれは曲者だ。毎日毎日苦痛に耐え続けていると精神が荒んでくる。

 そして大事なこと、これらは正しいとは限らない。被害者ほんにんがただそうしたいだけ。痛みを避けた故の苦痛。正しくないからこそ救われないのだ。

「……取り敢えず寝よう。晩ご飯までまだ時間あるし」

 今だけは思考を捨てたい。八方塞がりの中で縦軸はそう負けたのだった。



 まず夢と認識できたのがおかしい。

「明晰夢か。初めてだな。にしてもここって……どこですか」
「どう見たって山の中だろ」

 自然に返答が返ってきた。しかもよく聞き慣れた声で。

「あなた……誰ですか」
「どう見たってだろ」

 深い深い山の奥、虚縦軸は虚縦軸と会話していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

修復術師は物理で殴る ~配信に乱入したら大バズりしたので公式配信者やります~

樋川カイト
ファンタジー
ソロでありながら最高ランクであるSランク探索者として活動する女子高生、不知火穂花。 いつも通り探索を終えた彼女は、迷宮管理局のお姉さんから『公式配信者』にならないかと誘われる。 その誘いをすげなく断る穂花だったが、ひょんなことから自身の素性がネット中に知れ渡ってしまう。 その現実に開き直った彼女は、偶然知り合ったダンジョン配信者の少女とともに公式配信者としての人生を歩み始めるのだった。

処理中です...