転生遺族の循環論法

はたたがみ

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第1章 民間伝承研究部編

転生遺族の邂逅2

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 の存在に気づくことができたのは縦軸だからだろう。

「縦軸君、いたって?」
「あそこに大きな犬みたいなのがいるのわかりますか」
「わあ、本当だ!おっきなワンちゃん!モッフモフ!」

 微が子供のようにはしゃいでいる。だが縦軸の本命はその大きな犬ではない。

「そのおっきなワンちゃんの近くにいるあの人、どこか見覚えありませんか」

 縦軸は優しく訊ねる。微をその答えにそっと案内していくように。

「……まるで、というか典型的なエルフね……エルフ?……!まさか虚君」
「その通りだよ三角さん。先輩、分かりましたか」

 縦軸が微を見ると、その頬を一筋の涙がすっと流れていた。泣き声は無く、その顔はただ呆然としている。彼女の中に今何があるのかは分からない。きっとそれは無闇に訊くことでもないし彼女だけの宝物なのだろう。

「……私、元気だよ、お母さん」

 彼女がその言葉を零したとき、すでに〈天文台〉は解除されていた。

「唐突すぎたかな」

 崩れ落ちて泣き笑う微の背中をさすりながら縦軸は消失していくかのような声で少しだけ反省した。



「今日はこれで解散です!みんな、今日も一緒に帰ろ」

 少し目元を腫らした微がそう宣言する。
 互いに友達と認め合う仲の縦軸たちはいつも通りならこのまま一緒に帰るはずだっただろう。だがしかし、この日はていりがこう提案してきた。

「先輩、私と成の3人でちょっと本屋寄りませんか」
「え、何で?」
「おすすめの小説があるんです。異世界ものじゃないですけど」
「いいよ。でも縦軸君と音ちゃんは?」

 そう訊かれたていりが縦軸を方を向く。ほんの一瞬彼の目を覗き込んだ後、微の疑問に答えた。

「また十二乗さんの成績が危ういので」
「ちょっと!」
「虚君の家で勉強会です。あんまり人が多くても集中できませんから」
「なるほど!分かった。音ちゃん、頑張れ!」
「余計なお世話よ」


 というわけで縦軸たちは校門で2組に分かれた。

「それでそれで、どんな本なの?」
「いわゆる百合と呼ばれるものですね」
「ゆり?」
「そこからですか。成、説明」
「はい!百合というのはですね……」

 楽しそうに会話しながらていりたちが遠くなっていく。そしてそんな彼女たちを後目に音が呟いた。

「帰るわよ」
「うん」

 縦軸も無抵抗に返事をした。
 帰り道はいたって静かで、音は縦軸の顔を見ることは無かった。ただ、いつもより縦軸の歩く速さがいくらか増しているように音には感じられた。



 家の鍵を開けて中に入る。縦軸がまず玄関をくぐり、それに続いた音がそっとドアを閉めた。

「虚」

 唐突に音が縦軸に話しかける。

「もういいわよ」

 次の瞬間、縦軸は

「ああっ……あっ……うあああ…………」

 目から溢れる大粒の涙。どう足掻いても漏れる嗚咽。
 微と反応は一見似ている。しかし微のそれがどこかすら感じられるほど静かだったのに対し、縦軸の姿は無様だった。

「ったく、あんたも人のこと言えないわね」

 音は結局、縦軸の感情が濁流を収めるまでその場を動くことはできなかった。



「いつから気づいてたの?」

 リビングにて落ち着いた縦軸が音に訊ねた。冷蔵庫から玄米茶を取り出しつつ音が答える。

「ていりがあんたの方をちらって見たとき。こりゃ露骨にあんたに何かあったのを伝えてるって思ったのよ」
「三角さんも気づいてたのか」
「あいつがあんたハブるわけないでしょ。全く、先輩に気ィ使ったんでしょうけどさっきのは流石に引いたわよ」
「悪かったな。みっともないとこ見せて」
「別にいいわよ。シスコンコミュ症賢者に期待なんてしてないから」
「相変わらずだな。その酷い言い様」

 互いによく冷えた玄米茶を一口含み、思考の整理を始める。ほとんど確信を持っていた音はダメ押しで切り出した。


「うん」
「確証は?」
「100パー、と言いたいところだけどまだ8割」
「8割も自信あるんだ、初見で……」

 音は素直に感心した。

「顔は当然変わってたけどね。雰囲気とかまるっきり一緒だったから。傾子さんもいたし」

 この姉弟の絆、あるいは縦軸の一方的かもしれない執念は侮れない。縦軸が今まで仕掛けてきた布石が動き出そうとしている。
 自分も行くところまで行こう。音は既に縦軸の友達であり仲間になっていた。
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