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第二章
【居場所ならここに 03】
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「まだ17歳でこんな目に遭って……本当はお家に帰って、ご家族に会いたいでしょう? それなのに懸命に前を向こうとしていて……。とても、立派だと思います」
「え、あっ」
若子は恋唯が想定している若子の事情が、実際のものと大きく異なっていることにようやく気付いた。
普通の家庭に生まれ、家族に愛されて育った女子高生なら、家に帰りたいと泣きじゃくっていただろう。
「あの、恋唯さん、あたし……元々、家族とうまく、いってなくて」
「そうなんですか」
「その……ね! 愛されてなかったんです、家族に! だから家に帰っても居場所がないっていうか、どこにいても同じかな~って!」
わざと明るく振る舞うしかない若子の目尻に、じんわりと涙が浮かんでくる。
事実なのに、口にすると一層惨めな気持ちになってしまう。
「……向こうで、SNSで知ったまりあ姫って人に憧れていたんです。その人がとても幸せそうに見えたから。あたし、その人みたいになりたくて……そしたらとんでもないことになって、あたしが、あたしがバカだったから。全部自業自得なんです……」
苦しかった思い出が次々に脳裏に蘇ってくる。
あのまま向こうの世界にいたとしても、結局若子は、誰からも愛されなかったのだろう。
恋唯は若子に手を伸ばすと、頬を伝う涙を、指先で静かに拭ってやった。
「じゃあ、しばらくは私の隣にしましょう」
「え?」
「若子さんの居場所です。しばらくは私の隣ということにしませんか? 私も知らない世界で一人きりで生きていくのは心細いですから、若子さんがいてくれると、とても嬉しいので」
「……あたし、一緒にいて、いいんですか?」
「はい。私も右も左も分からなくて、結構不安なんですよ。だから、一緒にいてくれませんか?」
恋唯が手を差し出した。若子の目からぼろぼろと涙がこぼれ落ち、差し出された手を両手で掴む。
「あのっ、あ、あたし、本当にバカで……! 勉強の足を引っ張るかもしれなくて……そ、それでも……」
「私だって、そんなにですよ? そんな、やる前から心配しなくても」
「恋唯さんに嫌われたくないです……!」
「そんなことで嫌ったりしませんから」
「うわ~ん!」
「あらあら」
幼児のように泣きじゃくり始めた若子の背中を、恋唯は笑いながら撫でてやった。
地下から出て、夜の森を前にしたときと同じだ、と若子は思う。
恋唯は大人で、優しくて、温かくて。若子を傷つけるようなことは絶対にしない。
泣き顔を何度も見せてしまった恥ずかしさと、ずっと二人でこうして寄り添っていたいという気持ちが、胸の中でごちゃごちゃになっている。
生きていて良かったと、今は心底思う。
元々居場所なんてどこにもなかったはずなのに、いっそ死んだ方が自分の尊厳が守られるような気さえしていたのに、生きることだけは諦められなかった。
誰かと一緒にご飯を食べたかったから。
誰かがあたしのことを好きになってくれるかもしれないから。
ひょっとしたら、愛してくれるかもしれないから。
そんな細くて薄っぺらな望みにしがみついて、ようやく行き着いた先に、恋唯がいたのだ。
「え、あっ」
若子は恋唯が想定している若子の事情が、実際のものと大きく異なっていることにようやく気付いた。
普通の家庭に生まれ、家族に愛されて育った女子高生なら、家に帰りたいと泣きじゃくっていただろう。
「あの、恋唯さん、あたし……元々、家族とうまく、いってなくて」
「そうなんですか」
「その……ね! 愛されてなかったんです、家族に! だから家に帰っても居場所がないっていうか、どこにいても同じかな~って!」
わざと明るく振る舞うしかない若子の目尻に、じんわりと涙が浮かんでくる。
事実なのに、口にすると一層惨めな気持ちになってしまう。
「……向こうで、SNSで知ったまりあ姫って人に憧れていたんです。その人がとても幸せそうに見えたから。あたし、その人みたいになりたくて……そしたらとんでもないことになって、あたしが、あたしがバカだったから。全部自業自得なんです……」
苦しかった思い出が次々に脳裏に蘇ってくる。
あのまま向こうの世界にいたとしても、結局若子は、誰からも愛されなかったのだろう。
恋唯は若子に手を伸ばすと、頬を伝う涙を、指先で静かに拭ってやった。
「じゃあ、しばらくは私の隣にしましょう」
「え?」
「若子さんの居場所です。しばらくは私の隣ということにしませんか? 私も知らない世界で一人きりで生きていくのは心細いですから、若子さんがいてくれると、とても嬉しいので」
「……あたし、一緒にいて、いいんですか?」
「はい。私も右も左も分からなくて、結構不安なんですよ。だから、一緒にいてくれませんか?」
恋唯が手を差し出した。若子の目からぼろぼろと涙がこぼれ落ち、差し出された手を両手で掴む。
「あのっ、あ、あたし、本当にバカで……! 勉強の足を引っ張るかもしれなくて……そ、それでも……」
「私だって、そんなにですよ? そんな、やる前から心配しなくても」
「恋唯さんに嫌われたくないです……!」
「そんなことで嫌ったりしませんから」
「うわ~ん!」
「あらあら」
幼児のように泣きじゃくり始めた若子の背中を、恋唯は笑いながら撫でてやった。
地下から出て、夜の森を前にしたときと同じだ、と若子は思う。
恋唯は大人で、優しくて、温かくて。若子を傷つけるようなことは絶対にしない。
泣き顔を何度も見せてしまった恥ずかしさと、ずっと二人でこうして寄り添っていたいという気持ちが、胸の中でごちゃごちゃになっている。
生きていて良かったと、今は心底思う。
元々居場所なんてどこにもなかったはずなのに、いっそ死んだ方が自分の尊厳が守られるような気さえしていたのに、生きることだけは諦められなかった。
誰かと一緒にご飯を食べたかったから。
誰かがあたしのことを好きになってくれるかもしれないから。
ひょっとしたら、愛してくれるかもしれないから。
そんな細くて薄っぺらな望みにしがみついて、ようやく行き着いた先に、恋唯がいたのだ。
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