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第二章

【きっと美味しい 03】

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「すみません。リリーのこと、ありがとうございます」
 その日の夜、恋唯と若子の部屋を、カミルが訪ねて来た。リリーからロッゲンの話を聞いたらしい。
「リリーちゃん、お兄ちゃんにお話したんですね!」
「はい。リリーにとっては、僕に話すのも勇気がいることだったんだと思います。背中を押して下さって、ありがとうございます」
 礼儀正しいカミルの姿に、若子は胸の奥がチクリと傷んだ。
 異母妹がいるという点では若子とカミルは同じなのに、その関係性はあまりにも違う。
「ロッゲンがリリーに意地悪なことをしているのは知っていました。でも石を投げるまで悪化しているのは知らなくて。明日、僕があいつに釘を刺しにいきます」
「いえ……カミルくんは学校がありますし、リリーさんと約束しましたから、私に行かせて下さい」
「でも……」
「そう言えば、そのロッゲンさんは、学校に行っていないのでしょうか? リリーさんと同い年くらいでしょうか」
「ロッゲンはリリーより一つ上です。オーマン家は共同学校には入れず、家庭教師をつける方針みたいで、ロッゲンにはあまり友だちもいないんです」
「へえ、それはちょっと可哀想ですね」
 若子は相槌を打ちながら、でも学校に行けば友だちが出来るというわけでもないか……と自分の境遇を再び振り返った。
「あの、恋唯さん。ロッゲンくんに会うとき、あたしも一緒に行きたいです!」
 自分も何か役に立ちたいと若子は意気込んだが、恋唯は物憂げだ。
 若子が診療所ですれ違う男性患者にさえ怯えていたのを、恋唯は知っている。
「若子さん、街には色んな人がいますが、大丈夫ですか」
「そ、そろそろ体力つけなきゃですしっ!」
 前向きな姿勢を見せる若子に、恋唯もその気持ちを尊重したくなって頷いた。自分がついていれば大丈夫だろう。
 それから、事実関係を把握しようとカミルに尋ねる。
「あの、リリーさんからご両親のことを聞いたのですが」
「あ、もう聞いたんですか? どの辺りまで……?」
「アルバン先生は再婚で、リリーさんとカミルさんのお母さんが違う、というところまで、です」
「ああ、そうなんですね」
 カミルが青い目を少し伏せた。
「……僕はリリーのこと、大切な妹だと思っています」
「ちゃんと伝わっていますよ」
 強い気持ちが籠もった言葉に、恋唯が目を細める。
「ロッゲンは……リリーのことが好きなんですよ。だからいつも気を引きたくて……それから、リリーと同じ家に、僕がいるのも気に入らないみたいです」
「あっ、そういうことですか? 好きの裏返しみたいな……!?」
「好きだからと言って、何をしてもいいわけではありません」
 ちょっとはしゃいでしまった若子が、恋唯の言葉にしゅんとする。
「あ、すみません……。ただ、私はそう思います」
「い、いえっ、恋唯さんの言うとおりなので……っ!」
「……すみません、コイさん。知り合ったばかりの方に、こんなに気にかけてもらって」
 申し訳なさそうな顔をするカミルに、恋唯が礼を言う。
「気にする必要はありません。ベルガー家の方々にはとてもお世話になっています。カミルさんには勉強を教えてもらっていますし、リリーさんには元気をもらっていますから」
 だからこのくらいのことはやらせてほしいと、恋唯は言外に込めた。
「そう言ってもらえると嬉しいです。ロッゲンも……本当はそんなに、悪いやつじゃないんです」
 カミルはロッゲンと親交があるのか、庇うようなことを口にする。
「リリーのこと、お願いします」
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