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第四章

【許すということを 05】

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「すっ、すみません! 急に……」
「いえ……こちらこそ……いい大人なのに、泣いたりして……。対応に困りますよね、若子さんも」
「そんなことありません! なんかすごく……ドキドキします!」
「え?」
 若子の腕の中で、恋唯が身じろぎをする。離さないといけないとは思うのに、離れがたくて、若子は抱き締めたままでいた。
「みっともないところを見せてしまって、ごめんなさい」
「いいんですよ! あたしのほうがみっともないところ見せまくってきたじゃないですか! それに、大人だって泣いていいと思います! ……キレイだし!」
「綺麗? どこが……いやですよ、恥ずかしいです」
 恋唯に腕をツンツンされて、若子は渋々腕を離した。
 涙を拭った恋唯は赤いままの目元で、乱れた髪を直すために髪紐を解いた。
 若子はドキドキしたまま恋唯が髪を結び直す一連の仕草を見守り、それが終わると同時に口を開く。
「じゃあ、あたしの前では泣いていいことにしましょうよ!」
「え?」
「恋唯さん、前に言ってくれたじゃないですか。恋唯さんの隣をあたしの居場所にしましょうって……。それと同じで、あたしの前では、恋唯さんは好きなだけ泣いてもいいことにしましょう!」
「それは……大人としてどうなんでしょう」
「これは大人と子どもの話じゃなくて、恋唯さんとあたしの話なので!」
「分かるような、分からないような……ふふっ」
 思わず笑い出した恋唯に、若子はホッとした。
 恋唯さんは不思議な人だと改めて思う。泣いているとドキドキして、笑っていると、若子まで嬉しくなってしまうのだ。
「……あら?」
「どうしました?」
 恋唯が扉のほうに目を向けて、不思議そうな顔をする。
「一瞬ドアが開いて、リリーさんがいた気がしたのですが……。通り過ぎただけでしょうか」
「何か用事だったんですかね?」
 若子は抱き締め合っているところをリリーが見たのかもしれないと思ったが、まあいいかと深く考えなかった。
 特に見られて困ることでもないと、そのときは思ったのだ。
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