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第四章
【穏やかな日々 03】
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「いいえ、前から騎士団時代の同僚だった方に、地元の護衛団に入ってほしいと誘われていたのですって。だからここに送られて来る異世界人は、あなた達で本当に最後になったの」
「召喚自体はまだ続くのでしょうか?」
「どうかしらね。どうもゲマフトで神官様に聞いた話だと、異世界人を喚ぶことに熱心なのは神官長だけで、若い神官たちはそもそもあまり乗り気ではないみたい」
どうやら神官の間でも、考え方の違いはあるようだ。
「結局私たちやイストさんがいなくなったことは、大して問題になってないのですね」
「イスト様は行方不明として扱われているそうだけど、元々慕われるような方でもないし、真相を調べようとする人もいないみたい」
「そうですか」
若子に手を握られて、恋唯が肩を寄せる。
「……コイさんは、イスト様にいなくなってほしかったのね?」
「そうですね。どこへ行ってしまわれたのでしょう?」
「恋唯さんだけじゃないです」
震える声で若子が言う。
「あ、あたしだって……っ」
「分かっていますから、大丈夫ですよ」
寄り添い合う二人の異世界人を、アリッサはじっと観察していた。
他に寄る辺が無いかのように肩を寄せ合う二人。そうしていると、まるで無力な少女たちのように見える。
けれど実際は、この二人が脱出したその日に、王族が一人消えているのだ。
「……本当の意味で、地下で飼い殺しにされていたのはイスト様なのよね。王家絡みは本当にドロドロしてるわ」
恐らくイストと地下に閉じ込めていた異世界人の失踪を、国として大ごとにしたくはないのだろう。
ハンスが咎められなかったのも、彼が国の名医であるアルバンの兄であることが知られているからだ。
「実は私、娘を見習おうと思って。明日オーマン家へ納品に行くから、イルザと少し話してみるつもりなのよ」
「納品……イルザさん、どこか悪いのですか?」
「ああ、そうじゃなくて。ブドウ畑に寄って来る害虫を食べる益虫の誘引剤を毎年頼まれてるの。学生時代の研究が思いがけないことで役に立ってびっくりよ。イルザに会ったら、穏やかに世間話くらいしてくるわ」
「流石、リリーさんのお母さんですね」
恋唯が口元に笑みを浮かべる。
「許すということが、出来る……」
「完全に許してはいないわよ。ロッゲンくんと違って、あの子は謝らないもの」
アリッサは苦笑した。大人はどうしても、変わることが難しい。
「召喚自体はまだ続くのでしょうか?」
「どうかしらね。どうもゲマフトで神官様に聞いた話だと、異世界人を喚ぶことに熱心なのは神官長だけで、若い神官たちはそもそもあまり乗り気ではないみたい」
どうやら神官の間でも、考え方の違いはあるようだ。
「結局私たちやイストさんがいなくなったことは、大して問題になってないのですね」
「イスト様は行方不明として扱われているそうだけど、元々慕われるような方でもないし、真相を調べようとする人もいないみたい」
「そうですか」
若子に手を握られて、恋唯が肩を寄せる。
「……コイさんは、イスト様にいなくなってほしかったのね?」
「そうですね。どこへ行ってしまわれたのでしょう?」
「恋唯さんだけじゃないです」
震える声で若子が言う。
「あ、あたしだって……っ」
「分かっていますから、大丈夫ですよ」
寄り添い合う二人の異世界人を、アリッサはじっと観察していた。
他に寄る辺が無いかのように肩を寄せ合う二人。そうしていると、まるで無力な少女たちのように見える。
けれど実際は、この二人が脱出したその日に、王族が一人消えているのだ。
「……本当の意味で、地下で飼い殺しにされていたのはイスト様なのよね。王家絡みは本当にドロドロしてるわ」
恐らくイストと地下に閉じ込めていた異世界人の失踪を、国として大ごとにしたくはないのだろう。
ハンスが咎められなかったのも、彼が国の名医であるアルバンの兄であることが知られているからだ。
「実は私、娘を見習おうと思って。明日オーマン家へ納品に行くから、イルザと少し話してみるつもりなのよ」
「納品……イルザさん、どこか悪いのですか?」
「ああ、そうじゃなくて。ブドウ畑に寄って来る害虫を食べる益虫の誘引剤を毎年頼まれてるの。学生時代の研究が思いがけないことで役に立ってびっくりよ。イルザに会ったら、穏やかに世間話くらいしてくるわ」
「流石、リリーさんのお母さんですね」
恋唯が口元に笑みを浮かべる。
「許すということが、出来る……」
「完全に許してはいないわよ。ロッゲンくんと違って、あの子は謝らないもの」
アリッサは苦笑した。大人はどうしても、変わることが難しい。
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